サラという少女その3

 サラが本を読んでいると、マリーが入ってきた。

「あ、マリーさん、どうしたにゃ?」

と、傍らでご飯を食べていたプロトが聞くと

「ああ、サラちゃんの誕生日らしいから、今日はプレゼントを持ってきたのよ」

 というとマリーは、一冊の本を差し出した。

 それは

『家庭で使えるなんでもレシピ』

という題名の本だった。

「……これは」

「サラちゃん、料理好きそうだったから、これでレパートリー増やしてみたらと思ったの。

迷惑だったかしら?」

とマリーがいうと、サラは

「ううん、ありがと……」

と、軽くうなずいた。


「ねえ、サラちゃん、台所の生ゴミを一時的にため……」

「三角コーナー」

「……正解にゃ」


「サラちゃん、ゴールキーパー、ドライバー、フローターバックというポジションがある、『水中の格闘技』と言われるスポーツ知ってるにゃ?」

「……知らない」

「正解は、水球にゃ」


「サラちゃん、レタスだけ使ったサラダを『lettucealone』と『letusalone(二人きりにして)』の駄洒落からなんというと思うにゃ」

「……?」

「正解は、ハネムーンサラダにゃ。

サラちゃんがいつか作ってくれると信じてるにゃよ」

「いや、絶対作んないから……」


 という会話をしながら、サラは五目チャーハンを作っている。

 むきえび:30グラムくらい

 チャーシュー:20グラムくらい

 長ねぎ:半分くらい

 ご飯:250グラムくらい

 卵:2個

 桜えび:大さじ

で、具の材料は粗みじんに切って、次に卵ご飯をつくる。

 フライパンにサラダ油を入れて火にかけ、具をすべていれて、よく炒める。

 卵ご飯をフライパンに加え、混ぜながら、炒める。

 最後ににしょうゆをいれて味を整えて完成できあがり


 プロトがチャーハンをむしゃむしゃ食べていると、次郎がやってきた。

 彼を見て、プロトは緊張する。

 サラは、彼女の反応からを察して、珍しく自分から

「……どうかなさったのですか?」

と、変な敬語で聞いた。

「いや、そんなかしこまらなくても、いい。

チャーハンが美味しそうだから、つい見に来たんだよ」

と、次郎は頭をかきながら言った。

 次郎が出ていくと、サラは

「なんで、次郎さんがくると、そんな感じになるの……?」

と、プロトに聞いた。

「さあ、特に理由はにゃいんだけど、なんか緊張するんにゃよね」

という返事に、サラははぐらかされたと感じたが、言いたくないことなんだろうから、彼女が語りたくなるその日まで待とうと思った。


「サラちゃん、その昔ジェームスさんという人が『一頭立てのそり』てタイトルで作った、クリスマスの歌ってわかるにゃ?」

「……しらない」

「正解は、ジングルベルにゃ!」


「サラちゃん、ある洋食屋さんのまかない料理から生まれた、揚げた鶏肉を甘酢に漬けて、タルタル……」

「チキン南蛮」

「正解にゃ!」


「ねえねえサラちゃん、岸田吟香という人がニッポンで広めたらしいという、略して『TKG』……」「たまごかけご飯」

「正解にゃ!」


「ねえねえ、サラちゃん、『ThirteenOrphams(十三人の孤児)』と呼ばれる、マージャンの役満てわかるにゃ?」

「……」

「ヒントは『天下第一の人物』」

「……国士無双?」

「正解にゃ。

子供なのに、マージャンなんて知ってるんだにゃ~」

「うん、少しやったことあるから……」


 プロトの出す問題を聞き流しながら、サラはオムレツを作っていた。

 卵:2個

 各種調味料:適量

 ミニトマト:適量

で、卵をボウルに割り入れて、泡立て器でよくかき混ぜる。

 フライパンにバターを溶かして、ボウルの中身を入れる。

 フライ返しで、真ん中に卵を寄せて、そけに卵のかたまりを作る。それを四方から真ん中に向かって一回ずつ。

 少しかたまったら、半分に折って、フライパンの端に寄せる。

 皿に、ミニトマトと一緒に盛り合わせて、オムレツにトマトケチャップをかけて完成できあがり

「なんか、ちょっと寂しい気がするにゃ」

「なんか、お野菜を入れたらいいのかな……。」

と、珍しく注文をつけるプロトに、小首を傾げて考えるサラだった。


 さて、ここで少女サラはいかなる存在かについて、書いてみようと思う。

 その近くで、彼女を観察していた次郎とマリーは別に彼女に付き合っていた訳ではなく、彼女の力がいかなる状況で発現するのか?、それはどのような力か?、そしてそれは彼らにとって有用なのか?というのを調べるために、こうして付き合っているのである。

 そうして、サラを観察して彼らが気づいたことは、彼女の力は外部に何らかの干渉をかけるものや、自らの身体能力を強化するといったものではなく、他人やモノに対して感応していくような力であることである。


「ねえ、サラちゃん、一階には宝飾店が並んでて、二階には『ヴァザーリの回廊』がというのがある、現地の言葉で『古い橋』という意味の橋、知ってるにゃ?」

「……知らない」

「やったにゃ!

正解はポンテ・ヴェッキオにゃよ」

「へえ」

「じゃあ、次。

『Well,nobody'sperfect. (完璧な人間はいない)』という、最後のセリフが有名な…」

「お熱いのがお好き」

「正解にゃ。

次は、トマト、ゆで卵、キュウリやレタスをイタリア国旗の三色」

「シシリアンライス」

「正解にゃ」


「サラちゃん、たとえば『IBM』を『HAL』とにゃるみたいに、一定の規則にしたがって文字をずらした暗号の名前知ってるにゃ?」

「……」

「ヒントは、古代ローマの英雄で通称はDE…」

「カエサル暗号?」

「正解にゃ!」


「ねえ、サラちゃん、携帯にストラップをつけるときとかにやるひもの結び方なんていうか、知ってるにゃ?」

「……?」

「ヒントは鳥の名前にゃ」

「つばめ?」

「ブー、正解はひばりにゃ」


 なんだかんだクイズに答えているサラは、肉うどんを作っている。

 材料は

 うどん:1玉

 豚のこま切れ肉:100グラムくらい

 めんつゆ:適量

で、鍋にめんつゆと水を入れて中火にかけ、煮たったら、肉を入れる。

 肉の色がかわったら、うどんをくわえてほぐして、味がなじむまで煮る。

 これだけだと、色みが少ないので、トマトを縦半分に切って、幅1センチぐらいにきって、小皿に置いて完成できあがり

「なんか、だんだん手抜きににゃってない?」

と、プロトが文句を言うと、サラは

「そんな毎日、毎日手の込んだの作れない……」

と、ふてくされたように、言った。


 さて、そんな風に日々を過ごしていた彼女たちに、新しい仲間ともだちというべき人物が入ってきた。

 プロトは、その人物をみてキョトンとした顔をしているので、サラも振り返って彼女に気づいた。

「あら、あなた誰……?」

と、サラはその彼女に問う。

 黒いドレスに、白いエプロン、大きいブリーチに、蝶結びをつけたキャップをかぶって、いわゆるメイドさんの服装をしている彼女は

「今日からお二人と同室になります、駿河するがりょうともうします」

と、名乗った。

「ところで、わたくし、敬語が苦手なので、止めてもよろしいでしょうか?」

「どうしようか、プロトちゃん……」

「うん、フランクな方が良いと思うにゃ」

「では改めて、……これからよろしくな!」

と、涼は快活に笑った。


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