サラという少女その2

「ところで、サラのことですが、この後どうするのでしょうか?」

と、マリーが訊くと、次郎は軽く考えるそぶりを見せんがら、こう言った。

「ふむ、たしか被験者の中に、彼女と同い年の被験者がいたよな?」

「はい」

「じゃあ、彼か彼女か忘れたけど、その子に教育係みたいなことを任せよう」


 という訳で、サラの前にその少女があらわれたのは、保護された2日後のことだった。

「あなただれ……?」

と、サラが問うと、彼女は

「うん、あたし?

あたしはプロトというにゃ!

よろしくね!」

と、自己紹介した。


 プロトという少女は、サラにとって不思議な存在すがたをしたものとしてまず把握された。

 それというのも、彼女は濃紺のジャージの全面に微かにある胸と除くと、女性であることを強調していない、むしろ中性的な雰囲気の少女なのだが、を与えるのは、彼女の左眼とその周囲を覆う機械的な眼鏡ノクルであった。


 その少女プロトは、サラの手を握ると

「あたし、いろんなこと知ってるにゃ。

でも外に出たことにゃいんにゃ」

「……へえ」

「だから、勉強とか教える代わりに、あたしにもイロイロ教えてほしいにゃ。

お願い!」

「うん……、分かった……」

「やったにゃ!」

と、プロトはサラの手を握ったまま、ブンブンと握手する。

 サラは困惑しながら、まんざらでもないといった困惑と喜びの中間のような表情をしていた。


 さて、こうしてサラとプロトの2人が、いろんなことを学んでいくことになるのだが

「なんだ、本筋と関係ない話ばっかりじゃないか!!!」

という方がおられるかもしれない。

 しかし、ギュスターヴと彼によって運命を変えられた人々を描くために必要なことなので、しばらくお付き合いくださると幸いである。


「ねえねえ、サラちゃん」

「……なあに、プロトちゃん」

と、早速イチャイチャしてる2人。

 プロトが何を聞いているかと言うと

「サラちゃんは、にゃんでここにきたにゃ?」

「……うんとね、私、なんかおかあさんのことで大人の人たちに怒られてたの……」

 と、彼女はここに来たキッカケについてプロトに話した(詳しくはサラという少女その1を参照)。

「うえええ、サラちゃんかわいそうにゃ!

そんな酷いことがあるにゃんて!」

と、憤るプロトを見て、サラは嬉しそうに

「……うん、ありがと。

私なんかのために怒ってくれて……」

と、言った。


 一方、サラはプロトの不思議な姿について、知りたがっていた。

「……ねえ、あなた、なんでそんな姿なの?」

「うん?」

と、プロトは小首を傾げながら言う。

「なんか、あたしの中にたくさんの情報が、勝手に蓄積されていくにゃ。

今こうしてる間にも、どんどん増えていくにゃ。

そして、消えていかないにゃ……」

「あ、ご、ごめん……」

「いいにゃ、心配やさしくしてくれるだけで、うれしいにゃ」

と、プロトは快活に笑った。


 さて、これからしばらくはクイズと料理を作る描写が続いていくが、この脱線は必要なことなので、しばしご容赦願いたい。


「ねえねえ、サラちゃん、英語では『Click-Clack Mountain』というタイトルのかたき討ちをテーマにした有名な昔ばなし知ってるにゃ?」

「……カチカチ山?」

「正解!すごいにゃ!」


 その問題を出されてる間に、サラは、ご飯を炊いていた。

 いわゆる『五穀ご飯』というやつで、量は

 お米:180グラムくらい

 五穀:20グラムくらい

と、いった感じで、それらをといで、60分くらい水につけた後、炊くと、完成できあがりである。


「サラちゃん、ダックスフンドに見立てて名前が付いたという話もある、細長いパンの切れ目を入れて、ソーセージを挟んだ食べ物って、何か知ってるにゃ?」

「……ホットドッグ?」

「正解にゃ!」


 という問題の間に、サラは、みそ汁を作っていた。

 中身は

 水菜:60グラムくらい

 お豆腐:半分の半分

という感じで、水菜を3センチくらいに切って、豆腐はさいの目に切る。

 そしてだしを煮て、豆腐と水菜をそのナベに入れる。

 最後に、火を弱めて、みそを入れて完成できあがり


 さて、作ってもらったご飯とみそ汁を食べながら、プロトはこう聞いた。

「サラちゃんは、なんでこんにゃ美味しいの作れるにゃ?」

 すると、サラは寂しそうに

「……うん、一人でなんでもやらなきゃいけなかったから……」

と、言った。


「サラちゃん、ソラマメとかモルモットとかの別名にも使われてる、来訪者の来る先の1つであるインドという所の古い呼び名って知ってるにゃ?」

「……???」

「ヒントは、西遊記という話で三蔵法師や孫悟空が……」

「……わかった、天竺」

「正解にゃ」


 という問題の間に、サラはご飯を作っている。

 お米:155グラムくらい

 麦:45グラムくらい

で、お米をといで、麦を加えて炊く。

 後は、ごまでもしらしでもふりかけでも、器に盛ったご飯の上にやれば完成できあがり


「サラちゃん、元々はオルガンの調律用に作られて、『マウス・オルガン』とも呼ばれる楽器知ってるにゃ?」

「……??」

「ヒントは、長方形で息を吹き込んだり吸い込んだり……」

「……ごめん、わかんない」

「……正解はハーモニカにゃ」


 そんな問題の間、サラはおみそ汁を作っていた。

 なめこ:90グラムくらい

 豆腐:半分くらい

 三葉:20グラムくらい

で、豆腐をさいの目に切って、だしをあたためて、なめこと一緒に入れる。

 火を弱めて、みそを溶き入れる。

 最後に、器に盛り付けて、あらかじめ刻んだ三葉を入れて完成できあがり


「ねえねえ、サラちゃん亀の甲羅という意味の『tortoiseshellcat(トータスシェルキャット)』とも呼ばれる、猫の種類知ってる?」

「……?」

「ヒントは、白、黒、茶色」

「…三毛猫?」

「正解にゃ!」


 この問答の間、サラはご飯とみそ汁の他に軽く一品、作ってみることにした。

 きゅうり:1本

 輪切り唐辛子:少し

で、きゅうりは3ミリの小口切りにする。

 後は、輪切り唐辛子をくわえて、しんなりするまで置いてから揉む。

 小皿に盛り付ければ完成できあがり


 プロトが美味しそうにご飯を食べているのを、手持ちぶさたな様子で見ていたサラは、なのでちょうど自分の近くにあった小冊子を読むことにした。

 僧衣そういの三毛猫と、古い教会が表紙のそれは

『ルネージュ教会と聖ギュスターヴについて』

という題名だった。

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