三郎からの手紙大1信

 拝啓:私の父であるところのギュスターヴ様

 お元気でしょうか?

 私は、仕事上あまり取れない休みをとっている所です。

 ご存じの通り、私の職業は、この『大陸ちいさなせかい』を統べる3つの国、すなわち『帝国』『皇国』『共和国』の治安を守るために作られた『連合警察』の『ルネージュ地区捜査課主任』です。

 私を含めて部下と上司の3人しかいない捜査課ですが(聞く所によると、かの帝都アバロン地区の捜査課は1000人もいるそうです。この『地域かんかつくいきの広さと人員そうさいんが反比例してる』というのは、私の所属している組織にとって、致命的な問題になっているでしょう)。

 さて、私がこうして没交渉な貴方に手紙を書いているのは、貴方に結局愛されることのなかったあの一郎兄さんが、失踪すがたをけしたしたということを、ご報告したかったのです。

 一郎兄さんは、貴方もご存じの通り、ラベールという女性を殺害した罪で捕まり、精神鑑定の結果、精神病院で多分一生を送るはずでした。

 私は、1捜査員として件の事件を捜査する側でしたが、自分の兄がこのような(ラベールの遺体は、顔を潰されて、上半身と下半身が真っ二つに分離していました)所業をするのは、とても信じがたかったので、事件の捜査が終わった後も、病院でたびたび一郎兄さんと面会たいわしていました。

 結局、身のある話は一切聞き出せず、一郎兄さんは失踪してしまった訳ですが、彼の脈絡のない話を私なりに整頓してみたり、通常勤務の間に事件を再検討してみたり、とにかく私なりに色々考えてみることをしていくと、ある考えが浮かんで、慄然としてしまいました。

 つまり

『彼女を殺したのは、結局じゃないのか』

 ということです。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る