【魔女っ子タルトちゃん―誕生―】

「んぶ……ぁう? あうぁー」

 おや? ココはどこだろ?

 まばゆい光に上手く目を開くことが出来ない。

 歯医者さんの診療台の上みたいな。

 歯医者さんよりもっとまぶしいけど。


「あら、起きたの? おっぱいの時間かしら?」

 ん? 隣に誰かいる。

 声の主を見ようと私は首を動かし……て、ん? 首が動かない?

「あぶ……あー?」

 あれ? 喋れない? て言うか言葉になってない?

「もうお喋りしてるんでちゅねー。じょうじゅじょうじゅー」

 声は若い女性のもので、まるで赤ちゃんをあやすような感じだ。

 そしてその声は明らかに私に向けられているものだった。

「ほーら。ママのおっぱいでちゅよー。たくさん飲んでねー」

「ぶぁっ!?」

 ちょっ!? よく見えないけど、この唇に当たる柔らかな感触! 甘い匂い! これってば……!

 私は顔に当てられる柔らかなものをふにふにと両手で掴む。

「いたたたたっ! 痛い痛い! おっぱいは掴むんじゃなくて吸うのよ!?」

 あわわわわ! 何だかよく分かんないけど私の現状は理解できたぞ!?

 頭を落ち着かせるために私はおっぱいをちゅーちゅーと吸いながら考える。

 ちゅーちゅー吸ってる場合じゃないけど、これが人間の本能なのか、当てられたふくよかなおっぱいの魅力に私の理性はとても太刀打ち出来なかった。

 甘い。何だこれは。とても美味しいぞ。身体に力がみなぎってくるみたい。栄養が多いのかなー。

「上手に飲めてるわね。ふふ、可愛い私の赤ちゃん。生まれてきてくれてありがと」

 おっぱいをくれる女性の声はとても優しい。

 この人が私のお母さん……。

 でも、ココはどこなんだろ。私はどうしてココにいるんだろ。

 昨日まで普通に学校に通う中学生だったのに。

 何で赤ちゃんになっちゃってるんだろ。

「たくさん飲めまちたねー。それじゃげっぷ出しましょーねー」

 肩に担ぐように乗せられ、背中をトントンと叩かれる。

「……けっぷ」

 肩に乗せられた辺りで、段々と目が光に馴れてきた。

 白い壁に真っ赤な絨毯。煉瓦造りの暖炉に光沢のある黒みがかった木製の机と椅子。

 見るからに高そうな調度品が並んでいた。

 しかし、私が注目したのは視界の端に映った私を担ぐ女性の背中。

 褐色の肌から生えている真っ黒な翼。

「早く大きくなって、私の跡を継ぐ立派な女王になってねー。私の可愛いタルトちゃん」

 私を抱き抱えて優しく微笑むお母さんの頭には、大きな二本の角が生えていた。


(To be continued)

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