第15話
私はくるりと身を翻して、華やかな会場に意識を戻した。
こんなところで感傷にひたっている場合ではない。
人格の保証された人間だけの集まるこの場所でなら、私も大胆になれる。
「なんのお話をされているんですか?」
その一言で、そこにいた会話グループの輪がぱっと開いて、簡単に仲間に入れてもらえる。
寒色系の色調のグループだったけれども、PP1800越えは伊達じゃない。
逆に一人色調の違う私の方が、話題の中心となってうまく盛り上がるようになっている。
何もかもが、世界の全てがこんな風に出来ていたら、どれだけよかっただろう。
グループの輪が崩れたとき、いつの間にかさくらが、すぐ後ろに立っていた。
「楽しんでるみたいだね」
「まぁまぁね」
「収穫はあった?」
「収穫って、なにをもって収穫っていうわけ?」
グラスを片手に、ほろ酔いさくらは上機嫌だった。
「いいわよねー、こういうのって。いつ来ても気楽で毎回楽しいから」
あっさりと私の質問を受け流す。
さくらにとっては、会場の雰囲気を楽しむことが最上の喜び。
視線の先に、横田さんの姿が目に入った。
同じような枯れ具合の男の人と、二人で何かを話している。
「毎回来てても、枯れっぱなしの人もいるけどね」
さくらも振り返って、横田さんを見た。
「あの人はこんな会より、絶滅した自治会のなれの果てみたいな会に、出席してた方がいいのよ」
「平日昼間、子供からお年寄りまで」
「夏祭りの屋台の準備・運営とか、清掃・防災活動、餅つきとかなら、張り切ってやってそう」
「分かる!」
二人で笑い転げていたら、市山くんがやってきた。
「なにがそんなにおかしいんですか?」
「別に」
「なんでもないよ」
「えー」
横田さんが今ここにいたら、結局身内同士で固まりやがってとか、そんなことを言うんだろうな。
これだから成り上がり1800は、とか言って。
でも楽しいから、何だっていいや。
そうだ、この勢いで、鉄仮面横田にも絡んでみよう。
いつもなら、なんとなくとっつきにくくて遠慮しちゃってるけど、こんな時にならきっと、こんなことですらなかったことになる。
「お~い、そこの自治会長!」
遠くに見える枯れ枝自治会長の横顔は、笑っていた。
いつのまにか彼の隣には、年上新人格上女子の芹奈さんがいる。
二人はとても親密な雰囲気で並んでいて、今夜の横田さんは、普通の顔色で真っ赤になったりなんかしてないで、普通に2000越えの男性らしく、スマートに女性に接している。
なんだ。
そんなに普通に、普通ができるんだ。
「あ~、芹奈さんと横田さんかぁ」
市山くんも、それに気がついた。
「やっぱり、そうなるのが自然なんだよね」
さくらもため息をつく。
「だから、うちの部署に配属されたのかなぁ」
横田さんは得意げに何かを語っていて、それを彼女は、くすくすと笑いながら聞いている。
夜の空気に混じるほのかなお酒の香りと流れる音楽は、映画のワンシーンのようで、市山くんは感心したようにつぶやく。
「マッチングって、本当に魔法みたいな奇跡を生み出しますよね。横山さんって、基本女の人が苦手なのに」
女性相手なら、いつも事務的な態度で接するか、怒ってるか橫を向いているかのどっちかの人が、実に自然に、にこやかに接している。
「お似合いって、こういうことなんですねー」
「私も電子の魔法にかかりたぁ~い!」
「はいはい」
市山くんはとびついてきたさくらを適当にあしらいながら、次の料理を物色している。
あの二人は、なんの話しをしているのかな。
また少子化対策とか、地球環境問題とか、真面目くさった話しかな。
芹奈さんは局の新人さんだから、きっと仕事の説明がてら、局の建物の話しとかをしているに違いない。
最近職場のトイレの水の流れが悪いとか、総務と人事課の接し方の違いとコツだとか。
だって横田さんには、そんな話題しかないのを知ってる。
私は浴びるようにお酒を飲んで、いい感じに酔っ払ってから家に戻った。
ちょっと飲み過ぎだったと、後で愛しのたけるに怒られた。
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