【カイくんとユリちゃんの非日常】
ドンドン! ドンドン!
「ユリ! 開けて! 火事だ! 森が燃えてる!」
ユリの家に着くなり扉を思い切り叩いた。
「カイ!? 火事ですって!? パパ! ママ! 早く逃げないと!」
「お父さん、お母さん、急いで風上に避難してください! 火が広がる前に、さあ、早く!」
ユリと、ユリの両親が急ぎ荷物を纏めると家を飛び出す。
「カイは!?」
「僕は村の皆に知らせてから逃げる。無理はしないから、先に避難していて」
ユリに心配をかけないよう、落ち着いた口調で伝える。
心臓の音は激しく鳴っている。
「……分かった。急いでね。どうか無茶をしないで。約束よ」
「分かった。約束だ」
ユリと掌を合わせ、力強く頷く。
手を離すと僕は駆け出した。
遠くの森がじわじわと赤く染まっていく。
鼓動が早くなるのを自覚する。時間が無い。
村ではこれまで一度も火事が起きたことがなかった。村の人は恐怖に混乱してしまうだろう。
僕に出来ることは村の皆を無事に逃がすこと。そして僕自身が無事に避難することだ。
村を駆け回り皆を避難させる。
年老いた者すら火事を経験したことがなく、慌てふためき逃げ出す。
僕の足手まといにならないよう皆素直に指示に従ってくれたのは幸いだった。手分けして避難を誘導する大人達もおり、おかげで大きな混乱もなく着実に避難は進んでいる。
森は赤黒く光り黒煙を吐き出していた。燃え広がるのが速い。
熱気が立ち籠め、息をするのが辛い。汗が止まらない。
急ぎ避難する中、抱えきれない程の荷物を運び出そうとする者もいたが、命が惜しいなら荷を捨てろと怒鳴りつけた。最優先すべきは命だ。
小さな村で良かった。旅宿などを抱える村ではここまで素早い避難は難しかっただろう。
村人全てが避難したことを確認できた。
これで大丈夫。皆助かる。
さらに濃くなる熱気の中、僕は火の粉を舞い上げる森と逆方向に駆け出す。
その瞬間、寒気が走った。
心臓の鼓動が異常に速い。額から汗が噴き出すように流れ落ちる。身体は金縛りに遭ったかのように硬直し、振り返ることすら叶わない。
何だ!? 何が起きたんだ!?
背後から、じゃりぃ、と石を擂り潰すような鈍い音が聞こえた。
何かいる。
それの影が、僕の影に覆い被さった。
縦に、横に、僕の何倍も大きいことだけが理解できた。
必死に首を動かし、背後を見ようと懸命に力を込める。首が折れそうな程痛い。何かの力に抑えつけられているみたいに。
ぎぎぎ、と錆びきった#螺__ねじ__#を回すように頭を真横に向けると同時、目の端に大きな翼を持つ獣の姿を捉えた。それも、翼だけで大人が両腕を広げたくらいもある。
大型の魔獣!? それもこの辺りには棲息しないとびきり大物!!
戦う!? 馬鹿か! 勝てる訳がない! 逃げるしかない!
僕自身、村の皆を逃がす為に武器を取りに戻る手間を省いてしまってる。
武器も無く、有ったとしても僕とは比べ物にならない程強力な魔獣。
絶望的だ。恐らくこの金縛りも魔獣の魔力の
それに僕が此処で死のうが逃げようが、今度は魔獣の歯牙は避難した村の皆に向けられる。
そこにはユリだっている。
一ヶ所に集まっている人々は
僕が急かした所為で武器を持たずに避難した者も多い。
最悪だ。
何が村を守りたいだ。
僕の所為で皆が死ぬ。
僕は判断を誤った。最悪の結末だ。
己の失敗に顔を歪めながら、僕は全身に力を込める。完全に動けない訳じゃない。力で振り解くことは出来る筈だ。
腕と足に力を集中させ、体を縛る何かに抵抗する。
ぶちっ、音が聞こえたような気がすると同時に勢い良く体が反転する。魔力を振り解いた反動で勢い余って今度は尻餅を#搗__つ__#いてしまった。僕は慌てて魔獣に視線を向けた。
それにしても、さっきから何だこの違和感は。おかしい。
魔獣に動きがない? じっとしている? まるで僕が向き直るのを待っているようにーー。
いや、違った。
待っていたんだ。
そいつは僕が動けるようになるのを、》魔力に抗い自由になるのを待っていたのだ。
「はぁい。坊や、初めまして。やっと此方を向いてくれたわね。おねぇさん、嫌われてるのかと思って悲しくなっちゃったぁ。んふふふぅ」
四足の化け物が。
(To be continued)
***
制約①をガン無視で2000文字オーバーです。
恐らくこの先も面白さを優先し制約ガン無視な話があると思いますがご勘弁ください。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます