Ⅶ.巨人と妖精
〈神に対抗するもの〉
北欧神話を語るになくてはならない存在が、この巨人です。今日のゲームや小説などにより、彼らは力任せで頭が鈍いというステレオタイプが定着しました。もちろんそのような者もいますが、この神話での彼らは一味違います。
例えば、戦神トールが仲の良かったロキを引き連れてヨツンヘイムに遠征した時、彼らはウートガルザ=ロキという巨人の巧みな魔術によって当惑させられてしまいました。しかしその一方で、フルングニル(荒れ狂う巨人)という当代無双の強さを誇った巨人が酒に酔って神々を挑発した際、トールとの決闘の末、彼の宝槌ミョルニルの餌食になってしまいました。
では、そもそも神と巨人の違いとは何なのでしょうか?原初の魔人ユミルから生まれた幾人かの巨人たちは、霜の巨人といわれています。それを巨人と呼んでいるのでしょうか。しかし、ロキはもともと巨人族(今も血縁的には巨人族)でしたし、先述した巨人シャツィの娘である、美しくも勇ましいスカジは、なんと海神ニョルズ(:力)と結婚し、神々の仲間入りを果たしています。もっと言えば、オーディンの体にさえ二分の一巨人の血が流れているのです。
私は、その区別は曖昧なもので、神にとって悪意がなければ少なくとも敵とは見なされず、望めば神の仲間となれるといった程度であると考えています。
〈二つの妖精〉
次は妖精についてです。世界の層の最上位に位置するアールヴヘイムに住む光の妖精アルフたち(リョースアールヴ/エルフ)は、太陽よりも輝く容姿を持っているといわれています。彼らの王はフレイという美男子の豊穣神ですが、彼らはこれと言って目立った働きはせず、神話にもあまり登場しません。せいぜい鍛冶屋のヴェルンドが、オーディンのために剣を打ったという事くらいです。
彼ら光の妖精とは対をなす存在である闇の妖精ドヴェルグ(小人/デックアールヴ/ドワーフ)は、姿が醜く、さらに日の光に当たると石化してしまうという制約を持ちながらも、アルフ達よりもずっと多く活躍します。フレイヤ女神のブリーシンガ・メン(:ブリーシングの首飾り)やオーディンの槍グングニール(:揺れ動くもの)、トールの槌ミョルニル(:砕くもの)など、多くの宝を作成し、神々に様々な恩恵を与える存在です。
また、ドヴェルグ達は金が大好きで、神々はよく彼らに有益な働きをしてもらおうと、大量の金を渡します。こういった現金な点で考えると、一番人間に近しい存在は、案外ドヴェルグ達かもしれません。フレイヤとの交渉では、肉欲に負けていますから……。
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