第11話 昇格試験

今日はギルドで昇格試験を受けることになっている。なんともめんどくさい。

ミリアーナはすでに起きていて、宿屋の中庭で剣を振っている。ミリアーナが朝の鍛練を終えるまであと少しの時間がある。この時間をどうしたものか?


結局俺はミリアーナと一緒に朝の鍛練をすることにした。


「おはようございます。ご主人様、朝練に来るなんて珍しいですね」


俺が中庭に入るとミリアーナが出迎えてくれた。


「ご主人様も昇格試験が心配ですか?」


俺はあくびの出る顔を抑え、ミリアーナに頷いて答えた。

いつもはまだ俺は寝ている時間だからな。

それから俺も参加してミリアーナと二試合ほど打ち合って、食堂に向かった。

今日は朝から動いたせいかとても腹が減った。


俺が開いてる席はないかと食堂内を見渡していると奥の席で俺に向かって手を振っている人がいる。サキさんだ、あの夜這いをかけてくる痴女だ。


「こっちあいてるよー」


今回は席が余ってなかったのでしょうがなくその席で朝食を食べることにする。

朝食はスクランブルエッグに黒パン、オニオンスープの3品だった。おいしかったです!


「カズヤさんたち今日昇格試験なんですよね?」

「なんでそれを知ってるんですか?」

「ギルドの受付にミレイちゃんって子いるでしょ?あれ私の親友なの」


そういうことを外部に漏らしていいのか?この世界にはプライバシーというものがないらしい。


「ヘー、ソウナンデスカ」

「興味なさそうね(苦笑)」


まぁ、昇格試験のことはバレてもいいんだけどさ。

俺は最後の一口を口に放り込みミリアーナを連れて宿屋を後にしてギルドに向かった。


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カランカランッ


ギルドの扉が開いて俺たちが中に入ると、ギルド内に居た人たちの視線が俺たちに向けられる。これは一種の冒険者流挨拶と俺は昨日から判断している。

おや?なかなか俺たちから視線が外れない。


「ご主人様、私たちなんでこんなに見られているのでしょうか?」


それは俺も気になる。格好は普通の革の鎧と腰に双剣をぶら下げている。別に変なところはないと思うんだけどな。


「カズヤさん達が冒険者になって2日目で昇格試験を受けるからですよ」


後ろから声を掛けられて少しびっくりしたがすぐに誰かわかった、さっきまで一緒に朝飯を食べていたサキさんだ。


「どうしてこんなところに居るんですか?サキさん」

「なんでって、カズヤさん達の昇格試験を見に来たに決まってるでしょ」

「どこでやるか知ってるんですか?」

「地下競技場でしょ」


そう、俺たちが昇格試験を受ける場所はこのギルドの地下にある競技場だ。

普通はギルドの練習場とかじゃないのかと思ったのだが、ミレイさん曰く、今回の昇格試験はギルマス推薦の試験だから観客の入れる地下競技場でやるらしい。

目立ちたくないのに。


俺たちは受付でピオラさん(ギルマスの名前)を出してギルマスの部屋に案内された。


部屋にはピオラさんと中年の冒険者と魔法使いっぽいお姉さんが椅子に座って待っていた。


「時間過ぎていましたっけ?」

「いいや、過ぎていないよ」


ちゃんと時間内に来たはずなのにこうもしっかり待っていられると時間を過ぎたと錯覚してしまいそうだ。

俺たちが椅子に座ると後ろに控えていたギルド員のお姉さんがあったかい紅茶を持ってきてくれた。

俺が紅茶を一口啜るとピオラさんは話を始めた。


「ここにいる人が今日君たちの昇格試験の相手をしてくれる、ロジャーとキャサリンだ。ロジャーはカズヤさんを、キャサリンはミリアーナさんの相手をしてくれる」

「よろしくな小僧」

「よろしくねミリアーナちゃん?」


俺たちも挨拶を交わす。なんかキャサリンって人は生理的に受け付けないな。なんというかケバすぎる。


「挨拶を済ましたところで今日の試験のルールを発表する」


ルールはこうだ

・武器は持ち込み可。

・勝敗はどちらかが降参するまで


この二つだ。なんというか普通過ぎて白けた。なんでも致命傷を受けても会場には治癒魔術師が待機しているらしく、何をしてもいいらしい。

そして昇格条件だが、いい勝負を審査官に見せられれば負けても昇格できるらしい。全力を出せていないと審査員が見たら、試験は即刻中止らしい。これはかなりつらいな。全力でやってる振りをしなければ。


「以上が今回の試験のルールだ。そろそろ会場入りをしてもらおうか」


ということで、俺たちはギルマス室を出て、会場直通の階段を下っていった。


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会場は一万人は余裕で収容できる席数があったが、すでに全席埋まっているらしい。見る限り、所々立ってみている人も見受けられる。この街の人たちは暇なのか?仕事はどうした?!

俺たちの戦うフィールドは半径30メートルの円形のフィールドだ。両者反対側からの入り口からフィールドに入り戦う。入ったらそこから試合開始らしい。


「では、これよりエトーカズヤとミリアーナの昇格試験を開始いたします。最初はエトーカズヤ対ロジャーとの対決です!!」


会場にアナウンスが入ると観客たちの声援により空気がピリピリしてきた。先ほどのアナウンスに使った道具は声を拡張する魔法道具マジックアイテムらしい。


フィールドに入る前の空間に俺は今いる。ここには関係者が一人入れるらしく、俺の隣にはサキさんが居る。


「なんであなたがここにいるんですか?!」

「なんか、関係者です、って言ったらここに案内された」


なんとも言えない。


「カズヤさん。頑張ってくださいね!応援しています!」

「おう!ありがとう」


サキさんに背中を力強く叩かれ、俺はフィールドに入っていった。地味に背中が痛い。


フィルードの中にはすでにロジャーさんがスタンバっていた。ロジャーさんの得物は大型のソードブレイカーだった。見た感じ50キロはありそうだ。それを軽々しく片手で扱っている。


「小僧!先手はくれてやる。来い!」


ロジャーさんが俺に向かって得物を向けて、挑発してくる。

挑発するなら遠慮はいらないよ、ね?


俺は地面を五分の一程度の力でけってロジャーさんの眼前まで跳んでいく。

そして俺の得物である天花(右)と月下(左)—2つをくっつけると長弓になる—

をロジャーさんの首元に振り下ろす。もちろん寸止めはするつもりだ。


会場に響いていた歓声が止み、辺りには静寂が訪れる。


「しょ、勝者!エトーカズヤ!」

「「「…、オオォォォォォーーーーー」」」


会場にまた歓声が響き渡る。ロジャーさんは辺りを見渡してオロオロしている。

ドラゴンの時は縮地だったからもっと早かったけど、今は地面を蹴っただけ。流石にAランク冒険者のロジャーさんなら避けられると思ったんだけど、少し過大評価しすぎてたみたいだな。これはやばい、目立ちすぎた。


俺がフィールドに入ってきた出口に入ると、中には真顔のサキさんが居た。

俺がサキさんの前で手を振っても、全く反応がない。


「おーい、サキさーん。生きてますかー?」

「は、はい。おめでとうございます、カズヤさん」


やっと反応があった。


「ありがとうございます」

「それより何やったんですか?あれ!全く見えなかったですよ?!」


やっぱり周りの人にはそうやって見えてたか。やってしまったな。


「ただ地面を蹴っただけですよ」


「そんなはずがない!!」


控室にサキさんではない声が響いた。控室に入ってきたのはピオラさんだった。


「そんなはずがないだろ!カズヤさん、君の俊敏のステータスは700だったはずだ!それなのに視界から消えるほどの速さを出せるはずがない!」


何やらピオラさんはご立腹のようだ。それにしても本来の五分の一ほどの速さしか出ていないのに視界から消えるって、本当にやりすぎたな。


「とりあえず落ち着いてください」

「これが落ち着けるか!ロジャーはAランク冒険者だぞ!それが冒険者初めて二日の小僧に負けたんだぞ!」


あれま、激おこだったのか。それにしても小僧って、なんか傷つくぞ。


「あれはまぐれですよ」

「まぐれ?まぐれだって?!まぐれでAランク冒険者が負けたっていうのか?!これ以上私を怒らす気か?!」

「そんなことはないですよ」

「ちょ、落ち着いてください!ピオラおばさん!」


ちょ、今「ピオラおばさん」って聞こえたんだけど、気のせいかな?もしかして個の二人って血縁関係なの?!


「その声は、サキちゃん?どうしてここに?」

「カズヤさんの試験を見に来てたんですよ。それより落ち着いてくださいよ!」

「そうだったか…」


ピオラさんは少し落ち着きを取り戻し、深呼吸し始めた。


「カズヤさん。取り乱してしまってすまない。まさかロジャーが負けるとは思わなくてね。それよりさっきのはどういうことか説明してもらってもいいかな?」

「それは、まぐれだって言ったじゃないですか」

「だから、まぐれで済むわけないだろ!」

「ピオラおばさん!」

「す、すまない」


流石にまぐれじゃ納得しなさそうだ。こりゃ本当のことを言うしかないかな?

その時会場から一つのアナウンスが聞こえてきた。


『気を取り直して、これよりミリアーナ対キャサリンの昇格試験を開始します。両者準備をお願いします。』


ミリアーナの昇格試験があと少しで始まるらしい。


「どういうことですか?何を隠してるんですか?」

「あのー、後で詳しく話しますので今はミリアーナの試合見ていいですか?」

「まぁ、ちゃんと話してくれるならいいですけど」

「ありがとうございます」


俺たちは控室にある映像投影の魔法道具マジックアイテムでミリアーナの試合を見始めた。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


—カズヤ:実況—


フィールドにはすでにキャサリンがスタンバっている。手に持っているのは魔法の威力をあげる魔法道具マジックアイテム。形は杖の先に青色の宝石がついている。

今、ミリアーナが入り口からフィールドに入ってきた。手に持っているのは俺が上げたレイピア、フェアリーだ。フェアリーには追加で筋力が上がる魔法が付与されている。柄には薔薇とその蔓のレリーフが彫ってある。


『只今よりミリアーナの昇格試験を開始します。

開始!』


今、ミリアーナの昇格試験が始まった。流石に俺みたいに開始早々勝負がき合ったりはしなかったが、なかなかの善戦が繰り広げられている。


キャサリンはミリアーナの剣技に水の魔法で応戦しているが、ミリアーナは紙一重の所で避けている。

三段突きからの薙ぎ払いで初めてキャサリンにミリアーナの剣がかすった。


「へーよくやるわね。でもさっきの坊やほどではなくて安心したわ」

「ご主人さまは特別ですから」

「へー、ね」


へー、特別か。なんかうれしいな。

キャサリンの魔法の連続がミリアーナに数発かすった。ミリアーナの体力が徐々に減っていく。

また、ミリアーナの剣技とキャサリンの魔法の応酬が続く。


「氷よ 彼の敵を縛れ アイスバインド」


氷の枷がミリアーナの足に絡みつく。ミリアーナの動きが止まった瞬間をキャサリンの放った水球が見事に命中した。致命傷にはなってないにしろ、試合続行は難しいだろう。これで勝負が決まった。


『勝者、キャサリン』

「「「オオオォォォォ」」」


所々、「流石に一瞬で勝負は決まらなかったか」とか「俺の掛け金がー」とか聞こえてくるけど、それは自業自得だ。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


「で、ミリアーナさんの試合は終わったわよ。話をきかせてもらおうかな」

「はい。でもその前に、空間分裂」

「え?!今何したの」


俺はこの部屋をもとの世界の空間からずらした。これで周りに声が漏れることはないだろう。


「話をする前に一つ約束しいいですか?」

「何でしょうか?」

「ここでの話は外には漏らさないように、契約の魔法も受けてもらいます」

「魔法ですか?カズヤさんは剣士ですよね?」

「約束できるんですか?できないんですか?」

「約束します」


俺は無詠唱でピオラさんに契約ギアスを掛けた。契約ギアスの内容は簡単に「ここでの話を他に漏らさない」というものだ。


「話をする前にサキさんは一旦はずれてください」


俺はサキさんの足元に空間の穴を作って、元の空間に戻した。


「カズヤさんは何者なんですか?」

「俺は創世の魔法使いです。言ってもわからないと思いますけど」

「創世の魔法使いですか、聞いたことないでね」

「とりあえずこれを見てください。ステータスオープン」


==================================================

名前;江藤 和也 男 Lv128

職業;創世の魔法使い

体力;0

筋力;128000

俊敏;128000

抵抗;128000

魔力;99999999e+22

魔抗;128000

固有能力:不滅 全属性適正 全属性耐性 全状態異常耐性 気配察知[熱源感知] 詠唱短縮[高速詠唱][詠唱破棄][詠唱省略][詠唱改編][並列詠唱] 魔力感知 超高速魔力回復[魔力吸収:自然] 魔法創造[効率上昇][消費魔力軽減] 複合魔法[効率上昇][消費魔力軽減][3属性複合][4属性複合][5属性複合][6属性複合][重複魔法] 韜晦[複数韜晦][名前偽造] 魔力操作[魔力圧縮][魔力放射][座標設置][遠隔操作][魔力設置][遅延発動][魔力吸収] 魔力返還<血>[血盟契約:己] 歩術[疾走][空歩][縮地][瞬光] 限界突破 言語理解


取得魔法:全属性魔法 元素魔法 破壊魔法 重力魔法 時空魔法 生成魔法 守護魔法 付与魔法 精神魔法 

==========================================


「これは何ですか?」

「俺の本当のステータスです」

「え?!ほんとですか?!」


何やら額に汗を浮かばせている。


「ええ、ほんとですよ。まだミリアーナにすら見してないんですけどね」

「そうなんですか。ありがとうございます?」


なんか変な気を遣わせたかもしれない。


「これで納得しましたか?」

「ええ、納得はしたんですけど、なぜカズヤさんがステータスを隠すのかがわからないんですけど」


そりゃそうか。でも納得してくれてよかった。


「俺がステータスを隠してる理由ですか?それは、ピオラさんは西の魔女を知ってますか?」

「ええ、流石に知ってますよ。西の魔女様でしょ?」

「そうです。俺は西の魔女、デルタさんの弟子でした。—」


そこから俺は事の経緯をいろいろと端折りながら説明した。


「そんなことがあったんですか。つらかったんですね」

「別に同情してほしくて話したわけじゃないですから」

「そうですか」

「もういいですか?そろそろ戻りたいんですけど」


ピオラさんは首で答えた。

空間分裂を解除すると辺りにはギルド職員とサキさんが居た。

一応ギルド職員の記憶は消しておこう。


「カズヤさん。私をのけ者にして話は終わりましたか?」

「ええ、ちゃんと話が付きましたよ」

「そうですか、よかったですね!」


なぜか嫌味っぽく言われたが気にしないでおこう。こういうのは気にした方が負けだ。


「とりあえずミリアーナの場所に戻りたいのでいいですか?」


そう言って俺は控室を後にした。

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