【モーガンと相棒―其の三】

「ケイティはスフィンクスってぇ魔属を知ってるかい?」


 ケイティの部屋に招かれ、白いヒラヒラしたクロスが敷いてある可愛らしいテーブルと俺が座るには随分小さい椅子を前に、俺は直接地べたに胡座あぐらをかいて座った。床にはこれまた真っ白なふかふかの絨毯が敷いてある。

 ケイティはお上品に椅子にちょこんと座り、紅茶を口にしている。

 俺は紅茶をずずずと啜りながら、一緒に出された茶菓子をぼりぼりと頬張った後、ケイティを少し下から見上げて質問した。


「スフィンクス……。いえ、存じませんわ。どのような魔物なんですの?」

「獅子の胴に鷲の翼、尾は大蛇、そして獅子の胴から女の体が生えてるって化け物だ。頭部も女だな。獅子の頭は付いてねぇ」

「……キメラのような魔獣ということかしら」

「その認識で間違いねぇが、半分正解ってとこだな。魔物って一括りにしちまえば確かにそうなんだが、スフィンクスは魔獣じゃなくて魔属だ」

「魔属……。今一つ得心しかねますわ。魔獣と魔属はどう違うんですの?」

「一言で言うと、言語を使えるかどうかってことだな。魔獣にも言語を理解できるヤツはいるが、話せる程の知能を持ってるのは魔属だけだ。そして、言語を操れる魔属の殆どが、魔王の配下だ」

「魔王の、配下……」

 俺の言葉をゆっくり反芻はんすうしながら視線を落とすと、ケイティは顎に手を当てコクコクと頷き理解したと動きで示す。

「それで、そのスフィンクスと戦ったことがあると」

「ま、そうだな。あれは俺が用心棒になる前、そして傭兵になる前だ。もう随分昔のことになるな」

「何か、重要な岐路だった。もしくは岐路になったということですの?」

「相変わらず頭の回転が早いな。そうだ。俺が傭兵になる切っ掛けになったのがそのスフィンクスとの一戦だった。傭兵になるっつーか冒険者ギルドの依頼とかじゃなく誰か個人に雇われるという立場になった、ってのが正しいな。まあ、俺の人生を変える切っ掛けになったことは確かだ」

「ふぅん。何だか面白そうですわね。続けて頂戴」

 カチャ、と紅茶が半分程入ったカップを置いて、ケイティが体ごと俺の方を向く。

 興味本位から、真剣に聞く姿勢になったことが解った。


 あんまり期待されても困るんだけどな。

 なんせ、俺がクソ田舎でスフィンクスに襲われてたひょろっちいガキと出会うってだけの話だからな。


(To be continued)

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