第2話 草原の魔女様
夕方、俺は再び覚醒した。
もう少し立てば、デルタさんが来てくれるはずだ。
お、噂をすればなんとやら。
コンコンッ
「エトーさん。お加減はいかがですか?」
「君が先生の言っていたエトー君か。確かにここいらの顔だちじゃないな」
何やら人が増えている。デルタさん同じく30代くらいの男性だ。腰には両刃の直刀を提げている。一番特徴的なのは髪で見え隠れする先がとんがった耳だ。多分エルフだ。初めて見たけど女がよかったな。ちょっとがっくし。
「デルタさん。そちらの方は?」
「僕はフィルナンデス。デルタ先生の一番弟子だ。君のことはデルタ先生から聞いてるよ。聞いてるって言っても名前ぐらいなんだけどね。エトーさん」
「そ、そうですか」
一緒に入ってきた男は律義に礼をしながら自己紹介してくれた。なんでもデルタさんの弟子らしい。同い年くらいに見えるのに、変なの。
「二人は師弟のの関係なんですか?同い年くらいに見えるんですけど?」
「まぁ、口がうまいのねエトーさんは。私の方が全然年上ですよ。あはは」
「私が先生と同い年なんてやだなぁ~「あぁ?」なんでもないです。先生は魔女様なので一生が長いんですよ。」
どうやらデルタさんは魔女様らしい。うん。もうなんか驚くのに疲れてきちゃった。
「ちなみにデルタさんは何の先生なんですか?」
「魔法よ」
あー。やっぱりあるんだ魔法。まさにここは剣と魔法のファンタジーな世界ってわけだな。驚き疲れたわ、もう。
「へー、魔法ですか。すごいですね(棒)」
「そんなにすごいことじゃないわよ。こんなことも知らないとなるとやはりあなたはここら辺の人ではないんですね」
なんか呆れられた気がした。こんなことも知らないの、と。まぁ、遠くから来たってことはあってると思うけど。
「魔法は、人間はだいたいの人が一属性は持っているものなのよ」
「だいたいの人ですか?使えない人もいるんですか?」
「ええ、ステータスに魔力操作がないと使えないんですよね。一万人に一人の確立くらいですね。
使えたとしても大体が生活魔法程度で伸び悩みます。そこから先に進む人はフィルナンデスなどの魔法が好きだとかそういう人ですね」
「そういう君は魔法が使えるのかい?魔法自体知らなかったみたいだけど。先生のことも知らなかったようだし」
「知りませんでした。魔法ってものも初めて聞いたので」
魔法か。ファンタジーの小説などでは来たことがあるが、実際に見たり聞いたりしたのは初めてだ。
この部屋にあるカンテラも魔法の一種らしい。なんでも周りが暗くなると自動的に光る魔法がかかっている
「君のステータスを見してくれないか?疑っているわけじゃないんだが、もし犯罪者だったりしたら私たちも共犯者として詰め所に入れられてしまうからな」
「ステータスって何ですか?」
フィルナンデスが口を大きく開けて呆れるような目線を送ってきた。「え、こんなことも知らないの」とでも言ってるかのようだ。
「は~。君は本当に何も知らないんだね。『ステータスオープン』と唱えてみてくれ」
「ステータスオープン」
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名前;江藤 和也 男 Lv1
職業;創世の魔法使い
体力;0
筋力;100
俊敏;100
抵抗;100
魔力;99999999
魔抗;100
固有能力;不滅 隠蔽 全属性適正 全属性耐性 全状態異常耐性 気配察知 魔力感知 詠唱短縮 超高速魔力回復 魔法創造 韜晦 魔力返還<血> 限界突破 言語理解
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目の前に半透明の薄い縦横:15 30(cm)の板が現れた。
周りにはただの半透明の板にしか見えないようで、本人が許可した人にしか閲覧はできないらしい。
夢に出てきたやつだ。創世の魔法使い。俺の推測だが、この剣と魔法のファンタジーな世界に送り込んだ張本人だろう。
これでも俺は中学の時に中二病こじらしていた男。ファンタジー系のゲームなどもかなりの数やっていた。それ故にステータスプレートに書かれているものも理解ができる。だが体が0とはどういうことだ?死んでいるじゃないか。あと、魔力。俺の知っているゲームでだとせいぜい10000が最高だった。この世界ではどうかは知らないが、桁違いだってことは俺でも想像がつく。
「これっておかしいですかね?」
「どれ、見してくれないか」
「はい、これなんですが…」
俺は指の動きでステータスプレートを反転させると、デルタさんたちに自分のステータスを見した。二人は俺のステータスを見ると、二人して顔を見合い、お互いの頬をつねり合ったりしてもう一度俺のステータスプレートに目を戻す。
そして信じられないものを見たように口を大きく開け、数分の間どちらも口を閉じなかった。いや、閉じられなかった。あまりにも規格外すぎて。
「こ、これは。長く生きているけどこんなステータスを私はお師匠さま以外に見たことがない。それに職業。お師匠さまと一緒だわ。創世の魔法使い、」
「先生…」
何やら触れちゃダメな話題に俺のステータスが触れちゃったらしい。
「エトーくん。君は一体何者なんだい?こんなステータス、最古の魔女様以外で聞いたことがない。それにスキルもだ。不滅?魔法創造?言語理解?聞いたことがないスキルでいっぱいだ。それに魔力が彼の魔王すら凌いでいるなんて聞いたことがない。君はどこから来て、何のためにここにいるんだ!君は一体何者なんだ!」
フィルナンデスは最初は何とか落ち着いていたものの、後半になるととうとう抑えられなくなったのか、発狂気味で聞いてきた。
確かに俺のステータスは異常らしいし、俺はそれを薄々は感じ取っていた。ステータスを見した時の、デルタさんの懐かしいような寂しいような視線で。けれどそれは俺の異常なステータスに対してではなく、師匠であった者へ向かったものだった。
最古の魔女。創世の魔法使い。どちらも夢で聞いたことのある名前だ。あともう一つ。この呼び名もあっていたら俺は確信するだろう。
「デルタさん。最古の魔女の、師匠さんのお名前。伺ってもいいですか?」
「私の師匠の名は、ニーナ。ニーナ・マギ。私の一番尊敬する人の名前です」
デルタさんは涙を流しながら答えてくれた。
和也は知らなかった。なぜデルタさんが涙を流したのか。そして何故それを自分は早いうちに聞いておかなかったのか。後に後悔することになる。
その日はフェルナンデスがデルタさんの背中に手を回し、背中をさすってやり部屋を後にした。閉められた扉越しにデルタさんが泣いている声が聞こえた。そして数分、部屋の扉が開きデルタさんが明日のことを伝えてくれて、また部屋を後にした。明日のことを伝えているときの顔は、付き物が取れたような、覚悟を決めたような顔をしていた。
おやすみなさい。
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次の日の朝、まだ太陽が地平線に頭半分隠している時間。
山小屋からネイター伯爵領の方へ10キロほど離れた場所。二人の男が森の中で
「そっちの調子はどうだ?」
「最近小屋に新しい小僧がやってきた。あいつは化け物だ!やってられねーよ」
「口答えするな。お前は上に言われたとおりに動いておけばいいんだよ。フェルナンデス」
「わ、わかったよ」
「これは今回分の報酬だ。これからもちゃんとやれよ。逃げようとかは考えるなよ、苦しくなるのはお前だ。あと、化け物の監視もだ」
男はそのまま宙に浮き、伯爵領の方向へと消えていった。フィルナンデスは男の姿が消えるまで立ち尽くし、考えていた。
昨日来た子供はいったい何者なのか?ボスでも勝てない魔力量。見たことのない
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鼻の中においしそうなバターの香りが漂ってきた。まさか本当に美味しそうな匂いで起きることになるとはね。
階段を降りるとすぐにダイニングに出た。本当は起こしに来てもらうまで寝ていようとも思ったが、流石に人としてどうかと思って。朝ごはんのお手伝いでもできればいいな。
「おはようございますデルタさん」
「ええ、おはようカズヤさん。昨日はよく寝れましたか?」
「はい、ぐっすりと。あの後大丈夫でしたか?」
「ええ、お恥ずかし所をお見せしました」
そんな時玄関からフェルナンデスが薪を担いで入ってきた。
魔法で火は起こせるけど魔法の火だけだと燃費が悪くて薪も使ってるんだそうだ。
「おはようカズヤくん、先生もおはようございます」
「おはようございますフェルナンデスさん」
「フェルナンデスさんか、長いだろ?フェルでいいよ」
「そうですか?じゃあフェルさんんで。改めてよろしくお願いします、フェルさん」
「二人とも朝食にしましょう」
すでにテーブルには、籠に入ったパンとスープが湯気を立てて置かれていた。朝目を覚ました匂いの元はこれか。バタースープ、名前だけ聞くと胃もたれしそうだな。
「いただきます」
「「いただきます?」」
「カズヤくん、何だいそれは?」
どうやらこちらの世界には「いただきます」の精神がないらしい。確かに無言でスプーンに手つけてたな、そういえば。
「僕の居た所ではご飯を食べるときは両の掌を合わせて「いただきます」と言うんです」
「それにはどんな意味があるんだい?」
「確か、作ってくれた人と、命を分けてくれた物への感謝の意味を込めてって感じだった気がします」
「へー、君の居た地域は変わっているんだね」
「カズヤくん。君はどこから来たのか教えてくれないかい?」
「えーっと、僕もいまいち把握してなくて」
「わかること、話せることだけでいい。教えてくれないか?」
なんかフェルさん、昨日よりは落ち着いてるけど今日はしつこいな。まぁ話しても問題ないと思うんだけど。
俺はデルタさんとフェルさんに今自分で把握していることを全部話した。もしかしたら何かアドバイスとかをくれるかもしれないから。
話したのは、自分がこことは違う世界から来たと思われること。夢のこと。この二つだ。
「カズヤさんは異世界人だったのですね。
フェルナンデス、今期の勇者召喚はもう終わっていたかしら?」
「はい。こないだ街に行ったときに「勇者様~。勇者様~。」と騒いでいたのですでに召喚された後かと」
「多分ですけどカズヤさん。あなたは迷い人と言われる人たちだと思います」
「迷い人ですか?それも人たちってことは過去にも同じ人がいるってことですよね?」
「はい。この世界にはたびたび次元の狭間というものに落ちて、来る人がいるんです。一年に5人ぐらいのペースで。お師匠様もその一人でした」
「デルタさんのお師匠さまも。元の世界には帰れないんですか?」
デルタさんの師匠。最古の魔女様。そして夢にも出てきた、創世の魔法使い。みんなが同一人物。そんな現在まで名を遺したほどの人も帰れないとなるとこれはどうすれば。
「で、でも迷い人を探して保護している団体もあるぐらいだから安全ですよ、ですよ?」
「なんで最後疑問形何ですか??」
「ここ最近、その団体から悪い噂が絶えないんです。なので今カズヤくんが行っても悪いように利用されるかと」
その団体は『知恵と生命の樹」という地球の人造人間アニメに出てきそうな名前だった。そしてここ3年程の迷い人は故意に呼ばれたらしく、一年に10人ほどのペースらしい。それも全員が全員、『知恵と生命の樹』の敷地内に現れているらしい。
その後は二人にこの世界の常識などを聞いたりして朝食を済ました。この後デルタさんとフェルさんは魔法の勉強をするらしい。
「カズヤさんも今日から一緒に魔法を勉強しませんか。あんなに魔法に特化したステータスしているんですか。どうですか?いっしょにやりましょう!」
「私もカズヤ君となら一緒に勉強したいですね。どうですか、一緒にやりませんか?」
確かに魔法はやってみたいし、この世界を生ききるためには必要不可欠だと思う。けどもし…。いや考えるのはやめよう。善意を捨てるほど俺は嫌な奴じゃないはずだ。
「わかりました、デルタ先生お願いします。フェルさんも」
「あらま、先生なんて。今までどうりデルタさんでいいわよ」
「そうですか?じゃあ改めてよろしくお願いしますデルタさん!フェルさん!」
俺たちはこの後の予定を話し合って、朝飯を終わらせた。
「ごちそうさまでした」
「「ごちそうさまでした?」」
「ああ、さっき話した地球のご飯を食べ終わったときの挨拶ですよ」
「そ、そうだったのね」
俺たちは飯を終えダイニングを後にして、どでかいデルタさんの庭に出ていった。
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