【ストレの憂鬱】
「迷い犬の飼い主捜しに、孤児院の増設と予算の増額、近隣諸国との外交問題、それに花婿捜し、と。はぁ、よくもこれだけ大から小まで次から次へと問題を集めて来るものです」
黒髪黒目、黒の燕尾服。シャツと蝶ネクタイだけが真っ白という、典型的な執事服に身を包む彼は、一国の次代を担う女王候補に仕える執事であり、宰相も務める王女の右腕として働く官吏でもある。
多忙を極める二足の
しかし彼も一人の人間。
幾ら有能と言えど、悩みの一つくらいはある。
ただ、その悩みの原因というのが、専ら自身が仕える王女があちこちから拾ってくる国の命運さえ左右する規模の問題、という事なのだが。
「失せ物探しや国の内示なら#如何様__いかよう__#にもできますが、他国関連は慎重にならざるを得ません。ですが、最終的に判断されるのは姫様。大きな問題は無いでしょう。ただ……」
一番の難題は、王女自身の事だった。
ある意味、それが一番国にとって大きな分岐点となる。
国内で頂点に近い権力を有する立場の為、貴族との縁談に王女は関心を見せない。
されど、恋愛結婚など国を治める者として有り得ない。
「姫様も年頃の女性。お世継ぎの事を考えると、あまり猶予があるとは言い難いが、こればっかりはな。はぁ、頭が痛い……」
彼が机に両肘を付き、頭を抱えていると、廊下を誰かが走ってくる音が近付いて来る。
カッカッカッカッと、硬いもの同士がぶつかり合う音。
彼にとっては聞き馴れた何時もの知らせの音。
王女がヒールで廊下を走っている音だった。
足音が彼の部屋の前で止まり、扉が勢い良く開かれる。
バタンッ! と扉が壊されんばかりの強さで開かれると、そこに立って居たのは腰元まであるブロンドの髪と碧眼の美女。
勿論王女その人だった。
「姫様、もっとお淑やかな振舞いをと、いつも言っているでしょう。それで、今度はどんな案件をお持ちくださったのですか?」
溜め息混じりに彼女を見ると、その目を爛々と輝かせ、満面の笑みを浮かべている。
「ストレ! 私決めたわ! 貴方を私の花婿とします!」
また一つ、彼は大きな悩みを抱える事になったのだった。
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