第8話 宴会前

―――ザワザワ―――

―――どういうこと、あれ…。―――

―――あれってマリフ軍団長よね。―――

―――突然現れたぞ。―――


周りがザワつく。

それもそのはずだ。いきなり現れたんだから。

突如現れた兵士達はどういうことだと口々に話している。

自分も驚きで目を真ん丸にしているが。


「こんなことが…本当に…」


横をちらっと見る。

驚きで言葉がでない。

五万もの軍隊を平原から一瞬で城前の広場まで本当に移動させたのだから。

そして移動魔法を、しかも瞬間移動を使ったにも関わらず、平然としているのも驚きを増す一因となった。


「それで、ご飯はどこですか?」


少年が語りかけてきた。目はなにか必死である。


(これは…大変なことになる…急いで用意を…)

「急ぎこの少年と今回の勝利の宴の準備を!急げ!」


兵士たちもなにか感じ取ったのか、死に終われているんじゃないかというほど必死に走っている。

大事なことを聞きいていないことに気づいた。


「申し訳ないが、名を聞いてもよろしいかな?」


「コータです。」


 少年は落ち着いた様子で静かに答えた。


「コータ様ですか…」

(コータだと…この少年はふざけているのか?まぁよいか)


「コータ様なにか食べたいものはございますか?」


「トンカツが食べたいです。」


「トンカツ…トンカツというものは…聞いたことがございませんな…カイロ!」


カイロが遠くから走ってくる。

一メートルほど離れた距離でピタッととまり、ビシッと立った。


「はいっ!なんでしょう軍団長!」


「トンカツという料理は知っているか?」


「トンカツ…分かりませんな…どういうものでしょう?」


「ないならいいです。早くご飯を!」


 少年は苛立っているようだった。


「コータ様!まずは城の中へ…どうぞ」


 まだ宴会の準備はできていないことや外で待たせるのは失礼だということもあり城の中へと誘った。

少し城の中を紹介して時間を稼ごうと考えた。

しかしその思惑はすぐに無駄なものだと知る。


「分かりました。じゃあご飯食べる場所をイメージしてください。」


「………………………」

(あぁ、そうだった。普通の少年でも、魔導師でもないんだった…)


「なんですか?」


「いえ…わかりました。カイロ!いくぞ。」

(仕方ない…料理よ、なにかできていてくれ…)


「はい、分かりました!」


 思惑が完全に裏目に出たことが悟られないように表情はできるかぎり変えなかった。


「マヨネーズ」


 本当にあっという間に、テーブルの前まで来てしまった。

しかし、肝心の料理もできていなければ王もいない。

少年は椅子に音をたてて座る。


(マズイ…怒らせたか?)

「王はどこにいらっしゃる?今すぐ呼んでくるのだ!」


 それを聞いてすぐさまカイロは走る。

圧倒的な力という理由だけではない。

少年がお腹を空かせているという理由だけでもない。

水国軍を倒したという英雄を待たせることは大変なことだと考えたためである。


 カイロが王を連れ、戻ってくるまでの間、どうしようか悩んだ。

そしてひとつ、思い浮かんだ。


「コータ様はどこの国の出身なのでしょうか?その力はどこで手に入れたのでしょう?」


 自分の疑問を素直に聞いた。

強大なゴギンを圧倒するほどの力は存在しないと思っていた。

しかし、存在してしまった。

ここまでの力を持つものがなぜ、今まで風の噂にも聞かなかったのか気になっていた。


「日本です。普通に学校にいって本を読んで生活していました。」


「日本?聞いたことがない国ですな…学校とはまほうがっこうのことですかな。そこで学び、書物でも学んだということですか…ですが…あの魔法は…どうやって?」


「イメージしたらできました。」


「!!!!!!」


 言葉にならなかった。少年はイメージしたらできると言ったのだ。

魔導師としてこれ以上の才能はない。

さらに少年はできましたといった。

つまり初めてあの魔法を使ったということだ。

どれだけの自信があればあの数、あの敵の前に一人で赴くことができるだろうか。

心から感服した。


「魔導師コータ様!」


「は、はい?」


「お名前を変えてみてはいかがでしょう?もしくは名称をつけるなどは?」


「えーっと…どうやって?」


「名乗ればいいのです。例えば私は恵国軍の団長という役職についていますので皆からは軍団長と呼ばれています。」


「あー…考えておきます。 」


 あまり乗り気ではないようだった。


「あとで城下を紹介しましょうか?」


「よろしくお願いします!」


 これにははっきりと答えた。


(圧倒的な力があってもまだ少年だな…)


「では、どこか…」


バタンッ


 次の質問をしようとしたときカイロが入ってきた。


「お待たせしました!我が国の王、ロロ様です!」

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