第8話 勝手に何でもランキングⅡ
ノックの音が会議室に響く。
「昨日は、ごめんなさい」
エリジアは会議室のドアを開けると、まずそう言った。
「僕も言い過ぎた。駄目だな。……警備隊長に成ったせいだよ。向いてない。――森の奥地も楽しいよ。明日、時間が取れたら「初めの森」に行ってみよう」
「人斬りは嫌いだって知ってるのに……変な事を言いました」
「――魔物なら幾ら殺してもいいって僕も言ってるようなものだ。ルフィアに前に言われた事がある。ルフィアも魔物も同じ、「魔法生物」だ、そう言われた。――続けようか」
《15位・誤射・誤爆型殺人》
「……居るんですね」
ミスはある。でもそれが命のやりとりをしている場所だとしたら話は違う。
別世界線の話――だけれど、実に被弾の七割が味方のものだった戦場が有ると言う。
「わざとじゃないのも含めれば幾らでも。魔装がある程度は防ぐ」
誤りは付き物であるが、近年急速に武器の攻撃力が上がっている。この為、事故による怪我、死亡の可能性は高まっている。
・『貫通』『割断』等、魔装の防御を破壊可能な装備エンチャントとの併用。
互いの魔力と状況次第で防御無効。勿論、重装鎧でも裸と同じである。
対応策は無い。
・『神速』使い等、身体エンチャントとの併用。
※同様に対応策は無い。
「ルメルさんもその……」
「まあ使うね。列挙するくらいなら、最初はパーティー組むな、だけでいいかも知れない。ルフィアじゃないけど、実験してみようか」
「わ、私が勝てるわけがないじゃないですか」
「お互い魔装は着てる。どうなるか、体験記でもいいんじゃないかな」
「『神速』」
ルメルが詠唱した。
距離は二十歩。
エリジアは渡された短剣を構えていた。
手が震える。
「あ、あんまり真剣にならないで下さいね」
「ごめん。睨んだね」
ほんの一秒。
何が起きたか分からない内にルメルは短剣を奪って、元の位置に居た。
「レベル差もあるけど、魔装が追い付かない」
「『貫通』も試す?」
「ルメルさんがちょっと本気出したら私、死にますよね」
多分、防御の層が出来ても砕け散って斬られる。
「まあ……そうだね」
《コラム・会議所のガイドの問題点》
「パーティーを組んでみましょう」と第一章で書くのは間違いである。
死亡原因の追究が出来ないのに会議所の資料では16%が対人戦での死亡と書かれているが、ルメルの見て来た範囲では半数以上であり直感とは異なる。
入山者を増やす事が税収に繋がるのであれば、なおさら無駄な犠牲者を増やす必要はない。
警告ばかりなので本文書を曲解すれば誰も森に行かなくなるようだが、森に精通したルメルの意見であり、今後裏付けを取った上で会議所にはガイドブックの改訂を促す事とする。
参考。
冒険者の「冒険を主原因とした」死亡率は年間2~3%である。(会議所発表の「見做し死亡者」及び入山料収入から推定)
暁において疫病等は早期発見と『治療』『施術』の改良によりほぼ根絶されており、魔法を使用しない都市とは比較にならない。一般的には治療が困難である疾病もほぼ根治可能である。
7歳以下死亡率が50%を超える(時期による)場所が帝国(魔法非使用の都市群としてこの名称を使うだけであり、単なる略称である)には散見されるが、これも暁にはない。
前回の侵攻においても死亡者はゼロである。
この医療衛生面、全般的な死亡率の低さから本都市に「非魔法都市」から流入する者は多い。かつ大金を稼げる「森」があるという要素も非常に大である。
人口増加率はここ十年を見ても年6%以上である。
現状の纏めは以上である。
以下、ルメルの「実感」における「冒険を主原因とした」死亡者の内訳を記載する。
50% 他の冒険者の攻撃に依るもの
30% 事故(罠等を含む)
残りの半数が蟲あるいは魔物によるものである。
《本コラムは以上。今後資料等により裏付けを取る》
《15位・誤射・誤爆型殺人》
※続きを記載する。
――武器の攻撃力は年々強化されている。
だからと言って攻撃力に上限を設けるのは暁の都市らしくはない。
特に注意すべきはわざと狙って来る者であり、気配から見抜く技術が必要と成る。
誤りを減らす事は出来る。(身体的合一は前提としていない。仮に合一しているのであればその者とだけ組むべきであり、この項目は読み飛ばしていい)
戦法を具体的に記述する。
・中距離以遠に効果のある武器
弓、及び殆どの魔法。
前衛として出ないこと。
主力は中距離以遠に威力を持つものだと割り切り、その者の護衛に徹する。
敵が突破して来た場合、中距離以遠の者には近距離に切り替えるよう言うか、湧き場の境界線外まで逃れること。
・境界線外部からの攻撃一般
境界線外からの攻撃は有効であるが、以下の点で推奨は出来ない。
・倒した敵からの魔力は殆ど得られない。(魔液入れが簡単だと見做す為)
・同様にレベルは上昇しない。
(既に近接して戦っている誰かが居る場合には即座に攻撃を辞めること)
・近距離での攻撃一般
互いの得物の攻撃範囲からは離れる事。二、三人であれば攻撃者を一人とし、休憩と攻撃を繰り返した方が効率がいい。
互いに魔装の防御反応で氷の塊に成っている集団も見かける。
接敵すると左右が氷で塞がれているので前後にしか移動できない。左右を気にしなくて済むとして敢えて密集する者も居るが、視界が限られている上に左右いずれかが下がるか前に出た場合、いきなり視界外からの攻撃を受ける可能性がある。
密集時にどの魔装がどこを防御するかは取り決めも無く、予測出来ない。
敵を引き付けてから不意に下がる、「防御無効化」という技もパーティーメンバー攻撃用に多用される。
・魔装無しの場合。
互いの得物の攻撃範囲からは離れる事。
故意に狙われる可能性は常に意識する事。
・レベルの高い者と共に戦う場合
(低い者と同時に攻撃する方法は高レベル側が心得ている筈である)
何と言われようが高い者に任せること。近づいてはならない。
2レベル以上離れている場合、そもそもパーティーを組んでも利点はない。
《十四位・顔狩り蟲》
移動中に樹から落下して来る事が多い。
(黄色以上の場所で休憩をするのは自殺行為なので慎む事)
魔装は万能ではない。例えば雨は無視する。落ちて来た木の葉は無視する。風も無視する。
風魔法であれば「魔」に反応するが、突風程度ならば無視する。
気絶していれば魔装は反応しない。
意識がどこまで消えれば反応しなくなるのかは状況次第だが、死んだ者まで魔装は防御しない。
ルフィアも万能ではないのだ。(エリジア注。ルメルの言である)
原理は分っていないが、ごく一部の蟲は魔装を無効化する。(※機密性の高い情報なので本文書の機密度を「宮廷上層部内のみ」とする。転記、複製はこれを禁じる。本文書には『唯一』を適用する)
これは下記の事項とは全く違う現象である。
・また、蚊や蠅にも魔装は反応しない。
・人(正確に記述すれば人とエルフ)の手、足にも反応しない。
例え高速に繰り出された蹴りであろうと、それが致命的であろうと、である。
備考:軍用で遂に「高速移動する小さな金属」(弾丸であると思われる。エリジア注)に反応するものが出来たようだが、金貨を積んでも冒険者の手に入るものではない。
なお、軍用でさえ砂粒には反応しないようである。
「やっと、魔物っていうか人以外ですね。しかも凄い事を書いてる気が」
「……まあ、僕が危ないと思うのを逆順に言ってるだけだから。また人が出て来るかも知れない。それにこれは……ルフィアに火を付けそうだからまだ公開しないで」
蟲の湧き場と言うものは特にない。
ゴブリンの湧き場だろうと、何もない道だろうと、顔狩り蟲は正確に顔面を捉えて落ちて来る。
直ちに短剣で剥がすか、松明を押し付ける事。
剥がし方の手順は会議所のガイドブックにも有る。
(エリジア注:と、言う事はかなり以前から現在まで対策が無いのである)
他の事は一切出来ないだろうが、激痛で気絶する前に対処する事。
稀に密集している場所も有るので、見つけ次第地図に書くべきである。
気絶後、運が良ければ、まだ行動できる間に気絶から覚める場合がある。
自力では剥がせないので意識のある内に麓の治療所まで行くか、声が出せるのであれば助けを求め続ける事。一刻も早く、手段を選ばず剥がさなければ顔と一体化し、意識が乗っ取られる。
『施術』の範囲ではあるが、襲われる前の状態に戻るには宮廷の治療所で数年を要する。
罠として大量に捕獲し、休憩所近辺に仕掛ける者も居るので充分に注意されたい。
「あ、罠か。……それが一番危ない。一位でもいい」
「先に、書きましょうか? 順位は後でどうにでもなるから」
「書き方は任せる。……例示しないと危険が伝わらない、か」
特に川の周辺で用を足す場合、上の空間を良く確認すること。
虫除けが殆ど効かないことも特記しておく。
挙動と特性から、「改造された生物」ではないかとも思えるが対策が無いのは何故なのかルメルにも不明である。
《十三位・シビレバチ》
同様に魔装の防御を無効化する。
一匹見かけたら逃げる事。
虫除けは良く効くので携帯し全身に塗る事。
高レベルの者も良く忘れる。広場で会議所が売っている(銅貨一枚)物でいいので必ず全身に塗布し、かなり匂うのは気にしないように。
注目を浴びようが構っている場合ではない。
なお、地図上、緑だろうと巣が落ちていたら罠である。
刺されるとすぐに全身が麻痺する。同時に卵を産み付けられているので身体の動く間に短剣で抉り出す。ポーションでその程度の傷は治る。
《コラム・どうでもいい話》
何となく怖い話が続いたので、余談として聞いた話を私エリジアが記載する。
・お勧めの服装
皆、魔装は見慣れているので特に目を惹かれる事はない。
蟲の項でも有ったが、新種は常に生まれている。
虫除けを染み込ませたローブを羽織るのがいい、とルメルは語っている。
必然的にほぼ茶系統だけになるが、最初は目立たないくらいが良いようである。
あくまでルメル流なので、値は張るけれども筆者としては透明かつ光る素材のローブを買って見たい。会議所近くの直営店でしか売っていない。殆どの蟲を(顔は除くが)通さない素材でもある。
他世界線の素材を使用している。
虹色にも見える光沢が素晴らしい。
特に今後も共に居たい誰かとの冒険であれば買うべき。
ポイントは胸。
何でだと思う事もあるけれど、どうしても視線が
「そこ読むの誰なんだよ」
「……重い話だけだと、ちょっと。私が持たなくて」
ルメルは全部読んだ上で冒険に行く気のある人以外は来るな、そんな感じだった。
少なくともエリジアにはそう見える。
「読むのは宮廷の上層部だけ、だろ?」
「それを言ったら冒険に行く人は何人かを除いて、そもそも宮廷上層部には居ません。纏め直して会議所のガイドブックに載せて貰う積りですから」
「……分かった。真面目過ぎるんだ僕は。たぶん。百回くらい死にかかってそれで残った奴以外はどうでもいい。それでいい気がして来た。書きたい事に誘導していいよ」
《十二位・火吹き草》
魔装の氷を溶かす程の火力がある。
踏むと爆発する。自分から踏む事まで魔装は防御しない。
真っ赤な花なので踏む方がおかしい。
《十一位・狂樹》
千年を経た大樹の中には人を攻撃するものが有る。
およそレベル4相当。
《十位・蛭》
ガイドブックのヒトヤドリオオヤマシビレビルを参照。
幸い、魔装で弾ける。魔装無しであれば噂をよく聞き、上級者の地図で確認した上で駆け抜ける。
《九位・崖》
かなりの人数が崖で死ぬ。森は丘陵地が多いが亀裂もあれば崖もある。
「初めの山」のゴブリン湧き場を越えた所に「大返し」がある。これを登れない場合は無理をしないこと。無理なら森に向いていない。素手で岩の凹凸を掴んで登る。
(エリジア注。慣れればすぐ、最初は練習を入れて数時間とのこと。落差120m)
・その他
「返しの滝」。滝登りが出来なければ帰るべきである。「初めの森」でも垂直に近い崖が3か所以上ある。いずれもルートに沿って鉄鎖が有るが朽ちている可能性もあるので頼り切ってはならない。
垂直な崖は以下の通り。
「一の落とし」落差80m。
「二の殺し」落差50m。一枚岩であり手掛かりがほぼ無い。
「三の蹴り返し」落差90m。
無理なら「次の森」の「大亀裂」以降には間違っても行けない。
(エリジア注。ルメルは七歳、かつ初見でも「返しの滝」を登れたそうであるが、ここを攻略するだけでも数カ月の準備をした手記が有名である。改めてルメルを生粋の冒険者と称したい。滝の上端からの落差は400m以上である。岩を手掛かりでも登れるらしいが初心者が登山装備なしに昇れるとは思えない)
有名な休憩所の先には必ず崖ないし難所がある。どの休憩所でも扉に施錠した上で夜を過ごす事は可能である。(魔力は濃いので必要なレベルは満たすこと)
以下は「初めの森」の有名な休憩所でありその先の難所でもある。
・三つ折りの滝(落差120m。レベル2は必要):会議所直営の店がある。
・返しの滝壺(落差200m。レベル3は必要):同上。
・引き返しの岩(その先は泥地であり高位の魔物しか居ない。レベル4が必要となる):休憩所はあるが店は無い。
その先は神の領域でありレベル5以上が必要と成る。会議所はレベル5以上の領域には(神自体がレベル5が上限である)干渉しない。管理は高位の冒険者が独自に行う。
《八位・魔物一般》
個別には対策を書けない。
戦って自分の方法を作ること。
「あの、魔物全部って、もうやる気がないでしょ?」
「面白いかどうかで言ったらガイドブック読めばいいんだよ。何度か死にそうになれば分かる」
《七位・夕暮れ》
特に八位と関係するが、崖等を降りられなくなったまま夜を迎えるとほぼ確実に死ぬ。
休憩所の近くには避難所として洞穴が有る。
何も居ないとは限らないので留意。
《六位・年齢》
四十歳を超えて現役の冒険者で居る事は難しい。森のガイド、警備兵等への転職を薦める。
ゴブリンだけを狩るのであれば五十歳過ぎまで例はある。
転職先はルメルの提案によると以下の通りである。
・森の麓での木の実、山菜の採取
・獣の狩りが出来るようであれば、各種罠を用いた狩猟
・川魚採り
・魔法に親しんでいれば魔導書執筆
・スクロールの作成(一攫千金の機会がある)
・それまでに学んでいれば錬金工房での作業
私、エリジアからの提案を列挙する。
・
「意外と無い、だろ」
「夢も何にもないですねこの文書」
「金貨百枚は溜まってるだろうから、十年は持つよ。大体学校なんか行ってない」
まあ、平均寿命は60歳超だけれども。暁では70歳近い。
平均を取ると乳幼児死亡率に引っ張られる。7歳超だけでの最頻値は70歳以上だ。
余命は月収に比例する。と書いてもしょうがない。
「もうちょっと、何て言うか、面白くします」
「何でもいいけど俯瞰するとどうしようもないもんだよ」
《五位・病気・大怪我》
「……大体分かりました。リアリストなんですね」
「? なに?」
「現実的ですね」
「突き当たるものはこれ、というのを逆順に言ってる。タイトルだけでいい」
『治療』も万能ではない。確かにその通りだ。
《四位・悪質なギルド》
「分りました」
《三位~一位》
自分で決めてくれ。出来なければ冒険者ではない。
「そりゃ、そうですけど……」
「また考えるよ。エリジアが期待した通りじゃないな。どう考えても」
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