第4話 圧倒

「今回の戦争は楽しみですなゴギン様」

「あぁ、そうだなラオ。今日こそは恵国を打ち破り、平和をもたらそう。」

「馬人もいますし、何よりもゴギン様が出陣されます。必ず叶いましょうぞ!!」


 そのような会話をしているのは草原に陣取った軍隊の後方にある、簡素な塀の中、タープとも見てとれるテントの中である。

簡素といっても、人であれば五十人は悠々と入れるであろうものである。

周りにいる兵士達の胸には星の紋章が見える。

 ラオと呼ばれる髭面の男は他の兵士とあまり変わらない。

ゴギンと呼ばれる男は背中に大きな剣を背負っており、赤い鎧を着ている。

単にこの武器や鎧が見せかけでないことは雰囲気が物語っている。


「ただ、恵国はいつもしぶといですからな…恵国人の、しかも一部のものにしか使えないあの魔法はやっかいですな…」

「ハッハッハッ人間の魔法なんてどれも同じよ!」


 二人の会話に割って入ってきたのは一人の馬人である。


「おぉ、頼もしいなルキア殿!」


 ラオは複雑な面持ちでルキアの方を向いた。というのも、人間とひとくくりにされたためである。


「我々ホーセン兵は先陣を行くことにする。人間共をけちらしてやるわっ」


 また、ハッハッハッと高らかに笑う。そしてゴギンと目を合わせる。


「ゴギン殿はいかがされますかな?」


 挑発的な態度でルキアが言う。二人の間に不穏な空気が流れる。


「…こんなところで争ってもなにも起きない。誰が先人をきる、どれ程の数を倒す、という話はやめにしよう。我々の目的は恵国軍を破ること、ただそれのみである!」


 俺、カッコいい的な雰囲気を醸し出している。名言を言ったあと、余韻に浸るように。


「…ゴギン様、恵国軍を破るために作戦を練らねばならぬのですぞ?」


 ラオが呆れた声でいうと、ルキアも頷く。

むしろテントの中にいる兵士20名全員が頷いた。

なんとも言えない空気が漂うなか、それを消すかのように声が響く。


「ええぃ、いいんだ、とにかく勝てば…」


 ゴギンは一瞬間を開ける。


「よし…ラオ!決めたぞ!俺は先陣をきる!いち早く平和をもたらすために!」


 これ以上とない、ハキハキとした声であった。

テントの中にいる兵士だけでなく、外にいる兵士全員の耳に届くほどであった。


「はぁ…また考えることをやめましたな?…ゴギン様がそれでいいのなら問題はないですが…せっかくホーセン兵五万、水国兵二十五万と大軍で来たのですから、その力を見てみたかったですな…」

「ラオ様、私はゴギン様の力を見てみとうございます!」


 テントの中にいる兵士がいう。

それに続くように別の兵士も…二十人全ての兵士がゴギンに味方した。


「お主達、自分が情けなくはないのか?」

「ゴギン様の勝利は水国の勝利。それでよいのです!ラオ様!」

「お主らは怪我を負いたくないだけであろう!!」


 トホホとラオは嘆く。

こんなことでこれからの水国は大丈夫なのか、と。

ゴギンという強大な一人の人間に頼るだけで良いのか、と。

しかし、ゴギンはそんなラオの様子に気づきもしない。

ゴギンは兵士達に最強と言われている、と感じたのだろうか、、一層のやる気を出していた。


「…ルキア殿、よろしいか?」


 ラオは顔色を伺うように尋ねる。


「構う必要はない!ゴギン殿の意思を尊重する。」


(ハッ…ホーセン兵もその程度か…やはり青地は下級兵にかわりはないか。)


 心の中で蛮国を見下していたが、より見下した。


「よぉぉぉぉおしっ!そろそろだな!」


 ゴギンが気合いのは言った声でそういうと全ての兵士がきを引き締める。


「皆のもの!配置につくのだ!」


 皆が気合いをいれた。その時であった。


「敵襲だぁ!」

「…え?」


 突然のことでテントの中にいるものは皆、理解できなかった。


「敵襲だ!やれっ!」


 前線にいる兵士の声がはっきりと聞こえ、何が起きたのか皆、理解できた。


「不意討ちだと!」


 誰かが声をあげた。

あまりにも不意であったため皆に少し焦りの色が見えた。

今、配置につくところだということが、より拍車をかけた。

しかし、それも一瞬であった。


「ゴギン様!」


 ラオが叫ぶ。

ゴギンの方を向くと出陣の準備は終わっていた。


「分かっている。皆のもの、俺に続け!」


 ゴギンは風よりもはやく走りテントから去っていった。

それに続かんとばかりにホーセン兵やテントの中にいる兵士も飛び出して行く。


(どうしてこうも…いや、これがゴギン様の魅力か…俺もいくか!)


 熱い想いは伝染する。

ゴギンの熱風に押され、やる気を出した。


(どうせゴギン様が一掃して終わりだろうが…やるか!)


 火のともっていなかった心の中に、小さな小さな火を灯し、ラオはゆっくりとテントの外へ出た。


「な…なんてことだ…」


 外へ出たラオの心の火は一瞬で消えた。

目の前の状況がそうさせざるを得なかった。


「こ…これは…一体…」


 目の前には馬人を含めた水国軍三十万人以上が横たわっている景色が広がる。

呆然としていると二つの人影が目に入った。


ギャインッギャイン


 音が響く。何の音か、その方向を見る。


(あれは…ゴギン様?誰かと戦っている…?)


 ゴギンと思われる大剣を目にも止まらぬ早さで振りかざし攻撃している人物となにかで防いでいるであろう人物の二人であった。

音の正体はこれであるか、と理解したが、これはラオにとって衝撃的なことであった。


(ゴギン様と互角…だと…?)


 しかしラオは空きかけた口をすぐに閉じる。

音の正体を知ってしまったためである。

ゴギンと戦っている人物はただ、立っているだけだった。

ゴギンの攻撃は全て弾かれていた。


(そんなバカな!)


 ただ、立ち尽くした。

受け入れることは出来なかった。


(あれは誰だ?恵国にあれほど強いものがいると聞いたことはない!いや、いたとしてもゴギン様の能力の前では…どうなって…)


パンっ


 ラオの思考が段落をつけるまえに光が一瞬草原を駆け巡った。

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