サラという少女その1
「はい、はい、ブレイク、ブレイク」
天京院次郎が両手を伸ばしてレフリーのように、銃口の交点に飛び出した。
きっかけは彼の護衛兼監視役兼秘書のメリーが、仕事相手の反帝国ゲリラの一群が、ある少女を襲っている場面に遭遇したことに始まる。
「にゃにしてるの、離れなさい!」
と、マリーは顔面蒼白で大汗をかきながら、彼らに携帯している拳銃を突きつけた。
「なんにゃ、人が娘っ子の最初の味見をしようとしてるにょに」
「代わりに私を使ってとか言うにょかね?
ガバガバそうだけどにゃ」
と、反帝国ゲリラ達は
そんな一触即発の状況の中、次郎がやってきたという話らしい。
次郎は、少なくとも表面上穏やかな声で、反帝国ゲリラに向けて語りかけている。
「まあまあ、我々は別にあなた方と争うなんてことは考えてませんよ。
我々は、軍事訓練や、武器をはじめとした物資を供与するために、こうやって一緒にやってきたんじゃないですか。
しかし、だからといって、我々はこの状況を座視するわけにもいけない訳です。
そこでですが、取引といきませんか?
我々が、その少女を保護する代わりに、なにか供与しましょう」
「ふむ、じゃあ、最新型のASとかはどうにゃ?」
と、反帝国ゲリラの一人で、リーダー格らしい猫が提案した。
AS(アームド・スーツ)というのは、所謂『大戦期』に開発、発展していった人型兵器であり、大きさは3メートルから20メートルまで、重量も300キロから5トンまでと色々なバリエーションの多彩さで、近年の戦争の主役となっている兵器であった。
しかし、この反帝国ゲリラのような小さな組織には、価格帯が高すぎてまず回ってこない兵器でもある。
次郎は、しばらく考える素振りを見せたが
「ふむ、わかった、
と、言った。
「うにゃ、これはすごいにゃ、まさかロボットににょれるなんてな」
彼らに、供与されたASは、3メートルの小型機で、ゲリラ戦に使われる名機『トリスター』であった。
「こんなもんを、そんな娘っ子の代わりにもらっていいにょか?」
「ええ、どうぞ、どうぞ。
我々としては、実戦で色々ためしてほしいのでね」
と、次郎はニコニコしながら言った。
次郎とマリーが、娘を連れて行くと、反帝国ゲリラ達の一人が
「女の味見ができたにょに、損したか、得したかわからにゃいにゃ」
と、言った。
すると、リーダー格らしき猫が
「はん、そんにゃの、このASでまた女をさらえば良いにゃ」
と、下品な笑い声をたてて言った。
さて、次郎とマリーが勤めているのは、『共和国開発機構』という宇宙開発や、開拓のための組織の軍事を担当する『特殊警備部』という部署で、彼らは先の反帝国ゲリラをはじめとした、色々な勢力に新兵器を供与することで、様々な実地試験を行い、それをさらにプレゼンテーションするという仕事であった。
「それにしても、あれで良かったのでしょうか?
多分彼らは、あれを使って新しい犠牲者を探すだけなのでは」
と、マリーが先ほどの争いで乱れた服や眼鏡を直しながら疑問を口にすると、次郎は
「うん、そろそろかな?」
と、腕時計を見ながら何事かを待っている様子。
すると突然、大きな爆発音が、彼らのいる室内に響いた。
「?!」
「マリー、きみね、私があの連中にただでASを渡したと思ったのか?」
と、次郎がこの状況に似つかわしくない穏やかな笑みを浮かべながら言う。
「あのASには、操縦席にあからさまに怪しい赤いボタンがあってね、それこそ、だれでも押したくなるやつ。
そして、押したら、やっぱりドカン!といく訳だ。
まあ、耐久実験だよ」
「あなた、最低にゃ」
「よく言われる」
苦笑しながら、次郎は、なにがおこったか理解出来ずにキョトンとした少女にこう聞いた。
「ところで、君、名前は?」
「……サラ」
「ふむ、サラというのか。
私は次郎、こちらの女史はマリーという」
と、お互いぎこちない感じで自己紹介をする。
「なんで、あんな連中に捕まったんだい?」
「……おかあさんが、なにかわるいことをしたらしくて、そのばつだって……」
「へえ、あの連中らしいな。
で、そのお母さんの名前は言える?」
「うん……、ラベールというの」
と、その少女サラの母の名前を聞いた次郎は、内心驚いた。
彼の父親であるギュスターヴが路頭に迷わせた女性と同姓同名であるということに。
結局、『
そして、この少女サラと出会ったことは、次郎の運命を変えることになるが、それは別の話。
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