第二章:神々

Ⅰ.最高神オーディン

 〈名前〉

 名前の由来は古アイスランド語の「oðr(怒り狂った)」やドイツ語の「wut(怒り)」と関係しており、「怒り狂ったもの」という意味だと考えられます。英語ではWodanウォーダンと呼ばれ、古代ゲルマン由来の「水曜日Wednesday」という単語の原型にもなっています。


 〈属性〉

 彼は文字通り「最高」の権力を持っています。魔槍グングニルを用いればある程度の巨人であれば必殺ですし、ミーミルの泉の水を飲むことによって膨大な知識を得ることに成功しています。最年長であり、全てを創造した挙句、文武両道の権化となった彼に逆らうものは、もはや神の中にはいないと言ってもいいでしょう。 

 また、彼の宮殿グラズスヘイムには神々が集まり会議をしますし、アースガルドにある彼の玉座、フリズスキャルブに座ると世界中の出来事をすべて把握でき、なおかつ一人一人の意図まで見透かせるといいます。さらに両肩にはフギン(思考)とムニン(記憶)という名の二羽のワタリガラスが留まっていて、ヴァルハラ宮にいる時にはゲリとフレキという貪欲な狼が常に足元に居座っています。これだけの要素があれば、もう彼を神々の王と認定しない人はいないと考えます。こうしてみると、有名なギリシャ神話の最高神ゼウスとは真反対の印象を受けます。彼は妻の尻に敷かれていた……とまではいかずとも、ヘラには頭が上がらないことがしばしばありましたから。

 追記しますと、ワタリガラス(レイヴン)は死肉を食べることから、北欧では死の象徴として考えられています。フギンとムニンはオーディンの貪欲な知識欲を満たすため、知見を広げる役割をしていますが、私にはどうもそれ以外の働きもしていると思われます。足元に居座るゲリそしてフレキの強欲さは、いわば生命力の高さを表しているとすると、つまりはオーディンが生と死の両方を司るという暗喩にもなっているとも考えられます。


 〈オーディンに関する三つの挿話〉

 ここからオーディンに関する話をいくつか紹介していきます。これだけでも北欧神話の価値観がなんとなくわかるはずです。

 一つ目は、彼が戦いでだけでなく、文武の「文」の部分、つまり知恵をも手に入れることとなった話です。

 神話の世界の時間軸があるとすれば、この話は初期の方の出来事です。ある時オーディンがヨツンヘイムの果てにあるミーミルの泉を訪れました。実はこの泉、その水の中にはあらゆる知識が詰まっており、飲むことによってとてつもない量の知識・智慧を身に着けるとこが出来るのです。その噂を聞いたオーディンは、神界の支配者に相応しい頭脳を手に入れようとして、到着すると早速ミーミルに泉の水を飲ませるよう要求しました。するとミーミルは「お前の光が欲しい」と言ったので、彼は片目をためらうことなく泉に投げ入れ、見事無限の知識を獲得しました。

 二つ目の話は、ルーン文字の起源についてです。ルーン文字とは、最初の六つの文字から別名フサルク文字とも言われているゲルマン諸国の用いた古代文字のことです。後世には神秘文字として呪術系統の場面で使われることが多くなるこの文字も、オーディンが発明したと伝えられています。

 彼は世界樹ユグドラシルに「自らを自らに捧げる」という人間には理解できそうにない奇行をとります。その行為は九日間にも及び、さらには槍で自分を突き刺すなどします。そして十日目にこのルーン文字をひらめきました。

 ラグナロクが到来した際、彼は魔軍の中でも特に獰猛なフェンリルと対峙することになります。フェンリルは口を大きくあけ、上あごは天をかすめ、下あごは大地を抉り、鼻からは炎を噴出しています。その勝負の行方は、オーディンの敗北に終わります。しかし、彼が飲み込まれてしまった後、すぐさま息子である力の神ヴィーザルが駆け付け、フェンリルを倒しました。


 〈外見〉

 先ほども言いましたが、オーディンは最高の知識の為に自らの目を失いました。そこで、彼はその事を即座に見抜かれないよう鍔の広い帽子をかぶっています。これほど偉大であり、有名な彼が隻眼であることを知らない巨人は、果たしているのでしょうか? このことを考えると、この帽子の件は、最初こそそのような目的があったに違いありませんが、段々と「オーディンであること」を強調することに目的がすり替わっていったように思えます。

 そのほか、彼は髭を生やし、青い外套を羽織り、ドヴェルグに作ってもらったグングニルを装備しています。

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