【亡国のナターシャ】
同時に帝国の野望は潰え、残ったのは戦争で疲弊した民と、唯一帝位の継承権を持つ皇女のナターシャだけだった。
戦争に敗れた者はただ従うのみ。
発端は自身に無くとも、責任と義務が付き纏う。
それが皇女という役柄なのだった。
「ーー重ねて感謝申し上げます。よくぞ皇帝を、我が父を討ってくださいました。戦争に辟易していた民らも、今頃細やかな祝杯を掲げている頃でしょう。取り上げられた僅かばかりの税を取り戻し、渋い葡萄酒を片手に宴を催しているやもしれません。戦争に駆り出された農民は村に戻り、命在る喜びに年老いた親や帰りを待ち侘びた伴侶と共に涙を流しているでしょう。それほどまでに我が国は長く戦争に苦しめられてまいりました。いえ、先の皇帝に、我が父に苦しめられてきたのです」
「皇帝は狂っていました。戦争に、権力に、そして殺戮に取り憑かれてしまっていたのです。そして皇帝の率いる軍もそれは同様でした。皇帝は軍を支配し、軍は民を支配しました。兵役の命を受けた民は命在る限り懸命に生きようとしました。そして貴国の力を借りて、
平伏し、床に頭を擦り付け民の命を乞う様は、まるで一国の皇女が振る舞うべきそれではなかった。
「……ナターシャ殿、頭を上げられよ。貴女の願いは十二分に解った。よい。貴国の民らに何かを求めることはすまい。勿論、命で贖えなどとも申さぬ。ただし、ただし貴女だけは違う。私の命に従ってもらうが、よいか」
「疾うに覚悟はできております。私一人の命で足りるのなら、如何様にも……」
「……そうか」
そう言うと彼、ジークフリートは腰元に下げた鞘から剣を引き抜き、ナターシャの首筋に刀身を宛がった。
ああ、漸く解放される。永く、永く続くと思われた悪夢から、この現実から漸く解き放たれるのだーー。
「ナターシャ殿。貴女には私の妻になって頂く。この戦争で、たった一人の死者しか出すことを許さなかった貴女の類い稀なる軍才で、私と共にこの国を支えてもらいたい」
それが、勇者ジークフリートがナターシャに求めた唯一の要求だった。
(To be continued)
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