faculty ~四人姉妹の物語~

今村広樹

ギュスターヴの伝記その1

 その猫を見たものは、ほぼ例外なく『フョードル・パーヴロウィチ・カラマーゾフ』や『トマス・サトペン』『ヒースクリフ』といった小説の登場人物と同質の人間性キャラクターを感じたという。

 彼の名前は『ギュスターヴ』という。

 名前の由来モトネタは、同じ名前のキリシニャンの聖人である。

 が、その性格は正反対で、こちらのギュスターヴは絵に描いたような俗人であり、金と情欲が彼の神であった。

 そして、その性質ひととなりゆえに、ギュスターヴは彼を知る人間のほぼすべてから嫌われていた。

 ニューラグーン大学の『サタースウェイト』教授は、若き学徒であった時期、指導教授の代わりとしてさるパーティに出席した時に、ギュスターヴの酒乱おおあばれっぷりを見たときのことを、こう回想おもいかえしている。

 以下、その回想録メモリアルからの抜粋。

 ……私はかの人物のうわさを、よく耳にしていた。

 立志伝中の有名人にして、要注意の危険人物として。

 私はそんなうわさは、眉唾物であると思っていた。

 (中略)

 さて、こうして○○伯爵夫人のパーティに出席した私は、そこで初めてギュスターヴ氏という猫と遭遇した。

「にゃあにゃあ、皆さん、聞いてくにゃさいな」

 彼は、ものすごい泥酔状態で、あちらこちらの列席者と絡んでいた。

 その挙句、彼は舞台役者のように、周囲に向かって演説を始めたのであった。

 付記しておくと、ギュスターヴ氏は実際にはこの数倍喋り散らかしているのだが、正直書くに堪えぬものだったので、要約であることを、お断りしておく。

「わたしにゃあねえ、これでも人並みに人や猫を、愛することにゃ、できるんですにゃ。

でもね、私があなた方を愛しても、あなた方は私をあいしてはくれにゃい。

容姿かおも美男子とは言いにゃせんが、人並みであるという自負はありにゃす。

かの救世主ではありにゃせんが、人や猫に『約束の地』を見せることもできにゃす。

しかし、あなた方は私を愛してくれようとは、してくれにゃい!」

と、ギュスターヴ氏はその話を強制的に聞かされている○○伯爵夫人を始めとした列席者に向かって、小馬鹿にしたような笑みを浮かべた。

 ギュスターヴ氏の話は続く。

「だからこそにゃす、私はあなた方を軽蔑するしかないのですにゃ。

ええ、私はあなた方を愛するがゆえに、憎んでいるのにゃす!」

と、笑みは哄笑おおわらいへと変わっていき

「いえいえ、すべては私の舌からでにゃかせですにゃ。

所詮は道化ピエロの戯言でございにゃす!

はははははは!」

と、笑いが止まらぬ様子であった。

 その狂態おおあばれを、私を始めとした列席者は、唖然キョトンとして見るしかなかった……。

 さて、ギュスターヴという破格の人物について記述してきたが、はっきり書いてしまえば彼の異様さはこの挿話エピソードにあるように、周知のモノであった。

 しかし、なおも『どこか書ききれていない』という不十分感、どうしても付きまとってしまう。

 

 だが、彼を祖とする一族を書くためには、彼ギュスターヴを書かねばなるまい。

 という訳で、まずは、彼の来歴から語ろう。

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