9.一話切りを防ぐため(外に出す設定と出さない設定)

「何も考えないでいいから異世界ファンタジーを書く」との言葉を見たことがあります。ですが、私から言わせれば異世界ファンタジーほど厄介なものはありません。


 だって、世界一つを丸ごと作るんですよ?

 その世界に住む人やその生活の基盤となっている国、その政治制度や経済、流通、文化レベル、技術レベル、言語や生態系、民族構成、国家都市間の関係、モンスターがいるならその強弱関係、魔法があるなら魔法体系。やってることは神様に等しい作業です。粗い作り込みをすればあっさり穴だらけになります。気を抜けばすぐに他と変わらないテンプレな作りになってしまいます。


「私の作品は他と違う!」と言うのなら、細部にまでこだわらなければ差が付けられません。少なくとも読者は「何だまたテンプレか」と判断すればそれだけで帰ってしまいます。(部分的に好まれるテンプレもありますが)

「よくありそうな世界だけど、どこか違うぞ……?」そう思わせれば勝ちです。そこに至るには、見えない部分でどれだけ設定を作り込んでいるかが重要になってきます。


 予め表に出す設定(物語の基礎知識)と表に出さない設定(裏設定、伏線にも用いる)、設定を出すための設定(伏線)、物語の根幹部になる後で出す超重要な設定。

 これらをどう物語の中で出していくか、それが読者を飽きさせないための力であり、物語に引き込むための手段になります。前回も書きましたが、物語の基礎知識を物語冒頭にこれでもかと言うほどつぎ込んで失敗するのはありがちな事なので注意しなくてはなりませんね。


 一例をあげます。ファンタジーと言えば中世ファンタジーと言われるほど当然なくらいに騎士やら王様やらが登場します。ですが、実際に王政や騎士の世界についてどれだけ知っていますか?


 私が書いている「魔王の娘と花姉妹」では騎士の家の話が展開しています。詳しく騎士の仕事を書いているわけではありませんが、その背景にはしっかりと制度や関係性を把握した上で書いています。

 もちろんファンタジーなので現実とは違う部分も存在します。ですが、王と騎士の関係と言うものを知った上で書くのと知らないまま書くのは物語の奥深さに圧倒的な違いが生まれます。

 カクヨムコンに投稿した「封印のドラゴンハート」では特殊な魔法体系が物語の鍵になっています。

 しっかりと作り込めば、物語の主要部・テーマをどこに持っていくかを変えることができますし、それにまつわる設定も物語に生かすことができます。


「何も考えずに書ける」は十分な積み重ねをした者だけが言える言葉です。

 ファンタジーは初心者向けではありません。むしろ知識量と作り込みの差がモロに出ます。生半可な作り込みをすれば物語の設定に齟齬が生じ、整合性を取るために方向転換を強いられたり、場合によっては途中で挫折します。決してハードルの低いジャンルではないのです。

 とは言え憧れが強いのもこのファンタジーもの。カクヨムでの投稿数の多くに異世界ファンタジーが見えることからも人気のジャンルですし、廃れることのないジャンルです。書きたいという気持ちは痛いほどわかります。


 だからこそ作り込みを。設定は作っておいて損はありません。そのキャラクターがなぜそんな行動をとるのか、そんな思考に至るのか。過去でこんなことがあったから。キャラクターや物語の軸をブレさせないためにもキャラや世界の根幹となる部分はしっかりと作って作者が把握しておくことが大切な事なのです。


 最も情報を握っているのは作者です。貴方がどれだけ場面ごとに情報を提供するかで面白さや奥深さを演出できます。その情報の出し方もまた、鍛える必要のある力です。

 最初から出してもいい設定、徐々に判明していく設定。そして物語のクライマックス。展開が似てしまうことがあっても作り込んだ貴方のキャラと世界は唯一無二の物にできるはずです。是非一つの世界と、一人の人間を作るのですからこだわっていただきたいものです。

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