第19話 山道にて

「カズヤ、座るところがないよ」


御者台に座るミリアーナが俺にそう伝えてくる。そう、俺達は荷台に偽の荷物―荷物はすべて俺の次元倉庫に収納されている―がたくさん積み込まれており、座るスペースがない。


「大丈夫だよ。次に開けたスペースを見つけたら馬車を止めてくれる?」

「わかった」


俺は次の馬車が止まる場所まで幌の上で景色を眺めることにする。



「カズヤ、言われた通り開けた場所に付いたよ」


俺が幌の上であたりの景色を眺めていると、御者台からミリアーナの声が聞こえた。

辺りを見回すと、半径10メートル程の開けた場所になっている。木々は1本も生えておらず、草花が咲いている、花畑だ。


「よし、じゃあミリアーナは少し馬車を降りてくれ」


俺はミリアーナを馬車から下ろすと、手書きで馬車の荷台に魔方陣を刻んでいく。


「カズヤ、それは?」

「これは時空魔法の魔方陣だ。荷台の中の―見てからのお楽しみだ」


一通り魔方陣を書き終わると、次に場所の下、地面にと同じ魔方陣を大きく描いていく。

一通り魔法陣を書き終わると、次に触媒として自分の血を一滴、魔法陣の中に垂らす。すると、魔法陣は黒色の魔力光を帯び、その光は馬車に吸収されていくようにして消えた。


「ミリアーナ、荷台を見てごらん」


ミリアーナは恐る恐る荷台の後ろに垂れている布をあげ、中を覗き見る。そこには外見ではありえないほどの広さの空間が広がっていた。


「こ、これは・・・」


しばらくミリアーナは考えていたが、「カズヤなら何でもありか」と、考えることで区切りをつけた。


「どう?すごいでしょ?」


俺は自慢げに聞いてみた。今第三者が俺のことを見たら、ただただ自分のやったことを褒めてもらいたいだけのバカに写っているだろう。実際その通りなのだが。


「なんかカズヤのやることは驚きを通り越して呆れてくるよね」


最近よく言われる言葉だ。ピオラさんにもよく言われた。


「でさ、こんなに広さがあったら野宿する必要もないじゃん。それにここにキッチンとか置いたら移動式のマイホームができるよね!」


俺は目を輝かせながら自分の考えていたことをミリアーナに話す。


「それは嫌だ。旅は野宿するからいいんだよ?キッチンの案はいいかもしれないけどやっぱり夜はテント張って寝たいな」


そう、俺の本心はテントを張るのがめんどくさいの一つだった。だからこの中で寝れるように空間を広げたのだ。それに地面で寝ると腰が痛いし。


「でも、地面で寝ると腰が―」

「そんなこと言ったらもう何もできないでしょ?!」


それもその通りではあるのだが、なんか痛みが違うんだよね。


「でも―」

「じゃあ、カズヤだけ中で寝れば!私は外で寝るから!」

「そんな~」


なんかミリアーナさん。俺と離れて一人で寝るとか言い出した。うわ~ん、俺泣きそう。


「そんなかわいそうな顔したって駄目なものはダメです。それにこんなのが作れるなら腰が痛くならない寝袋ぐらい作れるでしょ?」


あ、その手があったか。中で寝ることばかり考えていて、その案は思いつかなかった。


「その手があったか!少し待ってて、大急ぎで作るから」


その後俺は5分ほどで腰の痛くならない寝袋を作るのに成功した。成功したって言っても、魔法創造でこの効能にふさわしい魔法を創って、寝袋にそれを付与エンチャントしただけなのだが。


「ほんとに呆れるわ」


それが寝袋を完成させたときの初めの言葉だった。

これでいつでもどこでも腰の痛さを気にせずに寝ることができる。


「そろそろ日も暮れるし今日はここで野宿にしましょう」

「ああ、そうだね。俺のせいでごめんね」

「別にカズヤが謝ることではない」


やっぱりミリアーナは優しいな。そんなところが大好きだ。


その後、日が暮れるまでの小一時間、俺はキッチンを作ったり、トイレやふろ場を荷台に作って、完全な移動式マイホームを完成させた。


「カズヤ、そろそろご飯ができるよ」


俺が荷台で作業をしていると、外からミリアーナの声が聞こえてきた。俺は「今行く」と答え、今やっている作業を大方終わらせてから外に出ていった。


俺が外に出ると、すでに夕飯の準備が整っていて、切り株の上に布巾を敷いたテーブルにシチューやサラダ、肉の料理たちが並んでいた。


「おー、おいしそうだね」


俺は感嘆の声をあげた。

ミリアーナも自慢げにフフンッと鼻を鳴らしている。


「じゃあ、「「いただきます!」」


この「いただきます」もすでにミリアーナと俺の中では普通になっている。

夕食はとてもおいしかった。これにさっき俺が作っていたものが加わると、と思うと今後の飯が楽しみだ。


今日の夕食は荷台の改装を行っていた為外で作っていたが、本当は荷台の中で作る予定だ。そうすれば一日の移動距離も伸びるし効率がいい。それに好きな時に好きな人が作った料理が食べられるって幸せじゃん?



「ミリアーナ起きて!」


俺は小声で就寝中のミリアーナを起こす。今は俺が見張りの当番をしている時間だ。


「んん~、何かあった?」


眠い目を擦りながらミリアーナは大体を察したようで、すぐに荷台に潜った。


夕食を食べた後、俺達はいくつかの決まり事をした。その中に何か危険があったらミリアーナはすぐに荷台に入って身を潜めることだ。この荷台は中が空間拡張されているだけではない。任意で次元ごと隔離できる鉄壁の荷台でもあるのだ。


そして、そんな荷台にミリアーナが隠れたわけは—。

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