【カイくんとユリちゃんの日常】

 僕は狩人に成った。

 思い描いていた勇者とはかけ離れているけど、勇者に成ることより、ユリと共に生きることを選んだのだから仕方ない。

 世界を救うことはできないけど、ユリと暮らす村を守ることくらい僕にだってできるだろう。

 いや、それくらいは強くならなくちゃいけないと思う。

 いつその時が来るかも分からないんだ。

 危機が訪れてから後悔しても遅い。

 好きな人を守る為に、僕は僕に出来ることをやろう。


「カイー? まだ剣の稽古してるの? パパとママが晩御飯を一緒にどうかって」

 僕が一人で素振りをしていると、ユリが様子を見に来た。

「ありがとう。もう少ししてからお邪魔するよ。そう伝えてくれるかな?」

「うん、分かった。家で待ってるね」

 いつもと変わらない笑顔でそう言ってユリは小走りで去っていく。

 夕焼けが肩まで伸びた彼女の栗毛を赤く染めていた。


 僕とユリは将来を約束したけど、一緒に暮らしてはいない。

 お互いにまだ15歳。急いで結婚するような歳じゃない。

 村に残ることを切っ掛けにユリと暮らすという選択肢はあったけど、村にはユリの両親がいるのだからわざわざ離れて暮らすこともないだろうとなったのだ。

 ユリの両親は身寄りの無い僕に一緒に暮らさないかと言ってくれたけど、これ以上甘える訳にはいかないと断った。


 それに、僕はまだ村を出ることを諦めきれないでいる。

 勇者に成りたい。

 富や名声が欲しいんじゃない。

 強くなりたいんだ。

 今の僕では、誰一人守ることが出来ないんじゃないかって、そう思うんだ。

 弱いと分かっていて、弱いままでいるのは間違っているんじゃないか。

 このまま村に居て良いのか。

 やっぱり、ユリと離れてでも修行を積むべきなんじゃないか。

 僕は、あの日から毎日悩んでいた。


 ユリの家で晩御飯をご馳走になって、ユリに見送られ家に帰る。

 夜風は少しひやりとしていて、室内で火照った肌に心地好い。

 帰り道、空を見上げると大粒の星が瞬いていて、中でも一際大きな星が道を照らしている。

 いつもと変わらない夜空だ。


 そのとき、道に沿って生えた木々が勢いよくざわっと揺れた。

 森を抜けた風が空を眺めていた僕の頬を撫でる。

 生ぬるい。

 何かおかしい。

 肌に触れる空気がヒリヒリと熱くなっていく。

 火事!?

 村の皆に、ユリに知らせなくちゃ!

 僕は駆け出した。


(To be continued)

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