ギュスターヴのへの道その2

さて、ここでギュスターヴと明日美、仁美兄妹の関係性について、書いておく。

ギュスターヴ夫人となった天京院茜には双子の妹、『そら』がいた。

空は、天京院に婿養子になったものの、ギュスターヴと違って出世をもとめず、天京院グループでも末端の小さな工房の主として生涯を終えた駿介しゅんすけに嫁いで、明日美と仁美の父である晴美はるみと工房を継ぐことになる夏見なつみを産んだ。

晴美は、ごく普通の会社員として短い生涯を過ごしたが、ルネージュ滞在時にギュスターヴの数多い子供の一人(名前は不詳)と一夜の付き合いをして、そこから明日美が産まれた

というのは、明日美は皮肉なことにギュスターヴの名を冠した教会に捨てられていたので、そこら辺があいまいなのである。

結局、その教会が運営している養護院から、父である晴美の元に行くことになったのは、彼が小学3年生のことであった。

1歳下の仁美は、その時初めて明日美にあって、一目惚れしてしまったというが、それば別の話。

その仁美は、晴美が結婚したマユとの間に産まれた子供なので、つまり明日美と仁美は異母兄妹ということになる。

明日美が小学5年生になった時、晴美が急死して、二人はおじである夏見の元で、明日美が高校2年生、仁美が高校1年生になるまで過ごした。

そうして、ギュスターヴの養子縁組となる。

つまり、明日美にとって、ギュスターヴは大おじさんであり、祖父でもあるという、な関係であった。

さて、そういった事情もあって、実の親である晴美にはあまり親しさを感じなかった(仁美にいたっては、積極的に憎悪していた)二人だが、おじさんである夏見には、好意をもっていた。

理由は単純なことで、典型的な仕事ワーカ人間ホリックで、人の気持ちをあまり斟酌しなかった晴美に比べると、同じような人見知りでも、ギターでビートルズやはっぴいえんどの曲を奏でたり、いわゆるエロゲーやマンガに対する知識を教えてくれた才人として、また一緒にゲームや読書、運動会やおゆうぎ会に父に代わって参加してくれたおじさんの方に愛情を持つのは普通であろう。

ルネージュへ旅立つ前に

「あの家に1度だけ言ったことがあるけど、まあ社会勉強にはなる家だと思うよ。

いってらっしゃい」

と、言って見送ってくれた夏見おじさんのことを、明日美は忘れることはないだろう。


さて、話を元に戻して、ワザリング・ハイツのもんが開いた所からはじめよう。

扉を開けたのは、老年のメイドで、彼女は

「あら、貴方が天京院明日美様でいらっしゃいにゃすか?」

と、尋ねた。

明日美が無言でうなずくと、メイドは

「そうでございにゃすか。

私はこの屋敷で、貴方の世話を担当するネリーともうします」

と、自己紹介した。

「では、お入りください。

ギュスターヴ様は、今所用があって、出られないので、中にある待合室で、お待ちくださいませ」


待合室とはいうものの、ようはゲスト用に作られた部屋を『』として使っているらしく、明日美は、頑丈な木のイスに座って、ネリーが持ってきた紅茶(『ゲート』側から輸入された嗜好品で、ダージリンというらしい)を、少し口に含みながら、部屋の回りを見渡した。

無骨で雑風景な部屋のなかに、1枚の絵が飾ってある。

(はて、あの絵の名前はなんだっけな?)

と、明日美はしばらく考えて

(ああ、『聖セバスチャンの殉教図』とかいう絵だ)と、思い出した。

ご丁寧にも、本来は聖セバスチャンの絵を模して、ギュスターヴ自身の自画像を飾っているのだった。

しばらくすると、秘書らしい妙齢の女性が

「ギュスターヴ様が、お会いになります。

どうぞ、こちらへ」

と、案内してくれる。

彼女の襟元に、情事の跡を発見した明日美は

(ああ、待たされたのはこういうことか)

と、思ったが、そんなことはおくびにも出さず

「わかりました」

と、軽い会釈をしながら、彼女についていった。


案内された先は、ギュスターヴの書斎で、ドアをあけると、上半身裸のギュスターヴが

「おう、君が明日美くんかにゃ?」

と、尋ねた。

少し気圧された明日美は

「は、はい、そうです」

と、返した。

ギュスターヴはうなずきながら

「ふむふむ、これからよろしくたにょむにゃ」

と、いった。

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