第3話

 僕が野次馬にもまれていると、急に向こうが騒がしくなった。

 カメラを抱えた男や、マイクを持ったリポーターが駆け出す。僕も慌ててその後に続く。



 誰かが警察に両腕を押さえ込まれた格好で、小さなアパートから出てくる所だった。

 トシオだった。


「違う…違うよ! 俺じゃない!」

「いいから乗りなさい」


 トシオは必死になって訴えるが、そのままパトカーに押し込められる。

 容赦ないカメラのフラッシュ。

 心無い人間の、どさくさな罵倒。

 違う。

 犯人はトシオじゃない!

 僕も必死で叫ぶが、僕の声なんか誰の耳にも届いちゃくれなかった。








 どうやら、垣田家からトシオの指紋や足跡が見つかったらしい。

 そしてトシオは、殺された両親から娘と別れるよう再三言われていたらしい。つまり交際を反対されて、犯行に及んだ―――と連行されたのだ。

 犯人と断定されたトシオが捕まり、しばらくすると垣田家の周りは、随分とひとけが無くなっていた。数人の警察がうろうろしている位だ。野次馬も殆んどいなくなった。



 僕は今度こそ、と歩み寄った。

 するとドアがカチャリと開いて、彼女が顔を出した。

 また…目が合ってしまった。


「こっちに来たら?」

「……」

「怖がらなくてもいいのよ」


 僕よりも背の高いその彼女はそう言って笑ったが、目は笑っていない。張り付くような笑顔だ。

 そろそろと僕は彼女に近づく。

 それを見て、彼女はくすりと笑った。


「やあねえ。そんなに怯えないでよ」


 だけど僕は見たんだ。

 あの夜の事…。


「…君は昨晩の子でしょ。 見ちゃったかしら?」

「……!」


 横たわる両親にナイフを突き立てていた、この人を……。

 そしてナイフの柄を何かで拭き取ると、何食わない顔で部屋の明かりを消した、この…。


「警察に言ってもいいよ。でも君の言う事、聞いてくれるかしら?」


 彼女は、ふふと笑う。

 警察は遠くで何かを探したりしていて、僕らの周りには誰もいない。彼女は囁き続ける。


「…みんな嫌い。暴力ばかりのあいつらも、助けてくれないトシオも……」


 だからトシオを家に呼んで、両親を怒らせトシオを帰した後、彼のナイフで刺したの…と人事のように話し始めた。

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