はじまりの場所
さて、ギュスターヴには
というより、公的な
長男の一郎は、父親であるギュスターヴの性格を一番濃く受け継ぎ、衝動的で漁色家。
次男の次郎は、ギュスターヴの才覚を受け継ぎ、学者肌で機械いじりを好む。
三男の三郎は、ギュスターヴに似ず、性格は内向的で、むしろ天京院の血を感じさせた。
さて、本来はこの三人の誰かがワザリング・ハイツをはじめとしたギュスターヴの財産を得るはずだったのだが、彼らはそれぞれの事情で、強制的に、あるいは自主的にその財産を受け継ぐことはなかった。
彼らは、父親の血によって、激動の運命に身を委ねざるえなかったのであろう。
ジリリリリ!
『学園都市線、急行列車ルネージュ行きは12時丁度の発車となっております』
アナウンスとチャイムの音で
彼は、アナウンスのあったルネージュ行きの急行列車の自由席に乗っている。
「お兄さま!」
「ああ、ごめんごめん」
と、明日美は穏やかそうに笑いながら言った。
「まったくもう、お兄さまはいっつもそうなのね。
わたしたちが今からいく所がどこかって、わかってるのに余裕ぶって」
「いや、別に余裕ぶってるわけじゃないんだけどね」
と、返すと仁美はまたあきれたような顔をして言う。
「わたし、お兄さまのそういうところ、ほんとに嫌いだわ」
「知ってる」
「その返しも、サイテー」
「じゃあ、どう返したらいいのかな?」
「黙ってて」
と、言われた明日美は軽く首をふって、駅弁に入っていたイカを食べ始めた。
モシャ、モシャ、モシャ
歯応えがあって、味付けが多少しょっぱいけど、美味しい。
イカにそんな感想を抱いていると、明日美にイカを食べさせる原因である仁美はすうすう寝ていた。
(さっきまであんなに騒いでいたのに、寝るの早いなあ)
と、明日美は思った。
明日美は、天京院を名のってはいるが、天京院の
なので、天京院という名前を背負っているものの、ごく普通に生きてきて、ごく普通の学生生活を送ってきた高校生なのだった。
少なくとも、ギュスターヴの養子になるまでは。
妹の仁美は、文字通り彼の妹なのだが、彼女には天京院家に隔世遺伝で伝わる特殊な『
『力』というのは、人間と猫の子供にまれに発現する
「ただ頑丈なだけで、なんの役にもたたないわ」
とは、本人の弁。
今回、ギュスターヴの養子として迎えられたのは、明日美だけにも関わらず、仁美も一緒についてきているのは、その発言力の賜物であろう。
話を明日美の方に戻すと、彼は自分を天京院の血を引く割りには、普通の人間だと思っているが、仁美の側から言うとそれは間違いであるらしい。
「お兄さまは、変なことに興味をもったり、そのくせ重要なことに興味がなかったりするのよね」
と、妹として兄を見てきた仁美は語る。
ともあれ、今回もあまり深く考えないまま
「有名人に会いに行こう」
くらいの気持ちで、今回のギュスターヴの
ジリリリリリ
『学園都市線ルネージュ行き急行列車、発車します』
アナウンスとともに、二人の乗った列車は、ガタンゴトンと動き始めた。
明日美は、ボケッと移り変わる車窓を見ながら
(さてはて、なにが待ち受けているのかな)
と、思った。
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