第20話 またか…

ミリアーナをひそめさせてから1分ほど。

現れたのは、毎度おなじみ須藤たちだ。


「今日は何の用だ?」


俺は少し凄みを利かせて須藤を問い詰める。

面倒事を増やしてほしくない。


「そんな怖い顔をしないでくれ。今回も君とやりおめが合う気はないんだ。今回はただの忠告さ」

「お前が俺達に忠告?」

「そうさ。僕以外に君を殺させたくないんだ」

「あそ。で、本当の目的はなんだ」


次は殺意の視線に少し魔力を乗せて威圧する。


「だからそんなに怖い顔をしないでくれって。さっきのは本当さ。上の連中が君のことを消しにかかるみたいだからね」


そういうと須藤は気配を消してどこかに行ってしまった。

ミリアーナは途中途中、荷台から顔を伺わせていたみたいだが、須藤は全く気にした様子はなかった。本当に俺たちのことを気遣って教えに来てくれたんだろうか?

少し疑問に思いながら、再度、探査用の結界を張り直し、ミリアーナを呼び寄せた。先ほど張った結界は須藤に壊されてしまったので、よりいっそ強度を増して張る。


「なんであいつ何もしてこなかったの?」

「なんでも俺たちに忠告しに来たみたいだよ」


ミリアーナは頭の上にはてなマークをつけ、首をかしげている。


今夜は見張りを張ることにして、ミリアーナから先に仮眠をとることにした。



夜の森は静かで、遠くからオオカミの遠吠えや、茂みを動く小動物が出す小さな音。そして一条の線が風を切り俺の横をかすり、通っていく音が聞こえる。

一条の線—矢は俺の索敵能力の外から放たれてきた。おかげで俺も結界に入ってくるまで矢の接近に気づけなかった。

俺は望遠の魔法ですぐに敵を割り出す。敵は三キロ離れた山の中腹にいる狙撃兵。狙撃兵の放った弓からはわずかに魔力が漏れ出ていて、ロングショットの魔法を使ったことが伺える。


(さてどうしたものか?)


俺が今すぐにあの狙撃兵を仕留めに行ってもいい。しかし、その間にミリアーナに危害が加わる可能性はゼロではない。となると、俺の導き出せた答えで、選択肢は一つ。同じやり方―こちらも狙撃兵に向かって矢を放てばいい。


神器創造セイクリッドクリエイト金の矢」


俺はミリアーナに前に作ったお手製の弓に金の矢をかけ、望遠の魔法で敵の位置に標準を合わせる。狙撃兵は現在、射撃位置を変えるために絶賛下山中だ。


「我が求は一条の螺旋 くうを裂き 彼の敵を穿て」


俺はロングショットの詠唱を開始する。黒の魔力光が金の矢に集まっていく。

流石の狙撃兵もこちらの魔力に反応したようで矢をつがえる。相手が放つのは先ほども打たれた銀の杭だろう。俺は吸血鬼じゃないってのに。


敵も狙撃の準備ができたのか弦を力いっぱい引き、今にもつがえられた銀の杭を放とうとしている。しかし遅い。俺は力いっぱい引いていた弦を今放す。

放たれた金の矢は少し狙いを外れたがそこは神器。ちゃんと軌道を修正して三キロ遠方の敵をしっかりと捕らえている。矢独特の螺旋を描き、きれいな風の音を立てている。多分だがこれが敵の最後の音なのだろう。

命中。矢は見事に狙撃兵の脳天をぶち抜き、破裂した。脳が破裂したのではない、矢が破裂したのだ。破裂した矢は次第に膨れ上がり、轟音を辺りにまき散らしながら破裂した。着弾地の半径100メートルは焦土の土地となっただろう。

ミリアーナはこの轟音でも起きないようにしっかりと防音の結界を二枚ほど重ねて展開している。俺のやらかしたことでお疲れのミリアーナを起こしたくはないのだ。


それから俺は半径3キロの索敵結界も張り、一夜が明けた。幸い敵はあの狙撃兵一人だけだったようであれからは何もなかった。


しかし気になる。狙撃兵は殺される数舜前、何やら口を高速で動かしていたのを俺は目撃していた。


「おはよカズヤ」


俺が考えに没頭しているとミリアーナが起きてきて、もうそんな時間かと意識をミリアーナに向ける。


「昨夜は何もなかった?」

「少し襲撃があったけどそれ以外は何もなかったよ」

「そっか。ならよかった」


やはりミリアーナは俺に毒されてきているようだった。

襲撃があったというのに何か心配する様子もなく、いたって平常だ。これも俺を信用しての行動だと思うと胸の奥が熱くなってくるが、少し危機感を持ってほしいと思う反面もある。


「今日はどうするの?ここから動く?それとも少しここにいる?」


はっきり言ってここは居心地がいい。自然に囲まれていて、開けたスペースがある。ミリアーナもこの開けたスペースが気に入っているのだろう。素振りなどに便利だからな。


「うーん?ミリアーナはどうしたい」

「私はあと一日くらいここでゆっくりしたい」

「そっか。じゃああと一日だけここにいることにしよう」


俺は寝ていたテントをかたずけ、荷台に放り込む。こんなこともできる荷台は便利だな。


今日はミリアーナが一緒に打ち合いをしたいと言ってきたのでそれで時間を潰すことにしよう。ミリアーナも普通の冒険者や騎士では歯が立たないほど強くなってきている。それも俺が『トレース』魔法で得た技術をミリアーナにも教えているからだろう。今思うと本当にアニメのキャラたちはほんとに出鱈目な動きをしていると痛感する。


「じゃあ、始めましょう」


なぜかミリアーナは打ち合いや訓練などで俺を相手にすると敬語になってしまう。なぜだろうか?まぁ、ミリアーナも自覚はないみたいなので昔の癖なのかもしれない。日常での言葉もまだ敬語の時はしょっちゅう俺と打ち合いをしていたからな。


「おう、分かった。トレース:剣技・短刀」


今日はミリアーナの要望で短剣の使い方を覚えたいらしい。

早速俺は短剣を装備する。神器ではなく普通の『武器創造クリエイトウエポン』で作ったただの短剣だ。


俺はミリアーナに向かって軽く走り出す。ミリアーナもそれに伴って数歩後ろ下がると腰に添えている細剣レイピアを鞘から抜剣する。

俺の短剣の突撃を細剣でそらしたミリアーナはそのまま突きの構えに入る。しかし、そうはさせない。俺はもう片手に短剣を装備し投擲する。ミリアーナは体制を崩しかねない。そこを俺のナイフが切り裂く。勝負ありだ。

俺はミリアーナの喉笛にナイフを突きたてる感じに寸止めをする。


「さすがですね。全くかないません」


そりゃそうだろう。全神経の筋肉という筋肉を使って映像アニメの動きを完全再現してんだから。あてられた方がすごいと思う。


「もう一回」


ミリアーナは次は最初から抜剣して始めるらしい。俺は両手にククリナイフという獲物を装備しなおす。このナイフ、ブーメランのように投げれそうだ。

気を取り直して試合開始。

今回の初手はミリアーナからだ。片手で持った細剣で連続の突きを放ってくる。Bランクの冒険者ならまず反応できないだろう、Aランクでも視認はできても対処できるか危ういレベルだ。

そんな神速の突きを俺は見事にナイフで捌いていく。しばらくこのコマが続いたが、ミリアーナの手が限界を迎え、細剣を手から落としてしまった。

俺も捌くときには相当の力を込めている。その力に敵わなかったんだろう。

ミリアーナの手が軽く震えている。


「大丈夫か?」

「大丈夫です。次を!」


ミリアーナは確かに強くなってきている。しかし、須藤とか前のNo3とかの迷い人の力にはあと数歩及ばない。迷い人を抜いたらトップレベルの才能があると思うが。


あれからもひたすらに打ち合いを続け、途中ミリアーナが短刀を使いだすということもあったが、大きな怪我なく一日を終えることができた。


今日はさすがに疲れたな。もう寝よう。ミリアーナも寝っ転がってるし、俺も…。

俺は馬車の近く、ミリアーナの寝っ転がっている隣に移動して、夢の中に旅立っていった。










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