第7話

「そりゃそうですよ、だってもうすぐ、PP1800ポイント以上の、ハイクラス交流会があるんですもの、ねぇ?」


PP1802ポイントを引っさげたさくらが、余裕の表情で絡んでくる。


「横田さんも、参加なさるんでしょう?」


「それが人類の義務だから仕方がない。他に予定の入らないかぎり、出席だけはするようにしている」


「無差別級とか、ポイント低めの回に行っても、行くだけ無駄っていうか、面白くないですもんね」


「あたりまえじゃないか、そういった無駄と不幸を回避するためのPPであり、そのためのクラス別交流会なんだからな」


「だって、明穂!」


「だから、その前にPPを回復させなきゃいけないんでしょ」


「そうだよ、今度もまた、一緒に行こう」


さくらは、グッと親指を立てて、『あたしに任しとけ!』みたいなポーズ。


さくらが誘ってくれなかったら、私はそんなところに行こうとすら思わなかっただろう。


だけど、自分もそろそろ、変わらなくちゃいけない。


それは分かってる。


「1800越えの会なら、安心できるもんね、リハビリも兼ねて」


「そう言われてるから、前も行ったんじゃない」


「うふふ~、頑張ってねぇ~」


さくらは、それだけを確認すると、余裕の笑顔で去って行った。


ポイント1800は、私にしてはそれほど難しい数字ではない、ちょっと頑張れば、すぐに手の届く数値だ。


「なるほど、そういうことか。分かった、頑張れ」


横田さんが、突然冷静さを取り戻す。


変な気遣いも、よけいなことも言わないのが、この人流。


「ありがとうございます」


しかし、さくら以上に、余裕で2000ポイント越え、かつ、それより下に落ちたことがないという鉄仮面横田の応援の方が、しゃくにさわる。


悔しいけど、だけどそんなことを気にしたところで、自分のポイント回復になんの影響もないので、気にしないでおく。


むしろ負の感情は、PPにとってもマイナス要素だ。


「ちょっと、いいかな?」


そう言って、突然現れた森部局長の後ろに、すらりと背が高く痩身の、多分誰から見ても美人だと答えが返ってくるような、美しい女性が立っていた。


「このチームに、新しく配属が決まった山下芹奈さんだ」


山下芹奈、三十二歳、独身、女性。


この時代に、人手不足なんていう言葉はない。


必要な労働は、基本的にAIが行い、産業用ロボットによって管理生産されている。


全人類は、人間のために働くロボットによって、かつての貴族的な生活が可能となった。


働きたければ、働けばいい。


自分のしたいことを、したいように追求できる総貴族社会。


今やベーシックインカム、15歳未満300万円、15歳以上500万円の時代だ。


コミュニケーションセンターにいけば、無料で入れるお風呂に娯楽施設、図書館、マッサージ機に宿泊施設、併設されるレストランでは、誰でも利用できるバイキング形式の食事が、二十四時間待っている。


高性能産業ロボットと高機能AIに支えられ、まさに現在によみがえる古代ローマ人生活!


とは言っても、誰もがなりたい職業、やりたい仕事に就けるわけではない。


AIがマッチングした適正検査に、パスした職業でなければならない。


いくら医者になりたいと本人がわめいても、ただ熱意があるだけでは不可能で、やはりそれなりの知識と努力は求められる。


AIの誤作動を、監視する役割もあるからだ。


この職場も、政府独立機関であり、人の人生に関わるデータを扱う部署である以上、誰もが望んで就ける職種ではないのだ。


人手不足も関係ないとすれば、彼女は、それなりのエリートということになる。


私ももちろん、そのうちの一人なんだけど!


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