【ピピリとピリリの隊商道中記―其の三】
私達が置いてもらっている
嬉しいことに、砂漠、山岳を抜けると陽が高い時間帯でもさほど暑くなくなった。熱さに弱い私達姉妹にはこれ以上なく幸いなことだった。
「ピピリ、何だか変な匂いがしない?嗅いだことの無い匂い。何だろう」
「ピリリは心配性だなー。初めて来た場所なんだから当たり前でしょー」
幌車の屋根の上にピピリと並んで座り、辺りを警戒する私達の警備網に何かが引っ掛かった。
ピピリはのほほんとしているけれど、これはこの子の性格が楽観的なだけで、状況を把握した上での発言でないことを私はよく解っている。ピピリは基本的に危機感が乏しいのだ。
今も私の隣でツンと立った犬鼻をふんふんと鳴らしている。
……ちょっと可愛い。不謹慎だけれどそう思ってしまった。
「それにさぁ。こんだけ開けた場所なら、ウチ達の視力なら5キロくらい先なら見通せちゃうよー? そんで今のところ怪しいものは見当たらないし。ピリリは何が気になってるの?」
「それはそうだけれど……。砂漠を抜けて、山岳も無事に越えて来れたけれど、荒野を旅するって、こんなに簡単なものなのかしら。お守りのお陰? ピピリ、一応注意だけはしてっ」
「?!」
「!?」
「ピリリ、何かいる?!」
「ピピリ隊長に報告を!」
ピピリが屋根から飛び降り先頭を走る隊長の幌車へと走り出す。
私とピピリは視力もそうだが、半獣人の特徴として嗅覚が特に優れている。人間と比べると数千倍くらいあるらしい。
これは1キロ離れた所にある果実が腐っているか匂いで判断できるレベルだ。
普段から嗅覚を十全に駆使していると、匂いのせいで自分達がダメージを受けてしまうので口元までターバンを巻いたりして鼻を隠しているけれど(ダメージを受けると酷い頭痛に襲われてしまう)、警戒する時は別だ。
その私達の嗅覚が、はっきりと魔物の匂いを捉えた。それもこれまで嗅いだことの無い匂いだ。
辺りは見渡す限り草すら生えていない荒れた大地。魔物が隠れるような
それに、私達の嗅覚を以て感知が遅れたことを考えるに対象の匂いが風で運ばれて来たのではなく、密閉に近い状態にあると考えられる。
つまり、魔物は空ではなく、地中にいる可能性が極めて高い!
蟻地獄のような罠を張っているのか、
まさかとは思うが、蟻だとしたら非常に危険だ。数はそれだけで暴力だし、個ではなく集団で連携するやつもいる。それに、生きたまま捕まって幼虫の餌にされることすら考えられる。
隊長の判断に任せることになるが、もしかしたら魔物を避けて迂回したほうが良いって伝えるべきかもしれない。
と、私が思考をぐるぐる回転させているとピピリが戻ってきた。
「ピリリ、たいちょーが『大丈夫だから、このまま進むぞ』だって! 大丈夫らしいよ! 良かったね!」
(To be continued)
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