第21話 旅路

馬車を改造してから二日が経った。あれから襲撃は一回もなかったがどこかから見張られている気配をずっと感じている今日この頃。

ミリアーナは荷台でお昼ご飯を作ってくれている。

この二日間、なんとも充実した旅になっていた。普段は入れない風呂や、温かい食事、雨の日は室内で寝るのと変わらない。そんな旅路を過ごしていた。


「カズヤ、そろそろご飯ができるから休憩しよう」


俺のいる御者席の後ろ、天幕をかけた荷台からミリアーナが首だけ出して、津あえて来る。

俺らは今、街道から少し離れた森の中を進んでいる。


木々を避け、馬車を進めていると開けた場所に出た。


「ミリアーナ、着いたよ」

「わかった。準備するから机とか用意しといて」


俺はわかった、と返事をし、御者台から降りた。荷台の底面に側面にくくり付けられている組み立て式のテーブルとイスを取り出し、馬車の隣に並べていく。

しばらくすると、ミリアーナがお盆に昼食を乗せてやってきた。盆の上には鶏肉のサラダにパン、それに温かいスープが乗っている。それを二人で綺麗にテーブルに並べていく。

すべて並べ終わると、馬に干し草と桶にたっぷりと入れた水をあげる。後で毛もとかしてやらないとな。


「「いただきます」」



ミリアーナのご飯は時々辛くなる傾向にある。この鶏肉のサラダの肉も若干赤みがかっている。ミリアーナには内緒で痛覚遮断の魔法を使う。

パンは白パンと呼ばれるふんわりしているやつだ。前までは黒パンと呼ばれる固い奴だったが、あれはあれでおいしかったな。

スープに白パンを浸して、おいしくいただく。


「「ごちそうさまでした」」


食事を終え、二人で食器などの片づけを分担していく。



今日の寝床はこの開けた場所にするため、あたりの狩りを始める。魔物をはじめとした、動物たちを一匹ずつ狩っては、保存の魔法をかけて荷台にある、食糧庫に入れていく。

あらかた付近の魔物たちを片づけた俺たちは、いつも道理ミリアーナとの打ち合いを始める。今日の俺の得物は槍だ。


互いの得物が交差する。獲物が交差するたびに赤い火花が飛び散る。そして一つ、また一つと互いの体に傷を付けていく。これが俺たちの最近の打ち合いだ。


しばらく俺たちが打ち合いを続けていると、一つの視線に気づき、打ち合いを中断する。


「ミリアーナ、気づいてる?」


俺はミリアーナに小声で聞いてみる。素での索敵能力はミリアーナの方が上だ。


得物は仕舞わず、2人で会話をしている風を装い、視線の主の出方を待つ。


数分して、辺りにいた鳥たちの鳴き声が消える。多分人除けの結界でもはったのだろう。


「また会いましたね」


俺たちの目の前に現れたのは、No3だった。


「なぜおまえがここに」

「上の命令でね。君たちを消して来いとさ。全く、君たちのレベルを知らないからそんなことが簡単に言えるんだよ。全く役損だよね」

「で、俺たちを倒すと?」

「まさか。倒せたら苦労はしないんだけどね」

「どういうことだ」


俺は少し威圧交じりの声で聴き返す。


「君たちには当分は手を出さないよ。須藤君もあの状態じゃ何もできないからね」


No3は手に持っていたククリナイフを鞘にしまって、敵意がないことを示す。


「私は君たちと話をしようと思っている。もう気づいているとは思うけど、私も迷い人でね。ぜひ和也殿の話も聞いてみたい」


ミリアーナはまだ細剣レイピアを構えたままで、警戒を解いていない。

俺も槍は一旦しまい、使い慣れた双刀、天花と月花に持ち替えている。


「私以外にここには誰もいない。武器を収めてほしい」


俺を周囲を索敵の魔法で調べる。

確かにNo3以外にこのにはいないようだ。

俺たちは武器を鞘に戻す。すぐに抜刀できるように腰に構えたままだが。


「話を始めてもいいかな?」


俺はミリアーナの顔を伺い、No3に頷きを返す。


「私は君とは少し違う、というところから始めようか。私は迷い人ではあるが、迷い人ではない。自らの意思でこの世界に来た。和也殿は神にあったことはないだろう?私は神に会い、この世界のことを知らされた。そして、一つの能力とともにこの世界にやってきた」

「転生者ってやつか?」


俺は話を聞いて気になったことを聞いてみる。


「正確には転移者だ。別にこの世界に生まれ変わったわけではない」

「なるほど。で、もらった能力ってやつは」

「それは流石に言えない」


それもそうか、と心の中で納得する。

しかし転移者か、改めて異世界だということを実感した。それにしても神。一体何者なんだ。


「神とはどんな奴だ」

「それは、口では言い表せないね。なんというか、いるだけですごいって感じがしたかな」


なるほど、神々しいってやつか。俺もいつか神に会うのだろうか?ふと疑問に思いつつも、まだ気になっていることを聞いていく。


「須藤も転移者なのか?」

「須藤君は違うよ。彼は正真正銘の迷い人だ。それも珍しい恩恵ギフトもちのね」

恩恵ギフト?」

「そうだよ。普通は恩恵ギフトは神に送り出された転移者、転生者と、勇者、それかそれらの血筋のものしか持つことはできないんだけど、須藤君はなぜか恩恵ギフトを持っていた。それもとびっきり強烈なやつを」


そういうと、No3は辺りを見渡し始めた。俺も辺りを索敵の魔法で探る。どうやらお仲間が来たようだ。


「じゃあ、私たちは失礼するよ」

「?!」

「最初に言ったよね?手を出さないと。じゃあね、もう会いたくないけど」


そういってNo3は仲間を率いて俺たちの前から姿を消した。


「ミリアーナ、今日は荷台で寝てくれるか?」

「わかった」


流石に今日もう一回来るとは思わないが、念のためにね。


(あ!俺たちに攻撃を仕掛けてきた狙撃兵のこと聞くの忘れてた)


そのあと俺たちは、夕食などを全部荷台で過ごし、荷台に置いてある仮眠用のベットで寝ることにした。馬たちも一応荷台の中に入れておいた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

どうしてこうなった?!目指せ!異世界スローライフ! 因幡 天兔 @Rabbit_usagi

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ