はじまりの場所

さて、ギュスターヴにはてんきょういんあかねとの間に三人の子供をもうけている。

一郎いちろう次郎じろう三郎さぶろうと生まれた順番に付けられた子供たちである。

というより、公的な嫡出子こどもである彼等3人以外にも、認知されたり本人が忘れさっていた非嫡出子こどもを含めると一説によれば100人近い子供がいたというギュスターヴは、名前を付けるのが面倒だったのだろう。

長男の一郎は、父親であるギュスターヴの性格を一番濃く受け継ぎ、衝動的で漁色家。

次男の次郎は、ギュスターヴの才覚を受け継ぎ、学者肌で機械いじりを好む。

三男の三郎は、ギュスターヴに似ず、性格は内向的で、むしろ天京院の血を感じさせた。

さて、本来はこの三人の誰かがワザリング・ハイツをはじめとしたギュスターヴの財産を得るはずだったのだが、彼らはの事情で、強制的に、あるいは自主的にその財産を受け継ぐことはなかった。

彼らは、父親の血によって、激動の運命に身を委ねざるえなかったのであろう。

閑話休題それはともかく、結局この三兄弟はいずれもワザリング・ハイツから出ていってしまったので、ギュスターヴは天京院本家から、自分の亡き後ワザリング・ハイツを維持するために、養子を迎えることになった。


ジリリリリ!

『学園都市線、急行列車ルネージュ行きは12時丁度の発車となっております』

アナウンスとチャイムの音で明日あすは、目を覚ました。

彼は、アナウンスのあったルネージュ行きの急行列車の自由席に乗っている。

対面しょうめんには、妹の仁美ひとみがぷりぷりしながら、こちらを見ていた。

「お兄さま!」

「ああ、ごめんごめん」

と、明日美は穏やかそうに笑いながら言った。

「まったくもう、お兄さまはいっつもそうなのね。

わたしたちが今からいく所がどこかって、わかってるのに余裕ぶって」

「いや、別に余裕ぶってるわけじゃないんだけどね」

と、返すと仁美はまたあきれたような顔をして言う。

「わたし、お兄さまのそういうところ、ほんとに嫌いだわ」

「知ってる」

「その返しも、サイテー」

「じゃあ、どう返したらいいのかな?」

「黙ってて」

と、言われた明日美は軽く首をふって、駅弁に入っていたイカを食べ始めた。

モシャ、モシャ、モシャ

歯応えがあって、味付けが多少しょっぱいけど、美味しい。

イカにそんな感想を抱いていると、明日美にイカを食べさせる原因である仁美はすうすう寝ていた。

(さっきまであんなに騒いでいたのに、寝るの早いなあ)

と、明日美は思った。


明日美は、天京院を名のってはいるが、天京院の傍系しんせきの出である。

なので、天京院という名前を背負っているものの、ごく普通に生きてきて、ごく普通の学生生活を送ってきた高校生なのだった。

少なくとも、ギュスターヴの養子になるまでは。

妹の仁美は、文字通り彼の妹なのだが、彼女には天京院家に隔世遺伝で伝わる特殊な『ギフト』を使うことが出来たために、傍系の出でありながら、天京院家の中でも、一定の発言力があった。

『力』というのは、人間と猫の子供にまれに発現する能力パワーのことで、例えば仁美の場合は頑丈な体だったり、アポーツや、不老など、色々な能力がある。

「ただ頑丈なだけで、なんの役にもたたないわ」

とは、本人の弁。

今回、ギュスターヴの養子として迎えられたのは、明日美だけにも関わらず、仁美も一緒についてきているのは、その発言力の賜物であろう。

話を明日美の方に戻すと、彼は自分を天京院の血を引く割りには、普通の人間だと思っているが、仁美の側から言うとそれは間違いであるらしい。

「お兄さまは、変なことにするのよね」

と、妹として兄を見てきた仁美は語る。

ともあれ、今回もあまり深く考えないまま

「有名人に会いに行こう」

くらいの気持ちで、今回のギュスターヴの養子こどもになることを選択したのだった。


ジリリリリリ

『学園都市線ルネージュ行き急行列車、発車します』

アナウンスとともに、二人の乗った列車は、ガタンゴトンと動き始めた。

明日美は、ボケッと移り変わる車窓を見ながら

(さてはて、なにが待ち受けているのかな)

と、思った。

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