第6話 自分の力

(あぁ、ちゃんと運動しておけばよかったなぁトンカツ食べたかったなぁ…)


 兵士や謎の生物達にもみくちゃにされた…はずだった。

しかし、なにも起こらない。

痛みさえ感じない。

しゃがみこんだ状態で恐る恐る顔を上げる。


(えっ…)


 兵士やケンタウルスのような生物が武器で自分を攻撃している。

しかし、本当に痛みがない。

なにも感じない。

正確には筆でやさしく撫でられているほどにはなにかを感じる。

その程度である。

 しゃがみこんだ自分に必死で攻撃する者達を見上げ、理解に苦しんだ。


(どういうこと…?なにかのドッキリ…?)


 とりあえず立ち上がる。

攻撃している兵士達の腕に頭が当たる。


ザンッ


 なにかがとんでいった。

それは間違いなく攻撃していた複数の兵士達の武器だった。

立ち上がると、自分の周りには一メートルほど距離を空けて兵士達が囲んでいた。


「あのー…すいません…なにをしてるんですか?」


 とりあえず声をかけてみた。近づいてみる。


「く…来るなぁ!」

「け…恵国の魔導師か?」

「なにをしたぁ!」


 兵士達は自分を拒絶しているようだ。


(…魔導師?ちょっと嬉しいな…これは、夢なのかな?)


 ほっぺをつねってみる。痛みは感じない。


(なんだ、夢か。なら好きなようにしよっ!)


 普段はできないことをしようと思った。


「僕の名前はこうた!魔導師だ!」

「コータ?ハハハハハッ」


 兵士達が笑う。

どうして笑ったかは分からなかったが、バカにされているようだった。

夢の中でバカにされ、腹が立った。


(夢の中なら…なんでも…できるよね?)


 イメージは完全に出来ていた。


「トンカツ!」


(ダサいネーミング…)


 言ったあとに後悔したが、とっさに名前がおもいつかなかった。

だから思い付く名前をいって手のひらを空に向け、両手を上げる。


フワーッ


 優しい風が吹いた。

すでに周りにいた兵士は横たわっていた。


(やっぱり…夢だ…なんでもできる!)


 そう考えていると赤い鎧の兵士が大きな剣をもちやって来た。


「我が名はゴギン!いざっ」


 見るからに強そうである。


(ラスボス的なやつかな?つよい?)


 ゴギンと名乗るものはものすごい勢いで剣を振ってきた。

しかし、ここは夢の中。

全ては自分の思い通りである。

先ほどと同様、全てを弾いてしまう。

ゴギンは驚いた表情で攻撃を続ける。


「どういうことだ!なにが起きた!全ての生物の頂点にたつのがこの俺だぞ!」


ゴギンがそういったことに驚いた。


(え、まじか、よわっ…ちがうか…僕が強すぎるのかな?)


夢の中でもさすがにこれは…と思いながらも、自分の夢であるためちゃんと終わらせようと誓う。


「…トンカツ」


 今度は最強の魔導師っぽく、威厳のある声で呟き、ゴギンという人物に指を指す。

今はトンカツ以外に言葉がでなかった。

それと服装以外は完璧な魔導師ぶりであった。

 光が一瞬草原を駆け巡った。

自分以外誰も立っていない。


(夢…最高っ!)


 自分に浸っているとボロボロになったゴギンが問いかけてきた。


「お前は何者だ!」


(夢にしてはリアルだなぁ…現実ってことは…ないよ…ね?)


 もし現実だとしたら人を殺したことになる。

恐怖で震えた。

しかし完全に状況を把握できておらずただ見上げた。


(トンカツ…食べたいなぁ…)


 ふと思った。

とにかくお腹が空いている。

どうしようか悩んだ。


「○×∞´&|>&:!」


 突然声が聞こえた気がした。

そちらを向くとまた別の軍と思われる鎧の集団がいた。


(なんだろ…?また敵とか言われるのは嫌だなぁ…)


 しかし、そちらへ向かう他なにもない。

ゆっくりと歩いていく。

少しあるくと目を丸くする事態が起きた。


「腹は減っておらぬか!」


(……………!!!)

 突然のことで驚いた。

驚きすぎて立ち止まってしまった。

今すぐ走って行きたい。

そこにご飯があるのなら。

しかし、気持ちとは裏腹に足は動かない。


(夢なのにお腹が空くなんて…リアル過ぎる…あれ?夢なら飛んでいける?)


 試す価値はあると思った。

目を瞑りあそこまでいきたいと願う。

そしていう。


「…マヨネーズ」


 トンカツ以下のダサさであるが、仕方ない。

…実際成功したのだから。


僕は白銀の鎧を着た戦士の前にいた。

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