第3話 転生
レイが目を覚ますと、いつの間にか自分が椅子に座っていることに気が付いた。
「ん ⋅ ⋅ ⋅ ⋅ ⋅ ⋅ 、あれ、ここ、どこ ⋅ ⋅ ⋅ ⋅ ⋅ ⋅ ⋅ ⋅ ⋅ ?」
その直後、とても美しい天使の声が告げた。
「霧島 零さん、貴方は亡くなりました。」
そして、レイは自分が死んだことに気が付いた。
───────────
「いやー、さすがに自分が死んだって言われたときはびっくりしたよ。なんせ、交通事故で死んでたからかわかんないけど、死んだことに自体に気付けなかったんだよね~。」
「くっそ~、俺よりマトモな死に方じゃんか!」
カズマが悔しそうにシュワシュワの入ったグラスをテーブルに叩きつける。
「いやいや、カズマの方がいい死に方だよ。人を救おうとして死んだなんて、羨ましいよ。」
レイはまだ未成年だそうなので、いつぞやのカエルの唐揚げを食べている。どうやら気に入ったらしく、三皿目を食べ終えようとしている。
俺達二人はいつの間にか意気投合し、こんなに短い間にとても仲良くなっていた。そのせいか、いつの間にか話が脱線し、死に方に対して評価を付け合っている。
「そうか?俺はこれ以上ないってくらい馬鹿げた死に方だと思うが。」
「いやいや、ある漫画だと、子供が車に轢かれる直前に助けたけど実は子供は元々死ぬことはなかった、だけどそれを見てた天使がその人を生き返らせる。という展開だってあるんだよ。絶対に良いって!」
「た、確かに言われてみると ⋅ ⋅ ⋅ ⋅ ⋅ 。」
「これは予想だけど、カズマはこんなに善いことをしたから、アクアをこっちの世界に呼べたんじゃない?たとえ役立たずとはいえ、腐っても女神だし。厄介払いの意味もあったんだろうけど、チートの代わりとしては少し豪華過ぎないかな?更に言うと、君アクセルの街からスタートしたでしょ?まあ一文無しだったのは他の転生者もそうだったから、あからさまな支援をするわけにはいかなかったとかアクアの手違いのせいで起こったのだと思うけど、前線から遠いこの街からスタートっていうのは、君が善い行いをしたからだと思うよ。」
「 ⋅ ⋅ ⋅ ⋅ ⋅ ⋅ ⋅ ⋅ ⋅ ⋅ ⋅ ⋅ 。」
「ま、僕の推理は外れやすいから、そんなに気負わなくてもいいと思うけどね。」
もし本当にそうだとしたら、俺、本っ当にもったいないことしたなぁ。あんな駄女神の挑発に乗らず、ちゃんと他の能力を選んどけば良かった ⋅ ⋅ ⋅ ⋅ ⋅ ⋅ 。
「と、ところで、さっき言ってた転生ってどういうことだよ!」
とりあえず話題を変える為に、さっきから疑問だった転生について聞いてみた。
「ん?あぁ、まだ話の続きだったね。実はそのあと────」
───────────
「それって、一体 ⋅ ⋅ ⋅ ⋅ ⋅ ⋅ 。」
レイは目の前の天使に尋ねた。
「文字通り、そのままの意味です。貴方は交通事故によって死亡いたしました。」
すると、まるで鈴のように美しい声で恐ろしい真実を伝えられた。
レイは生前のことはよく覚えていないが、横断歩道を渡っている最中に意識が途切れていることに気が付いた。恐らく、天使の言っていることは本当のことなのだろう。
「あの、それではなぜ私はここに呼ばれたのでしょうか。次に生きる動物を決めろっていうことですかね?」
緊張していたからか、敬語と普段の言葉遣いが混ざって変な喋り方になっていた。
「いいえ、違います。貴方には、他の世界に行って貰います。その世界には怪物が溢れ、魔法やスキルがあり、魔王が居ます。その為、こちらの世界に行きたいという人が少なく、魂の数が減ってしまい、このままでは魂の数が釣り合わなくなってしまいます。なので、その世界を生き抜く為の特殊な能力や武器を与える代わりに、こちらの世界に来てほしいのです。」
天使の話を聞いていると、気になった一番重要なことを聞いてみた。
「記憶は、どうなるんですか?」
「記憶は保持されたままあちらの世界に送られます。」
良かった~。これで『消えます』とか言われたら絶望するしかなかったよ。
ついでに気になったことを聞いてみる。
「あっちに転生するときの親の地位とかの傾向ってあるんですか?」
そう、生まれだ。大体の小説では生まれは貴族だが、あちらの世界に行くときはどうなっているのだろう。皆あちらの世界の平均水準の家庭に産まれるのか、それともランダムか、はたまたこの天使の独断と偏見を以てして決まるのか、そんなことが気になっただけである。
「いえ、生まれ変わるのではなく、この姿のままあちらに行きます。いわゆる異世界転移です。」
一つ疑問が解消した。だが、もう一つの疑問も同時に生まれた。
「え?だってさっき魂の数が釣り合わないって言ってましたよね?
つまりあっちの世界で赤ちゃんが産まれる時、『こっちの世界に生まれ変わりたい!』って人が少ないから、赤ちゃんが産まれることが出来ない。だから他の世界の人をあっちに送るのでは?そうじゃないと、わざわざこんなことをやる意味が無いんじゃ ⋅ ⋅ ⋅ ⋅ ⋅ ⋅ 。」
「すみません、私は詳しいことは解りませんが、きっと転移者がお亡くなりになった後、魂が赤子になるのではないでしょうか?もっとも、レイ様がおっしゃる通り、赤子への転生のほうが効率が良いとは思いますが ⋅ ⋅ ⋅ ⋅ ⋅ ⋅ 。」
「 ⋅ ⋅ ⋅ ⋅ ⋅ ⋅ ⋅ ⋅ ⋅ ⋅ 。」
怪し過ぎる。
色々とおかしな所はある。だが、それだけでは
決定的な証拠にはならない。天使が言っていることが正しいかもしれないのだ。
まずは、情報を集めることが先決だ。会話から
情報を引き出さないと。
「えーっと、ところで貰える道具や能力ってどんなのがあるんですか?」
「はい!こちらになります。」
一瞬天使と自分の間の空間に光の筋が降り注いだかと思うと、様々な能力やアイテムが記されたカタログが机と共に現れた。
そして僕は、情報収集の為に一通りカードを見て情報収集をする ⋅ ⋅ ⋅ ⋅ ⋅ ⋅ つもりだったのだが、あまりにも豊富な種類のカードのせいか、当初の予定を忘れてカード選びに没頭していた。
「うわっ、この大剣強っ!この宝珠も欲しいな~。でもやっぱスキルだよね!とすると、このスキルをコピー出来るやつが一番無難かな?何でも出来るし、万能だからなー。この中から持って来れるのは一つなんだから、万能型にしたいところだけど ⋅ ⋅ ⋅ ⋅ ⋅ ⋅ ⋅ ⋅ ⋅ ⋅ ⋅ ⋅ ん?このスキルは ⋅ ⋅ ⋅ ⋅ ⋅ ⋅ 。あの!このスキルにします!」
俺はカードを指して言った。
「わかりました、このスキルでよろし ⋅ ⋅ ⋅ ⋅ ⋅ ⋅ え?!ほ、本当にこのスキルでよろしいのですか?!他にもスキルはありますよ!!」
このときレイは、よくゲームである
『本当によろしいですか Yes/No 』
かなぁと思っていたのだ。本当に馬鹿である。
「?えっと、はい、そうですけど。」
「そ、そうですか ⋅ ⋅ ⋅ ⋅ ⋅ ⋅ 。それなら、人様の決断に私がとやかくいう資格は有りません。それでは、早速召喚の儀に取りかかり ⋅ ⋅ ⋅ ⋅ ⋅ ⋅ ⋅ ⋅ ⋅ あっ。」
「ど、どうされたんですか、一体。」
「いえ、大したことでは無いのですが。伝え忘れていたことがありまして。」
天使が発した言葉は、『怪しい』なんてものを通り越した『ヤバイ』ものだった。
『この世界の言語をあなたの脳に刻むとき、これまでの記憶が全て消失する可能性があります。でもめったに起こりませんし、大丈夫ですよ。』
天使は転移の準備に取りかかり、
「では、貴方の人生に、幸多からんことを───。」
「いやちょっと待ってそれフラg」
光がレイを包み込み、叫ぶレイを強引に異世界へと連れて行く。
目を覚ました。
いや、ここは一体?
体に何か付いている、それも全身に。これはなんだ?
気付くと息をしていなかった。息をしなければ。
とても甲高い声で、おぎゃあおぎゃあと誰か鳴いている。わかっている、自分だ。
どうやら自分は赤ちゃんになってしまったらしい。さっき転移に関して色々言ったからかな?
「聞こえますか、レイさん。落ち着いて聞いて下さい。」
そんなことを考えていると、聞き覚えのある声が聞こえた。母親や取りあげた人じゃない。そもそも周りが何を言ってるかわからなかった。聞こえた声は、天使のものだった。
「何があったんですか?」
「実は、貴方にこの世界の言語を埋め込む時、エラーが発生し、貴方の記憶力に多大なダメージを与えてしまいました。」
ん?
「このままでは人として生活する事が不可能と判断されたので、緊急的な措置をとして、今日産まれる中で一番記憶力の高い人間に貴方の魂を転生させました。」
え?
「これで人並みの生活が送れるかどうかはわかりませんが、ある程度は緩和されるはずです。もうスキルは使えますので、正常に作用するか試してみて下さい。
それでは今度こそ、良い異世界ライフを─────。」
は?
どゆこと?
ナニソレ?
ハアァァァァァァァァァァァァァァ?!
──────────
「と、いうことがあったんだよ。いやぁ、こっちの世界の言葉を覚えるのには苦労したよ。」
「そうか ⋅ ⋅ ⋅ ⋅ ⋅ 。意外とお前も苦労してるんだな。」
「まあね~。そういえばなんだけど、カズマはどうして魔王討伐を目指しているんだい?」
「あぁ。そのことについてだが、そもそも俺は魔王を討伐するつもりはないぞ。」
「え?」
「大体、そんな危ないことをしたら死んじゃうだろ?俺は最弱職なんだから、のんびりやるさ。」
「じゃあなんでデュラハンと戦ったりなんかしたんだい?あいつ結構強いよ?」
「まぁ、元々戦う気はなかったんだよ。いつの間にか戦わなきゃならなくなって、どうにかしようとしてたら倒せただけで。」
「そっかぁ。じゃあ、もし魔王が倒せたら、どうする?」
「どうって ⋅ ⋅ ⋅ ⋅ ⋅ ⋅ 。」
「何か叶えたい願いは無いの?」
「うーん、ありすぎて絞りきれないなぁ。」
「ボクはね、『不老不死になって元の世界に戻りたい』!」
「いや、それだと願い2つだろ。」
下手すると3つだ。
「いーんだよ、細かいことは。ともかく、キミの願いは?」
「俺の、か⋅⋅⋅⋅⋅⋅⋅⋅⋅。俺の願いは─────。」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます