ギュスターヴの伝記その2

 ギュスターヴの産まれた所は、その同じ名前の聖人が産まれたとして知られるルネージュという小都市である。

 しかし、この小都市は来訪者ビジターを呼ぶことが出来る門の1つがあるという、極めて重要な拠点ポイントであったため、帝国と共和国の長きに渡る戦乱の最中でも、ある程度の平穏が保たれてきた。

 ギュスターヴの少年時代については、当人のとのためもあって、深い霧の中にある。

 数少ないエピソードも

『10代で、すでに100人以上の女性と関係があった』

『ある金持ちの夫人を寝とって、彼女から得た資金カネで金融業(この場合、所謂ヤミ金)を始めた』

など、およそ少年らしからぬ、しかしのちのギュスターヴを知っている者には

「あいつならやりかねない」

と、言われるようなエピソードばかりである。

 そしてギュスターヴが成長していくにつれ、彼の

『見境のない、痛烈なエゴ』

『欲望の塊の擬人化』

といった印象イメージは周囲の人間や猫たちには、ますます強固なものとなっていった。

 そんなギュスターヴにも、少年らしいエピソードが1つある。

 『マリーナ』という猫との、淡い恋愛とも言えない関係である。

 傍若無人に振る舞う彼に、皆が白眼視シカトする中、唯一

「皆が言うほど、悪い人にゃにゃい。

悪くいうあなた方が最低にゃ」

と、彼を守ってくれた少女であった。

 しかし、結局マリーナは『来訪者』である富豪(名前は後に書く理由から、不明である)と結婚し、ギュスターヴは恋破れ、ますます廃退な生活になっていった。

 そんなこんなで、例外はあれど老若男女人猫から嫌われたギュスターヴは、その胸のうちにある計画かんがえを宿したと思われる。

 思われるとただし書きがつく理由は、この時期のギュスターヴの、心の中は誰も知らないからである。

 しかし、彼は

「オレは、このままですます気がにゃいぞ。

売られた喧嘩はのしをつけて返してやるにゃ」

と、行きつけの酒場で広言していたという。

 彼は、やがて何処かへと姿を消した。


 次に彼がこの街に帰ってくるまで、どのようなことがあったかは、さだかではない。

 しかし、ギュスターヴが名前にミスターとつく紳士として、ルネージュの街に帰還した時、彼を知る街の人々は一様に

「これから、良からぬことが起こるのではないか」

と、嫌な予感がしたという。

 実際、ギュスターヴが帰ってきてから数年で街は彼を嫌いながら、彼無しでは成り立たないという状態せいかつに追いやられた。

 さて、帰ってきたギュスターヴは、来訪者で元は日本の大正時代に所謂成金であった(有名なお札に火をつけて『アカルイダロウ』とやっているモデルだったらしい)が、恐慌前に『呼ばれた』ことで難を逃れて、結果的に名家となった『天京院てんきょういん』家の婿養子となっていた。

 いかなる詐術ウソがあったかはわからないが、ともあれギュスターヴの私的な立場は『天京院家の金庫番』であり、公的な立場は『天京院グループルネージュ地区支配人』であった。

 性格も、粗暴だが、どこか人の良さがある少年だったのが、計算ずくで悪行わるいことに手を染める、知能犯となっていた。

 こうして帰ってきたギュスターヴが始めたのは、マリーナとその夫を破滅させることだった。

 手始めに、自分の地位を利用して、無理な取り引きをさせて夫を破産させた。

そして、酒浸りになった夫とマリーナの住んでいた屋敷を抵当として、自分の住居にする(ただし夫婦と彼等の娘は同居)。

 その屋敷で、なにが起こっていたのか、外部からはわからないのだが、結果的には夫はアルコール中毒で死に(ギュスターヴ自ら手を下した疑惑もあるが、今となっては証拠もなにもない)、マリーナも後を追うように病死。

「ああ、光が、光がみえにゃいよ!」

が、マリーナ最後の言葉であったという。

 彼等の娘である『ラベール』はシンデレラもかくやといった仕打ちの末に、追い出されるように屋敷を出ていった。

 ギュスターヴの復讐が念入りなのは、ルネージュの名士であった夫の名前を公文書からなにから消し去り、後世にいたるまで『マリーナの夫』でしかない存在におとしめることまでやったのである。

 こうして、屋敷を手に入れたギュスターヴは、そこを拠点にルネージュを文字通り支配しはじめた。

 彼は経済だけでなく、自分の傀儡操り人形を市長に据えて、ルネージュを思うがままに動かせるようにした。

 街の住民は、政治・経済両面にわたって、この独裁者の支配下にあることになったのだが、ギュスターヴは自分の障害となる者と女性関係以外には、恐ろしいほど公正であったため、その嫌悪のわりに反発はなかったという。

「オレは従属させるんにゃにゃい、空気のように一緒いるだけにゃ」

とは、ギュスターヴの弁である。

 ともあれ、約20年その体制は続いた。

 やがて年老いたギュスターヴは引退リタイアしたが、影に日向に影響力を保持しながら、いまや『ワザリング・ハイツ』と呼ばれる屋敷で悠々自適の暮らしをしている。

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