ギュスターヴのへの道その2
さて、ここでギュスターヴと明日美、仁美兄妹の関係性について、書いておく。
ギュスターヴ夫人となった天京院茜には双子の妹、『
空は、天京院に婿養子になったものの、ギュスターヴと違って出世をもとめず、天京院グループでも末端の小さな工房の主として生涯を終えた
晴美は、ごく普通の会社員として短い生涯を過ごしたが、ルネージュ滞在時にギュスターヴの数多い子供の一人(名前は不詳)と一夜の付き合いをして、そこから明日美が産まれたらしい。
らしいというのは、明日美は皮肉なことにギュスターヴの名を冠した教会に捨てられていたので、そこら辺があいまいなのである。
結局、その教会が運営している養護院から、父である晴美の元に行くことになったのは、彼が小学3年生のことであった。
1歳下の仁美は、その時初めて明日美にあって、一目惚れしてしまったというが、それば別の話。
その仁美は、晴美が結婚したマユとの間に産まれた子供なので、つまり明日美と仁美は異母兄妹ということになる。
明日美が小学5年生になった時、晴美が急死して、二人はおじである夏見の元で、明日美が高校2年生、仁美が高校1年生になるまで過ごした。
そうして、ギュスターヴの養子縁組となる。
つまり、明日美にとって、ギュスターヴは大おじさんであり、祖父でもあるという、複雑な関係であった。
さて、そういった事情もあって、実の親である晴美にはあまり親しさを感じなかった(仁美にいたっては、積極的に憎悪していた)二人だが、おじさんである夏見には、好意をもっていた。
理由は単純なことで、典型的な
ルネージュへ旅立つ前に
「あの家に1度だけ言ったことがあるけど、まあ社会勉強にはなる家だと思うよ。
いってらっしゃい」
と、言って見送ってくれた夏見おじさんのことを、明日美は忘れることはないだろう。
さて、話を元に戻して、ワザリング・ハイツの
扉を開けたのは、老年のメイドで、彼女は
「あら、貴方が天京院明日美様でいらっしゃいにゃすか?」
と、尋ねた。
明日美が無言でうなずくと、メイドは
「そうでございにゃすか。
私はこの屋敷で、貴方の世話を担当するネリーともうします」
と、自己紹介した。
「では、お入りください。
ギュスターヴ様は、今所用があって、出られないので、中にある待合室で、お待ちくださいませ」
待合室とはいうものの、ようはゲスト用に作られた部屋を『待合室』として使っているらしく、明日美は、頑丈な木のイスに座って、ネリーが持ってきた紅茶(『
無骨で雑風景な部屋のなかに、1枚の絵が飾ってある。
(はて、あの絵の名前はなんだっけな?)
と、明日美はしばらく考えて
(ああ、『聖セバスチャンの殉教図』とかいう絵だ)と、思い出した。
ご丁寧にも、本来は聖セバスチャンの絵を模して、ギュスターヴ自身の自画像を飾っているのだった。
しばらくすると、秘書らしい妙齢の女性が
「ギュスターヴ様が、お会いになります。
どうぞ、こちらへ」
と、案内してくれる。
彼女の襟元に、情事の跡を発見した明日美は
(ああ、待たされたのはこういうことか)
と、思ったが、そんなことはおくびにも出さず
「わかりました」
と、軽い会釈をしながら、彼女についていった。
案内された先は、ギュスターヴの書斎で、ドアをあけると、上半身裸のギュスターヴが
「おう、君が明日美くんかにゃ?」
と、尋ねた。
少し気圧された明日美は
「は、はい、そうです」
と、返した。
ギュスターヴはうなずきながら
「ふむふむ、これからよろしくたにょむにゃ」
と、いった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます