第9話 トンカツ

瞬間移動した。

そこは日本では見たことのない世界だった。

日本ではというのは、現代も過去も含めた日本のことである。

中世ヨーロッパのような石造りの城、まわりの建物。


 なにかザワついているようだが、今はそんな場合じゃない。

お腹がとにかく空いた。

鎧を着た戦士はなにか呟きこちらの方を見る。

しかしそんなことは関係ない。


「それで、ご飯はどこですか?」


 お腹が好きすぎて思わず言ってしまった。

すると戦士は兵士に宴の準備を命令し、名前を聞いてきた。


「コータです。」


 普通にゆったつもりだったが、なにかひっかかたのだろうか。

戦士はなにかいいたげであった。

しかし、それについてはなにも言わず食べたいものを聞いてきた。

なにかあるのだろうか。

だが今はご飯だ。

食べたいもの?

そんなものは決まっている。


「トンカツが食べたいです!」


 はっきりとそう答えた。

しかし、どうやらトンカツというものはこの世界にはないらしい。

カイロと呼ばれる兵士と戦士の会話で戦士は軍団長らしいということがわかった。

それはいいがとにかく腹が減った。


「ないならいいです。早くご飯を!」


 少しイラついてしまった。

仕方ない。

お腹が空いているのだから。


 戦士は城の中へと勧めてきた。


(いや、無理だってもう歩けないし…)


 しかし最強の魔導師ぶるため言葉にはしない。

瞬間移動ができるから問題はない。


 先ほどと同様に瞬間移動をすると伝えると軍団長は少し顔が曇った。

なにかだめなことでもあるのだろうか。

しかし、分かりましたと言ったため、瞬間移動をする。


「マヨネーズ」


 するとなにも置いていない大きな長いテーブルに椅子があった。


ドカッ


 音をたてて座る。

軍団長が王を呼んでこいとカイロに命じ、出身やどこで魔法を学んだか聞いてくる。

自分の生活や経験をそのまま答えた。

軍団長は勝手に魔法と結びつけかっこいいものになってしまった。

突然軍団長が叫んだ。


「魔導師コータ様!」


 突然魔導師と呼ばれたことに驚いた。

続いて軍団長は名前を変えてみてはどうかと提案してきた。

いっそのことかっこいい名前にしてもとは思ったが、あまり乗り気ではなかった。

それよりも街を見てみたい。

自分の夢の中…想像力がどれほどなのか確かめたかった。

それを察したのか軍団長は街を紹介すると言ったため、それにはありがたくのることにした。


バタンッ


 軍団長がなにか話そうとしたとき、王と呼ばれる者が入ってきた。

金の王冠に白い髭、THE 王のような男が入ってきた。


「おぉ、そなたが…水国の大軍を全滅したという魔導…ん?まだ少年ではないか!」


「王!」


 カイロと軍団長が王を睨む。

なにかあったのだろうか。


「んぉほぉんっ…この度は恵国の危機を救ってくださり感謝しております魔導師殿。この国は…」


「ご飯は!」


 話が長くなりそうだと直感しすぐに遮った。

カイロと軍団長はなにか焦っている。


「お、お待たせいたしました!」


 目の前に料理が運ばれてくる。

どれも見たことのない料理だ。

羽が四つある鳥の丸焼き、なんの肉かわからないステーキ、カラフルな果物のようなもの…どれも美味しそうな匂いだ。

期待が膨らむ。


「いただきます!」


 とにかく食べた。

トンカツがないのも、周りの目も気にならなかった。

どれも期待以上の美味しさでいくらでも食べられる気がした。

中でもなんの肉かわからないステーキは美味しかった。


「これは…なんの肉ですか?」


 呆然と見ている王に聞く。


「お口に合いましたかな?それはコータのモモ肉です。」


(…………えっ?)

「こ…コータの肉?」


 聞き間違いかと思い繰り返し質問した。


「えぇ、そうです。」


 王はコータを知らないのか?的な顔で言う。

いや、知ってるし。

僕の名前じゃん。

と突っ込む。


 その会話を聞いていた軍団長が会話に入ってきた。

「コータというのは!四本足の丸々とした動物です!あとで見られますか?」


 あぁ、動物か。などと心の中で呟いた。


「よろしくお願いします。」


 そのまま食べ続けた。

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