004. imitation
指輪をつけたまま殴ったので自分も怪我をした。
血のついた指輪はその場で捨てた。
忘れられない誰かの面影を、似た誰かで代用にする。そんな話ならよく聞くような気もする。
けれども、順番が逆とは思わなかった。
――いつか出会うはずの理想の女と、君は割と似ていたから。
――最近、理想と思える女をやっと見つけたんだ。
――だから君とはここまでにしたい。
『ほんもの』を手に入れたから、『イミテーション』はもう解雇ってこと?と聞くと、まあそんなものかなと頷きやがった。
瞬間、手が出た。
半年後、恥知らずにも披露宴の招待状が送られてきた。そこに記された新郎新婦の名を見たとき、胸に燻っていた炎が鮮やかに変色して大きく燃え上がるのを感じた。
その新婦は、私の双子の姉だ。生まれてすぐに、私は実の両親の知人に引き取られ養子となっているから姓が違うが、たしかに双子の姉だ。
なるほど似ているはずである。二卵性とはいえ私たちはどちらも母親似で、血の繋がった姉妹としては当然のレベルで似ている。
だが、別の人間だ。
私は実の両親も姉も嫌いだ。
小さい頃は家族ぐるみでつきあいがあったが、同じ顔の姉に対するのと違い私とははっきりと距離があった。まあ、一緒に暮らしていないのだからそれは仕方ないとしよう。赦せなかったのは、姉がある病を患ったときに実の両親から発された言葉だった。
――どうして、私たちの子がこんな目に遭うの。
――妹のほうならよかったのに。
私がそれを聞いていたことを両親は知るまい。ただ、少し後に姉には腎臓移植が必要ということになったときは、直に言われた。
――あなたの腎臓を使うからね。
――当然でしょ。双子の妹なんだから。
おまえはスペアだと言われたも同然だった。
その日から連絡を断った。
その私に、あのクソ男は、決して言ってはならないことを言った。
私は断じて、姉のイミテーションなどではない。双子は、どちらかがどちらかのイミテーションでもなければコピーでもスペアでもない。また、同じものがふたつあるのでもない。
違う人間である。
私は即座にペンをとり、「出席」に丸をつけた。
絶対に殺す。
社会的に。
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