第12話

「女性専用の休憩室もあったでしょ?」


「前にそこを選択しようとしたら、プログラムに却下された」


「なんで?」


「交流に偏りがあるからって。PP回復のためのコミュニケーション対策とか言って、無理矢理男女共用スペースに放り込まれた。サポート及び監視体制は万全ですので、ご安心下さいとかなんとか言って。ひどくない?」


「……。だから今回は、僕を誘ったの?」


黙ってうなずく。


ごめんなさい。


市山くんは呆れたように短く息を吐いてから、来ていたシャツの袖をめくった。


きっとあの彼だって、それなりのコミュニケーション能力を有しているに違いないのは確かだった。


その証拠に、きちんと引き際を見極めて、スマートに引いた。


ごめんなさい。


「それより、ほら見て? ちょっとは筋肉ついた?」


見せられた細くて白い腕も、本当に女の子みたい。


「だから遅かったの?」


「そう、ちょっとキツ目のプログラムを選択したからね」


ぐっと力をいれたときにだけ浮かび上がる筋肉が、かろうじて男の子の証だった。


「かっこよくなった?」


「うん、なったなった」


「ホント気持ち、こもってないよねー」


ありがとう、本当にごめんなさい。


市山くんは唯一、私が普通に接することの出来る男性だった。


真っ白いワゴン車がテーブルに横付けされる。


個人別に作成されたメニューによって、栄養とカロリーはもちろん、旬と味付けの好みにも考慮されたランチが運ばれてくる。


食事の後は学科の予定だった。


趣味と教養、知識に関する講義を受けることになっている。


「午後からは、ずっと一緒だよ」


「うん、よろしくお願いします」


私たちは、それぞれの食事を始めた。


結局、この手の施設は、どこに行ったとしても、結局は所在地だけの問題だけなのだ。


訓練プログラムの内容なんて、どこで受けてもほぼ変わらない精度にまで完成されている。


学科に関しても、本当は自宅やスマホのタブレットなんかで遠隔受講できるようになっていた。


どこへ行っても、同じ個人データを元にして訓練メニューを組まれるのだ。


なにが違うというのだろう。


効率を一番に考えれば、それは当然のことで、特に不満はない。


他に付加価値を求める方がおかしいんだ。


施設の建物のおしゃれ度とか、アシスタントがロボットじゃなくて生身の人間で、より多くの人との交流がしたいだとか、こういうこだわりは、私にはなかった。


それでもこうやって外に出て仲間や見知らぬ人同士でやるのは、現実的な対人スキルの問題でもあり、受講者本人の気分次第でもある。


ロボットが無菌室で調理した、計算ずくめの画一的料理に、問題点を発見することの方が難しい。


だって、何もかも論理的かつ合理的に作られたものなんだから、それ以外の他のものになんて、なりえるワケがないのだ。


「相変わらすおいしいね」


味付けの好みだって、大量に蓄積された個人データから、精密に計算されている。


「そうだね、完璧だね」


私はここへ来たら必ず頼む、大好きなハンバーグを口に運んだ。

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