思いは届かずいつまでも

箱丸祐介

思いは届かずいつまでも

学校に行けばいじめられ、家に帰れば虐待を受け、助けてくれる人間もいない。

そんな彼箱丸祐介の頭を死という快楽の文字が過ぎった、死ねば楽になれる、生きてたってろくな事は無い苦しみ続けるだけだ。

でも、そんな時彼を救ってくれたのは、顔すらわからない、画面越しの相手彩華だった。



彼女との出会いはとあるスマートフォンゲームだった、メッセージアプリで話し相手になってくれる人間を募集していた祐介はDM(ダイレクトメッセージ)で話し掛けられた。

ゲーム内で話していると、同い年だったのもあるかも知れないが当時まだ小学六年生だった、祐介にとっては運命ともいえる出会いだった。

それからメッセージアプリのIDを交換し毎日のように話すようになった祐介と彩華、祐介はある日彩華にこんな話をしていた。

「俺、実はつい最近まで嫌な事ばっかりで、いっそ死んだ方が楽なんじゃないかなって思ってたんだ」

普通に考えてネットで知り合った相手にこんな話をするなんて、ありえないとほとんどの人がそう思うと思う。

でも、いままで頼る人間も居なかった祐介にとっては、最初で最後の人間かもしれなかった。

「そんなこと思ってたんだ、祐介からは色々と話したけどそんな風には思えなかったな」

彩華が言った言葉の意味はすぐにわかった、祐介自身は彩華と話している間は明るくなり、そう言う話もしていなかったからだと思った。

「でも、死んじゃったら何も残らないよ?、祐介はそれでもいいの?」

「どうだろうね、そもそも生きてる理由がわからないから」

「どういうこと?」

「昔読んだ本で、望まれずに生まれる子供なんていないって書いてあったんだ。でも、俺にはその言葉が幻想に聞こえた。それに信じられないかも知れないけど、今は人が怖い、自分の近くで誰かが耳打ちで話してると、自分の事じゃないかって怯えてる」

「じゃあ、祐介は私のことも信じられない?」

「彩華は特別かな多分俺の知ってる中では、彩華だけだと思う、俺とここまで仲良くしてくれたのは」

世界中で多分ただ一人、最初で最後の祐介を必要としてくれて、祐介を人として扱ってくれて、祐介を友と言ってくれた人。

そう、ただ一人彩華だけだと思っていたこの半年後までは。

「じゃあさ私と約束してよ、これから絶対死にたいなんて思わず、生きていたいって理由を探すって」

「どうかな、約束出来るかな」

「約束しよ」

「じゃあ、いつかリアルで彩華に会えるようにって事で生きる理由を決める!」

「うん、私も約束は出来ないけどそうしよう!」

その日の約束は四年たった今でも忘れていない。


半年後、同じ日に卒業式を迎えた祐介と彩華、お互いに初めて卒業式の写真を送り顔を見せあった。

しかし、それから一度として彩華と連絡がつくことはなかった。

それから立て続けに祐介は不幸に見舞われた、両親から『自分の子供だとは思っていない』、と言われ。

環境が変わればいじめは無くなるだろうと思っていたのに対し、無くなる所か激化していったいじめ。

どんどんと弱まっていく精神力に対しまた死のうと考えたときもあった、でも、祐介が死ななかったのはほとんどが彩華との約束のおかげだった。



それから三年、祐介が自分に自分で掛けた飛び降り自殺という死神鎌は、たまたま通りかかった通行人によって、下半身不随という後遺症でとどまった。

祐介は思ってしまったのだ、自分自身が希望としていた少女彩華に裏切られたと。

もうこの世界に生きる場所はない、希望もないならいっそ死んでしまえばいいと。

彼は何度か学校関係の精神カウンセラーに病院でカウンセラーを受けていた、その時に何度も言っていたそうだ『俺には学校に行く義務はあっても、(人としての)権利は無い』。

学校ですら見て見ぬふりをしていた案件を、解決する方法と小中の九年間の彼の心の痛みを、もう誰も彼もどうすることは出来るはずがなかったのだ。

その後のカウンセラーでわかったことを含めて、祐介は親元を離され児童養護施設に移った、学校へも無期限で通わなくていいと言われしばらくの自由は保障された。

動かない下半身での自由だったが。

医者の話では通行人が通りかからなければ、出血多量で死んでいたと。


施設に入れられてからは祐介の時間は流れるように過ぎていった。

生きる目標もなく部屋に閉じこもり、他人と笑うことも離すことも無かったという。

それは周りから見ればたった半年、でも祐介にとっては彩華への罪悪感と、死にきれなかったという悔やむ思いが重なり辛い時期ではあったが。



半年後、いつものように腕を使って自力で車椅子に乗るときに、棚に手をぶつけ一枚の写真が膝の上にヒラヒラと落ちてきた。

それは、その写真は三年前彩華に許可を貰ってプリントさせてもらった、小学校卒業式の制服姿の彩華の写真であった。

「こんな物っ!」

ビリッと破こうとしたとき、いままで生きる目標として頼ってきた彩華に会うという目標を思い出した。

「顔写真があるなら、見つけ出す方法があるんじゃないか」

彩華に教えてもらった事があった、一度だけ住んでる県と近くの建物を。

「群馬県の富岡製糸場たしかあの辺だって言ってたよな」

でたらめな住所かも知れないけど、それでもいいやってだめだったらもう忘れよう、その時はもう一度今度は毒物でも。

でも、見つけ出せたなら一度だけ。

「お礼と謝罪をして気持ちを伝えよう」

この三年間溜め込んだ気持ちを伝えてスッキリしよう、前に進めるかどうかは知らないけど、それでそれだけでいい、今だけは。

松葉杖も二本使えば歩けはしないが、立つことくらい出来る、写真があれば辺りで聞き込みが出来る、それだけで充分だ。


それから一週間荷物の準備をし、施設を出た、出発の資金は半年前に貰った慰謝料と保険金を使った、もともと使うつもりは無かったが、使わないのはもったいないと思った。



血眼になってついてから半日、永遠と探し続けた。

でも、彩華は見つからなかった。

諦めて帰ろうと電車に乗ったとき、駅の外に一人の女の子が見えた。

それは、半日掛けて探し続けた女の子、彩華はだった。

駅のホーム音楽が流れ始め、大声で叫んだ、これで届けばそれでいいと。

「彩華!いままでありがとう!、死のうとしてごめん!」

彩華は電車に向かって振り向いていた、声は聞こえていた少しだけ、音楽にかき消されはしたが。

最後の言葉を祐介が言う前に電車のドアは閉まり、声は聞こえなかった。

でも、その言葉は声では無く想いで彩華の心に伝わった。

「大好きだよ!」

と言ったその言葉は、祐介からは彩華に伝わっかわからなかったが、その答えは連絡が途絶えていたメッセージアプリから届いた。

「私も大好き!」

自然に涙がこみ上げてきた、祐介と彩華。

祐介はその場で泣き崩れていた、周りの目など気にせずに。

それから十秒もせずに彩華がいる駅まで、なにかの衝突音が鳴り響いた。


すぐに駅のホームに状況の報告の放送が流れた。

〔ただいま、先ほど発車したトラックに大型トラックが横から追突したとの連絡が入りました、一時運転を中止するため、皆様にはご迷惑をおかけします〕



その事故の死亡者は二名、トラックの運転手と、不幸にも横側から衝突された場所にいた少年、祐介だった。

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