Ⅳ.豊穣神フレイ
〈名前〉
ラテン文字表記すればFreyrとなり、「主人」という意味を持ちます。対して、先のフレイヤはFreyjaで「女主人」ですから、どうやら「Frey」という部分が主人を意味するようですね。こちらも、農民たちにとっての主人なのか、神々にとっての主人なのかははっきりしません……。
〈属性〉
フレイの父は海神ニョルズで、双子の妹にフレイヤがいます。もともと彼はオーディンらアース神族と敵対していたヴァナ神族で、停戦時に人質としてアースガルドに連行されてきました。この際、アース神族側はヘーニルとミーミルを送っています。そして長い時が過ぎるにつれ、彼ら三柱の神は次第にアース神族に同化していきます。
〈外見・性格〉
彼はバルドルと同じように見目麗しい風貌で、性格にとりたてて指摘するほどの難があるわけでもない、好青年といった位置づけにあります。また、内外ともに欠点がないことからか、彼は多くの財産を持っており、その中には黄金の猪グリンブルスティや魔法の帆船スキーズブラズニル、さらには光の妖精の国であるアールヴヘイムなどがあります。その他自動的に敵と戦う強力な魔法の剣もありましたが、これは彼と同じように素晴らしく美しいゲルドという女巨人を見事フレイのものにさせた部下、スキールニルに褒美として与えてしまいました。これが原因で、ラグナロクではムスペルヘイムの巨魔スルトに打ち取られてしまいます。彼のこの高性能な剣は、固有名詞が伝わっておらず、一般的には勝利の剣という呼ばれかたをされていますが、レーヴァテインという剣であるという説があります。また、このレーヴァテインですが、ややこしいことに彼を殺すスルトが持つ剣こそそれだという説もあります。
〈豊穣の神〉
豊穣神としては、先ほど出てきたグリンブルスティに乗って天から花や果実をミッドガルドに撒くという役割を担っています。なお、この「豊穣神」という肩書は、彼にはあって当然です。なぜかと言いますと、彼の出身であるヴァナ神族は、豊穣神族であるためです。ですから当然、妹のフレイヤも豊穣神としての能力が備わっています。また、人間たちは彼らを多産の神としてもあがめており、特に彼を模した像は巨根を持っているものが常です。ですが、私はひとつ疑問を抱いています。実は彼、こんなにも美しい妻を娶って、さらには多産の神と崇められているにもかかわらず、子供が一人もいないのです。一方フレイヤはフノスとゲルセミという姉妹を生んでいるほか、愛人がこれでもかという程います。ここから考えるに、この疑問に対しての解答は、フレイは豊穣、つまり自然の繁栄を、対してフレイヤが人間の繫栄を司ることに役割が分化したのだと考えられます。とはいえこれではフレイの像の特徴に矛盾してしまいますが――この件に関しては他の像との区別化を図って付け加えたものと解釈すれば良いかと。
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