第13話

かくして私と市山くんは、二人で励まし合い、数日間この施設に通って、1800の会までにポイントを上げることに成功した。


効率最最優先のハードプログラムのおかげで、なんとか間に合った。


その日の交流会会場は、老舗ホテルの屋上だった。


独身者限定というわけではなく、オフィス街で働く現役世代の交流会も兼ねている。


夜風にのって流れるジャズの生演奏と、きらびやかなイルミネーション。


今回は会場の各テーブルで、マジシャンやジャグリングも開催されている。


お酒も出る大人の立食パーティー形式だ。


市山くんと会場を訪れた私は、受付でたけると荷物を預け、マイナンバーカードを提示する。


その場で印刷された認証コード付きの名札を首にかけた。


名前の横にプリントされた今回の色は、赤味のオレンジ、といったところかな? 


ここではいつものアプリは禁止。


ゆったりした時間と空間を提供できるのも、事前審査の信頼があってこそ出来ること。


「あ、明穂さん、やっぱり僕と似たような色調になっちゃってますね」


「ま、そうなるだろうね」


市山くんのは、私よりやや黄色っぽいオレンジ。


十二色環の色合いの選定は、毎回会場ごとによって異なるが、この色合いの近い人間ほど、趣味や行動・思考パターンが近い、相性のよい人間ということになる。


ちなみに、既婚者のカードは背景が黒で、非婚者は白。


「明穂さんって、1800の会は来たことあるんでしたっけ」


彼が何気なく差し出した手に、左手をのせる。


「まあ、さくらに誘われて、何回かは」


「僕は初めてなんで、ちょっと緊張してます」


さりげなくエスコートされて、会場に入る。


さすが1800越え男子。


そんな仕草もさりげなくて、全くの嫌みがなく実に好印象。


「わ! すごいお洒落ですね!」


最少限度の照明だけに照らされた会場に、三百人程度の参加者が集っていた。


着飾った華やかな衣装と、こぼれる笑い声が澄んだ夜空に響く。


「明穂さんの場合、まずは腹ごしらえですかね」


いたずらっぽく笑った、くせっ毛の頭が振り返る。


「ダイエット解放祝いといきますか?」


「ふふ、よろしいですわよ」


「ではお嬢様、まいりましょう」


片膝を軽く折って差し出される手。


市山くんが同じ部署に配属されたのは、私のためだったんじゃないかとさえ思えてくる。


ウエイターが取り分けてくれた皿を受け取って、本戦に備えた。


「まめに通ってたら、顔見知りも増えるんですかねぇ」


「そのための会だからね」


「明穂さんは、まめに通うつもりなんですか?」


「できればそうしたいと思ってるよ。こういう所なら、ちゃんとしてるし」


「男性恐怖症も、発症しない?」


「リハビリの一環だと思ってる」


「じゃ、僕も頑張ろう」


にこっと笑った彼の顔は、純粋にかわいらしくて、素直に見ていられる。


「あ、局長だ」


市山くんの視線の先には、バーコード頭の森部局長がいた。


同じようなおじさまと、熱心に何かをしゃべっている。


「なにしゃべってんのかな」


「どうせ釣りか、体脂肪の話しじゃないんですか」


「ふふ、確かにそうかもね」


いつもオロオロしてる局長の、あんな真剣で真面目な横顔、最近ではめったに見たことないな。



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