【ピピリとピリリの隊商道中記】

 砂漠の夜は寒い。

 陽が高い頃は火傷する程の暑さなのに、宵が更ける頃は飲み水が凍ってしまう程の寒気が差す。

 それは、誰かと身を寄せ合わないと堪えきれないくらいーー。


「ピリリ、今夜も寒いね。雨季が終わったばかりなのに」

「ピピリ、今夜も寒いわ。私達もくっついて寝ましょう」


 私達の隊商キャラバンは次の街に向かう旅の途中。

 隊は大所帯。30人の仲間。10台の幌車に50頭の軍用驢馬ろば

 人を乗せる幌車の中では皆が皆寒さを凌ぐ為に体を寄せ合って寝ている。

 私とピピリも、何時ものように抱き合って寝る。

 隊の皆は厚手の毛布にくるまっているが、私達二人は薄い掛け布で身を包んでいる。

 少し寒いがくっついて寝れば堪えれない程ではない。

 私達は元々寒さに少しだけ強い。

 代わりに暑さは天敵だが。


 ピピリの頭を撫でる。

 毛並みの良い、干し柿の様な濃い茶色の髪の毛がふさふさしている。

「ピリリ、くすぐったいよ。それに耳がざわざわする」

「ピピリ、じっとしてて? こうしてると落ち着くの」

 ピョコンと隆起するピピリの耳を撫で回すのは、私の特権だ。

 ピピリは嫌々する様に頭を仰け反るが、私は左手でピピリの頭を押さえ右手で頭を撫で回す。

 私達半獣人は耳を触られるのを殊更ことさら嫌うが、私達双子は生まれた時から隣同士で寝食を共にしてきた。

 毛並みを舐めるのも、つんと立った鼻をすんすん鳴らしてじゃれ合うのも、ピピリだけ。

 ピピリも、私が相手だと諦めて最後には良いようにされている。

「ピリリ、もう寝ようよ。明日の朝も早いよ?」

「ピピリ、あと少しだけ。ね? 良いでしょ?」

 身体をむずむずと動かしながらピピリが抵抗する。

 仕方なく諦め、渋々寝ようとピピリの背中に腕を回す。

 ピピリの身体を抱き寄せると、今度はピピリの方から身体を擦り寄せてきた。

 胸の辺りがくすぐったい。

「ピピリ、くすぐったいわ? 何時までも甘えん坊なんだから」

「ピリリはおねーちゃんだから、いもーとの面倒みるんですー」

 そう言ってぐりぐりと顔を私の胸に埋めて匂いを嗅いでいる。

 二人きりの家族。

 隊は家族だと、隊長はそう言ってくださるけど、まだ馴染めない。

 砂漠の夜風は冷たい。

 私達半獣人の姉妹は、今夜も二人で身体をぬくめ合うのだった。


(To be continued)

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