第5話 裏切り

デルタさんと買い物に行ってから三か月が経った。この三か月で俺は『創造魔法』を完全に習得することができた。この魔法はマジでやばいよ、チート過ぎる。


今日はデルタさんが王都で開かれる出席する日だ。いつもと違ってデルタさんの格好はTAH魔女といった、黒いローブにとんがり帽子だった。それに付け足して先端がシダのように丸まった杖も持っていてとても雰囲気が出ていた。


「じゃあ、行ってくるね。フェルナンデス、二日間は家を留守にするから留守番よろしくね。カズヤさんも練習を怠らないようにね。それじゃ行ってきます」

「はい。わかってますよ。行ってらっしゃい」

「わかりました。デルタさん、行ってらっしゃい」


そういうとデルタさんは迎えに来ていた転移魔術士さんと一緒に行ってしまった。


「さて、カズヤ君は今日はそうやって過ごすつもりだい?もしよかったら一緒に練習をしないかい?そして先生を驚かせてあげよう」

「ええ、いいですよ。とりあえず朝飯にしましょう」


俺とフェルさんはダイニングに向かい、朝食をとった。今日の朝食はデルタさんが作り置きしてくれていたキノコのキッシュだ。これがまたおいしい。


■■■


俺とフェルさんは今山小屋の裏にある『深淵の森』に来ている。ここはレベルの高い魔物が多く生息していてレベル上げにはぴったりだそうだ。ここの魔物は平均レベル58で今の俺にはぴったりだ。俺の今のレベルは62だ。


ガサガサッ


お、噂をすれば魔物が出てきた。俺は鑑定スキルはもっていないがそこは『魔法創造』。簡単に作れてしまったのだ。鑑定スキルを持っている人達ごめんなさい。


「すべてを見通す目 鑑定アナライズ


=======

サーベルウルフ Lv60


体力:16000/16000

攻撃:2000

魔力:300/300

防御:4000

魔防:2000


=======

 

かなり強いな。まぁ俺達の敵じゃないけどさ。


「フェルさん、これどうしますか?僕がやりますか?」

「僕にやらせてもらえるかな?」


俺は首だけで肯定する。相手もかなり強いけど、フェルさんは俺よりもレベルは高い、レベル68だ。このぐらいの敵は楽勝だろう。


「炎よ爆ぜよ フレイバースト」


サーベルウルフはフェルさんの発動させた魔法で黒焦げに焼かれて、絶命した。


「あー、やりすぎましたね。これじゃ魔核コアが取れないですね」


フェルさんは「あちゃー、やりすぎたか」というような顔をしていた。まあ、魔物一体くらい誤差の範囲だけどさ。俺が『ウォータードーム』の魔法を使わなかったら森が全焼してしまうよ。少し手加減してほしい。


それからも俺たち二人は森の中を散策して、出てきた魔物を片っ端から倒していった。俺のレベルも2上がった。魔核コアも結構手に入った。


「今日はもう帰りましょう」

「ええ、そうしましょうか」


俺たちは下山を開始した。山を照らす光もだんだんと山吹色に変わり始めている。



「ごちそうさまでした」


今日の夕食は水溶きのスープとパンだ。なんともひもじい。

今日はデルタさんがいないから、夜の練習ができないがどうするか。


「フェルさん。いつもやってる夜の練習付き合ってくれませんか?」

「え、ああ。今日は夜外に出るから、ごめんね」


デルタさんの居ない夜に外に出るのか。大丈夫かな?


「俺も一緒についていきましょうか?」

「大丈夫だよ。ちゃんと魔物除けの結界は準備しているから」


魔物除けの結界とは、普通は三日かけて魔法陣に魔力をかけて作る結界のなのだが、俺は一瞬にして作ることができる。


それにしても、作るのが大変な魔物除けの結界を作ってまでして、一体どこに行くんだろうか?まあいいか、他人のプライバシーまでに踏み込む権利は俺にはない。


「じゃあちょっと行ってくるよ」

「行ってらっしゃい」


フェルさんは外套を羽織って、カンテラをもち出ていった。


俺一人になってしまっては夜の練習はできないな。今日はもう寝るか。

俺は体を濡れタオルで拭いて、ベットへと入った。



ピクッ


気配察知が反応して、目が覚めた。フェルさんかな?


「フェルさーん。帰ってきたんですかー?」


ベットから起き上がり聞いてみるが反応がない。俺は無詠唱で『サーチ』を発動した。


うわっ。山小屋の周りには少なくとも100人の人と召喚獣と思われる300体近くの魔物が居た。


(この家が囲まれている?!)


何故デルタさんがいないこの家を囲う必要があるのか。狙いは俺か、フェルさんか。しかしフェルさんは帰ってきてはいない。となると狙いは俺か!


俺はすぐにかけてあった認識阻害のローブを羽織り、認識遮断の魔法をかけた。


キィー。玄関の扉が開いた。

ギィー ギィー ギィー ギィー ギィー


誰かが階段を上がってくる。家の中にはすでに10人近い人が入ってきている。


キキィー。俺の部屋の扉が開いた。


入ってきたヤツの手にはダガーが握られている。ヒソリ ヒソリとおれの寝ているはずのベットへと近づいている。ベットには毛布を丸めて上に掛け布団をかけている。

ヒソリ ヒソリと忍び寄ってきたヤツは俺の寝ているはずのベットに向かって思いっきりダガーを突き刺した。


ヤツは驚いた顔をして掛け布団をめくりあげた。


「誰かお探しですか?」

「ッ?!」


やはり俺目当てだったらしい。


「ドアホン鳴らさずに何の用ですか?」

「なぜ貴様は起きている?」


どうゆうことだ?さも俺が寝ていることが当たり前かのような反応。


「なぜ起きているとはどういうことでしょうか?」

「お前には関係ない。これから俺に殺されるんだからな」


なるほど、暗殺か。いや、全然納得できないよ。なぜに俺を殺しに来た、それになぜ俺がいることを知っているんだ。


「なぜ俺がここにいるのを知っているんでしょうか?」

「お前には関係ない」


やはり答えてはくれないか。まぁ、大体想像は着くけど信じたくない。

家の周りには100人近くの人がいる。もし森で見かけて「よし、殺そう」と思ったとしても引き連れてくる数がいくら何でも多すぎる。これじゃあ俺の実力を知っていてこの数を引き連れてきたとしか思えない。まぁ、精神魔法で聞けば—


「カズヤ君。悪いけど素直に殺されてくれないか?家の周りを何人の人が囲んでるか君ならわかるだろう?抵抗は無意味だよ」


「…やっぱりフェルさんでしたか」

「まるで分っていたような口ぶりだね」

「ええ、大体は」

「それにしても君は相変わらず化け物だね。Sランクの魔物も刺されたら一瞬で寝てしまう薬を持ったのにピンピンしているとは」


ベットに忍び寄っていたやつが言っていた答えはこれか。

俺は混乱している頭を整理して、この世界での約束を思い出した。


『人であっても敵意を向くなら殺す。敵と認識してまで生かしておく必要はないから。』


「フェルさん。あなたはですか?」

「ああ、そうだ」


「…そうですか。フェルさん、あなたを傷つけたくはありません。ここから去ってください」

「ほう、この数相手に勝てるとでも?それはいくら何でも「ええ、勝てますよ。手加減をしなければね」」

「カズヤ君。あまり自分の力を過信しない方が身のためだよ。まぁ君に次はないけどね」


そう言い終わるとベットに忍び込んできていたやつ(次から暗殺者と呼ぶ)がダガーを投げつけてきた。

しかしそのダガーは俺には届かない。俺の目の前には半透明の『シールド』が展開されている。もちろん無詠唱だ。


「っな?!無詠唱?!」


暗殺者ははじかれるとは思ってなかったらしく、驚愕を隠せない。それもそのはず。

俺はフェルさんにはもちろん、デルタさんにも無詠唱で魔法を発動できることは伝えていない。それをフェルさんから聞いた情報しか持っていな暗殺者達が知っているわけがないのだから。


「下がれ!!俺が決める」


扉の後ろからまた一人男が現れた。男のステータスを鑑定してみると魔法使いであることが分かった。ちなみに俺の居る位置は扉とは反対側のベットの後ろだ。


「火炎よ渦巻け フレアトルネード」


おいおい、家を全焼させるつもりか?!この家はデルタさんの家だ、傷一つつけさせるわけにはいかない。


「アブソリュート」


炎の竜巻は俺の発動した渦に巻き込まれ、魔力に変換された。もちろん返還された魔力は俺の魔力に付け加えられる。


「ッチ!さすがは化け物ってことか」


化け物とは俺のことだろうか。心外な。

とりあえずこのまま家の中でドンパチやったら家の中のものが傷ついてしまう。ということで


「ゲート」


俺はこの家の中にいる人、全員の足元にゲートを作り全員を外に出した。


「た、隊長?!」


ゲートの出口の場所をまずった。敵陣地のど真ん中だ。座標設定間違えちゃったよ。


「カズヤ君、この数を相手では流石の君でも無理だろ?おとなしく殺されてくれ」


フェルさんからの俺の評価が上がったらしいが、まだ舐められてるな。って言っても、周りには人が100人、召喚獣が200体で平均レベルが40だ。かなり厳しいな。


「確かに俺一人では厳しいかもしれませんね」

「だろ。おとなしく降参してくれ」

「俺は、と言いましたよ?

来たれ地獄の猟犬 サモンズ・ブラックドック」


俺の周りに黒い魔法陣が無数出現し、魔法陣の一つ一つから人の肩ほどまである体長の黒い犬が出てくる。その数50体。召喚獣には召喚獣ってね。


「ふむ、これでも51対300だ。カズヤ君、君に勝ち目はないよ」

「それはやってみないとわからないでしょ?」


俺が指示を出すとブラックドック達は無数の召喚獣たちに襲い掛かった。中にはブラックドックよりもレベルの高い召喚獣もいて薙ぎ払われるが、そこは数の暴力で押し切る。

それから5分ほどで相手側の召喚獣は一体も残さずに消えた、否ブラックドック達によって殺された。


「これで51対100ですよ?」

「っふ、これでもまだこちらに分はある」

「そうですか」


そういうと、俺はそこらへんにいた敵に『ウォーターカッター』を放ち足を切断した。これと同じように致命傷にならないように俺は近くに居る敵からどんどん手足を切断し始めた。


「さぁ、これで残りはあなた達だけですよ。形勢逆転ですね」

「ック、本当に君は化け物だな。これなら本部が君を殺せと言う意味が分かるよ」


俺は召喚していたブラックドック達を送還した。


「何のつもりだい?」

「すぐに殺しては意味が無いでしょ?フェルさんたちの組織が何かもまだ聞いて居ないからね」

「ずいぶん余裕だね。ブラックドックには敵わないけど、君一人くらいに後れを取る者達ではないよ」


それもそうだろう。彼らのレベルは皆が80以上だ。それに比べて俺のレベルは60。20のレベル差相手なら普通は勝てっこないが、それは普通の場合だ。


「パワーブースト。スピードブースト。神器創造クリエイトセイクリッド グラム。アクセラレートワールド!」


一つ目と二つ目の魔法は身体強化の魔法だ。三つ目は『創造魔法』。最後のは思考速度を上昇させる魔法だ。これなら余程の事がない限り負けることはないだろう。


その時—


「ッ?!」

「君たちずいぶん無様な格好になってるね」

「「「?!大賢者様?!なぜここに?!」」」


俺はわき腹に熱いものを感じた。横目で見ると、そこには短剣が深々と刺さっていた。傷口からは止めどなく血が流れ出ている。それに加えて短剣の刃には黒い靄がかかっている。


「お、お前は誰だ」

「僕かい?僕は大賢者、須藤すどう 朱里あかり。君と同じ迷い人さ」


日本人か。迷い人なのに組織に捕らわれていない?

鑑定アナライズ



==================================================

名前;須藤 朱里 女 Lv100

職業;大賢者

体力;999999

筋力;999999

俊敏;999999

抵抗;999999

魔力;999999

魔抗;999999

固有能力:全属性適正 呪詛魔法 全属性耐性 詠唱短縮 魔力感知 高速魔力回復 複合魔法[効率上昇][消費魔力軽減][3属性複合][4属性複合] 隠蔽 魔力操作[魔力圧縮][魔力放射][座標設置][遠隔操作][魔力設置] 魔力返還<生命> 言語理解 

===========================================


あー、これチート過ぎるわ。なんか白けてきたぞ。これぞ異世界テンプレみたいな奴だな。


「で、大賢者さん。俺になんか用ですか?」

「君が江藤 和也君かな?」

「だったらなんだ?」

「……君うちに来る気はないかい?」

とはどこの事ですか?」

「ははは、君は面白いね。薄々気づいているんだろ?」

「知恵と生命の樹、ですか」

「そうだ、やっぱり気づいていたんだね」


そう、俺を襲ってきた奴等は全員が『知恵と生命の樹』の者達だった。

何故知っているか?それは…デルタさんから聞いていたからだ。

デルタさんはフェルさんの正体に気が付いていた、けれどそれを問い詰めたりはしなかった。


「で、どうだい?うちに来る気はないかい?」


『知恵と生命の樹』。迷い人を捕らえてよからぬことを考えている組織。俺は…。


「入る気はありませんね。残念ですけど」


須藤は「そうですか…。」というと、指を鳴らした。

体から何かが抜け出していく。薄い白いオーラのようなものが体から抜け出し、空中に溶ける。体から力が抜けていき、俺は膝から地面に崩れ落ちた。


「どうだい?つらいだろう?」

「な、何をした?!」

「さあね、まあヒントぐらいは教えてあげてもいいかな~?

ステータスを見てみなよ」


「…ス、ステータスオープン」


俺は力なき声で唱えた。

?!。ステータスを見ると魔力がものすごい速さで減っていっているのが分かった。それに『脱魔の呪い』というものが増えていた。


「脱魔の呪い、か?」

「そうだよ。よくわかったね」


須藤は長々と脱魔の呪いの説明を始めた。この呪いを考えた経緯など、どうでもいいことがほとんどだった。もちろん説明されている間もどんどん魔力は減っていく。

須藤の話を要約すると、この魔力は解呪するまで魔力を無限に体外に放出する、というものらしい。


「どうだい?解呪をする代わりにうちに入るというのは」

「断ると言っただろう」

「そうか。じゃあ、しょうがないね。死んで?」


須藤は腰に帯剣していた短剣を俺に向かって投げ飛ばす。狙いは頭。

短剣は狙い違わず俺に向かって飛んでくる。飛んでくる短剣には先ほど同じく黒い靄がかかっている。十中八九死の呪いだろう。

あーあ、俺の人生、短かったな。俺死ぬのかな?世界がゆっくりに見える。とっくに『アクセラレートワールド』は切れているはずなのに、これが走馬灯ってやつなのかな?

短剣は着々と俺との距離を縮めていく。















































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