第7話 勝手に何でもランキング

 《勝手に何でもランキング!》

 ※魔物のランキングではなくなりました。改題案は「森の危険あるあるベスト20」です。


「ランキングですけど」

 エリジアが眠そうだった。

「……朝まで話したな。悪かった」

「いえ、いいんですけど、まだ寝起きで。……で、結局思いつかなかったんで、ルメルさんと一緒に書こうかと」

「……僕は書けないよ?」

「有名な順ランキング、が一番当たり障りないかなあと思うんですけど。時系列滅茶苦茶になりそうだったら…………どうにかします。一人じゃ無理」


 《20位・ゴブリン》


「有名な順なら一番じゃないの? 普通は二十種類も相手にしないし」

 稼ぐと言ったらここからだ。そしてなんとか食いつなぐのだ。

「……じゃ一位? からじゃ面白くないですからええと……」




 《20位・偽医者》


「は?」

「居るんだよ休憩所に。あの地図の緑の所ね。大きい所にしか出ない」

「魔物ランキングですよ?」

「……悪質さじゃ変わらないから。人が危ないんだよ人が」


 ポーションは使い切った。薬草を集めるには体力がない。怪我を治すのが先だ。

 あなたは火酒を傷口にかけ、清潔な布を巻く。

 もう、麓まで降りるしかないか。

 そう思った時に大体現れる。

 マシな者は

「ポーション一個、金貨二枚で」

 と、吹っ掛けて来る。

 それだけ持っていれば、急峻な崖もある。骨にまで痛みがあるようならば縋るのも手だ。

 手に入れて『鑑定』すれば真贋は分かる。逃げたら大声で偽物のポーション売ってると叫べば、大体は捕まる。だから本物を持って来る。


「薬草、銅貨十枚で」

 こういうのが怪しい。『鑑定』しても初心者には効果がよく分からないのだ。

 傷薬。そこまでは分かったとしても効果のほどは知れない。

 その辺の草を適当に混ぜただけで『鑑定』したら薬効がちょっとだけ有った。

 大抵はそうだ。

 中には毒草まで故意か偶然か混ぜて来るのも居る。

 鑑定して即死しそうなものなら事前に分るが、遅効毒もあれば皮膚が爛れるものもあれば痒いだけのものもあるのだ。

 買わない事。

 薬草を集めないと帰れないようだったら、出来るだけ信用出来そうな誰かに背負って貰って帰った方が良い。同じ銅貨十枚なら喜ばれもする。


 《19位・パーティー殺し》


「……また人間ですか」

「出鱈目な案内人とかまで入れると、森で死ぬ原因の半分は人だ。森に衛兵がいるか?」

「なんか興味湧いてきました。……こういう分析はあんまりないですね」

 んふふ、とエリジアが微笑む。

「簡単な論文なら書けそう」


 うっかりパーティーを組んで死ぬ者は実に多い。

 よく考えて欲しい。相手は剣を持っているのだ。

 さらに、それで人の余り居ない場所に行く事になる。

 死んで灰に成ってしまえば、死因など分からない。


「……よく冒険する気に成れますね」

「僕はパーティーは組んで無いよ」


 特に女性が女性を誘っている場合、安心してしまう事が多い。

 が、ちょっと森に入れば別の男達が待って居たりするのだ。

 有り金を奪われる程度ならまだ運がいいと思わなければならない。

 森は犯罪者の楽園のようなものでもあるのだ。

 自分は男だから大丈夫? 体力があるから大丈夫?

 目潰しに良く効く草が有る。乾燥させた粉末を卵の殻に入れて投げつける。

 それでも戦えるだろうか。

 いや、人買いというものもある。傭兵、盗賊、裏の稼業だって幾らでもある。

 誰でも良いから殺したい。金貨百枚払う。そういう者に五十人近くが売られて犠牲になった事件もある。


「私、絶対行きません」

「一回は取材で行くべきだと思う。魔法も剣も習った筈だ。学校で」

「でもこんなの見分けが付かないじゃないですか」

「だから、入り口近くのゴブリンの湧き場でコツコツ稼いでる人組むんだよ。で、ゴブリン狩りしかしない。森の奥になんか入らない」


 避けるには、入り口近くのゴブリンの湧き場で一人、あるいは家族と一緒に戦うのが有効である。

 十日近く友人の振りを続けてから犯行に及ぶ者も居る。

 森の掟、「人を殺すな」は、第一条に書かれている。

 見かけ次第、


「どっちが犠牲者って分るんですか?」

「笑ってる方が加害者だ」


 見かけ次第、斬る事さえ許されているのだ。人殺者はもはや冒険者ではない。

 冒険者は互いに守り合うしかない。

 復讐に怯えることなく、行動すべきだ。

 とは言え、基本的には一人で戦っても集団でも入る金はそんなに変わらない。

 取り分も高レベル側が一方的に決める。

 1レベル上の者にとってあなたはザコに過ぎない。

 関わらない方がいい。


「私、レベル4ですけど……」

「レベル7から見ると、その、殺す相手とかでもない。ちょっと殴ったら死んじゃうからね」


 《17位・偽・悪質スクロール業者》


「これも人じゃないですか」

「だから、怖いのは人だって言ってるだろ」

「しかも、良く知らないですこんなの」


 スクロール。巻物。使いそうで使わないものとして長らくどうでもいいものとして高等魔法使いの小遣い稼ぎに使われてきた。

 だが、よく考えれば「書いて有る事」ならばレベルに関係なく実行できるのだ。

 さらに最近、作成者および業者の努力で「十回使えるシリーズ」「百回使えるシリーズ」と、実質的には廉価販売が始まったおかげで購買者は増加傾向にある。

 中には禁呪、『誘惑』、『幻覚』、『感覚上昇』、『呪術:感覚増加の蝶をあなたも』、果ては『錬金術系:あなただけの美少女ホムンクルス、作ります』シリーズ(既に128パターンを誇り次々に続編が出る見通し)、『魔法大学なんか要らない。これ一つで魔法学の権威に』等の「これ一つで」シリーズも好評である。


 高等教育が金貨十枚でしかも確実に手に入るのならば、と思う人も居るだろう。

 出席もせずに捲るだけであり、唱える必要さえない。

 スクロール技術の飛躍的進展により、「チラ見」で効果を発揮する。


 前述の美少女ホムンクルスは美麗かつ煽情的なイラストの入った表紙が好評である。

(エリジア注:ホムンクルスは会議所に登録すれば市民権を取得でき、何ら他の魔法生物、例えばエルフと何ら変わりはない。多くは魔力さえあれば不老不死である。未登録のホムンクルスの扱いについては何例か詳述しがたい事例があったようである。人身売買業者からは禁止すべきだとクレームが来ているがそもそも。長いので略)。

 俄かに活況を呈したスクロール業界だが、大手にせよ中小にせよ長く続けて来た出版社は(エリジア注:新規参入した業者も悪質な訳ではない)品質が高く、かつ「チラ見」等の技術革新を遂げている。


 書いてあることが実現してしまう以上、冒険の分野に限っても

 ・何の効果も無い(まだ良い方である)

 ・病気、怪我、果ては死亡する。

 ・誰かの隷奴に成る。

 といった悪質なスクロールも出回っている。どれも高等魔術の粋を凝らしてあるため、初心者には『鑑定』の結果が読み取れない。

 チラ見でも発動するため、うっかり目にするだけでも効果がある。

 今の所、チラ見の対策がないので検討されたい。

 死も恐ろしいが、身体、精神改造系は一生残るものも有るので急務である。

 個人売買は避けたほうがいいアイテムの一つである。


「他にどんなのが売れてるの?」

「……会議所の本屋に特設コーナーが有る。そこに即売業者も居るから何でも。読むだけで痩せるシリーズも売れてるみたいだね」

「幾ら? ねえ幾ら?」

「金貨一枚……だったかな。痩せる必要ないから」


 《16位・盗賊》


「……それはまあ、居るでしょうねえ。犯罪の楽園なら」

「スリから誘拐するのまでね」


 森の夜に耐えられる者が実行している居る訳ではないので、入山料も払っている上に人相も係の者にチェックされる。

 だがその程度では擦り抜けて入って来る。

「パーティー殺し」が遊び半分だとすれば、彼らはプロフェッショナルである。

 手口も様々であり、振舞われた茶を飲んだら眠ってしまい身包みを剥がれていたという例もある。

 ルフィアと冒険していた頃でさえルメルは盗賊に出会った事がある。

 徒党を組んで襲撃する本格的なものだった。

 ルフィアも問答無用で人を吹き飛ばすような事はしないのだ。

(エリジア注:このエピソードはネタとして使うので一部省略する)


 対策としては「注意深く行動する事」しかないが、これは冒険の原則である。

 前述した悪質なスクロールや無理矢理異常な効果のポーションを飲ませるタイプも出て来たので検討をお願いしたい。

 薬草だけでもうまく使えば詐欺程度は簡単なのである。

 あえて手口は詳述しない。


 さらに、強調しておきたいのは退役した軍関係者が含まれているらしい場合である。

 ・『転送』でいきなり大人数が現れる

 ・『安らかな眠り』等精神系の魔法を行使される(さらに悲惨な例も挙げられるが)

 ・丸裸になる

 といった事件も起きているようである。

 高等魔法が使える者は軍に志願するか、宮廷を目指すか、冒険者と成るか(錬金術師等行き先には困らないが)、現状、様々な道がある。


 ここで軍を例に挙げたのは、それを指摘することがほぼ禁忌だからである。

 さらに、対人戦闘能力、集団での攻撃能力が「冒険者」とは比較に成らない程強い者が出没しているからである。


 特に軍に注目した場合、忠誠、頑健さ、勇猛の三点で採用するようである。

 だから悪いと言う訳ではない。


「何であれ命令された事に反応可能な体力」と「それに疑念を持たない精神」だけが重視される傾向にある。

 加えて「殺人」に対して興味を持ち、あらゆる時間を使って大量かつ正確無比な「殺人術」を極め誇ることは有っても、逆はない。

 本項目は冒険者ルメルとしてだけではなく、女王陛下の護衛隊長としての進言も含めている。

「熱狂的殺人者であれ」

 そうは募集に書かないが、それが実情である。帝国側の喧伝も同様である。

 やっていることがそうなのだから短く言えば「熱狂的殺人者であれ」だ。


「熱狂的殺人者であれ」。この意識は一生涯に渡って続く。研究結果が宮廷に有る。

 人を殺してはならない。森の掟で十年生きて来たが、警備隊長に成ってから知見が増えた。

 今のルメルは三年前のルメルとは違うのだ。

 同時に三年前と同じである点を一つ、記載する。

 今でも森の掟を遵守する。

 例え女王陛下の護衛隊長であろうとルメルはルメルであり、疑わしいからと言って殺しはしない。規則上殺人許可は有る。が、躊躇せず殺しもしないし、殺人自体に喜びは無い。

「盗賊はその発生原因をこそ潰して欲しい」

 と、特記しておく。長期的には「治安の維持」など問題ではなく「絶望」をこの都市から除去する事が目的である。


「なんか、勢いでそのまま書いちゃいましたけど……」

「ここはそれでいい」


 千人を斬ったと称揚されているようだがルメル本人はこれに何の価値も見出していない。

 ランキングという、浮かれたような記述であるが明言する。

 繰り返す。ルメル本人は千人斬りに何ら価値を見出していない。

 何千人斬ろうがルメルは失望するだけであり、誇ったりはしない。


「あの……例えばどこかが攻めて来たとしますよね」

「論理が無意味だ。例えば殴られたら反撃する。当たり前だ。例えば親切にされたら感謝する。当たり前だ。例えばお茶を頂いたらどうする。例えば感謝されたらどうする。例えば愛されたらどうする。例えばプレゼントされたらどうする。例えがおかしいんだよ。護衛の原点は絶望を消すことにある」


「いえあの、攻められたら、あの、何て言うか」

「担当は変えて貰おう。いや、まだ分からないのなら明日冒険に行こう。覚えるべきは忍耐であり、常に有利であろうとする意識だ。優位でなければ勝てない。切迫したら負けだ。「例えば攻められたら」と考えている内は決してその外には出られない」

 ルメルは考え込むようだった。

「例えばと言うなという意味じゃない。例えた時点で前提を押し付けている、それだけだ。僕だって例えば、は使うよ」

 エリジアの言いたい事は一つだ。

 もし、帝国が攻めてきたら。

 きっとルメルは活躍する。

 それが失望だけだとは思わなかった。

 そう、言いたかっただけだ。

 確かに私は人を斬った事もない。重みが違った。

「続けましょう……この項目だけでも」


 冒険者として成功しようとすれば上記三点に加え、忍耐力、対人スキル一般、無駄な戦いを避けるという「基本動作」が身に付く。

 盗賊もほんの少し前はそうだった。


 上記の『転送』方式に加えて、極めて集団戦に長け、なにより冒険者流とでも言うべき剣術とは異なる、武器または素手での対人戦に長けた者が大きな勢力と成っている。

(緋色の密使、メタメサ、虹の重力、他)

 これは冒険者ルメルとしてではなく護衛隊長としての進言であるが、彼らが街区内で同様の事件を起こしているという報告もある。


 女王の護衛隊は同時に暁の護衛隊でもあると宣誓にも有る通り、野放しにすればいつか宮廷にも同じような事件が起きないとは限らない事を懸念しているのである。

 上記の『転送』を使った手段で『封鎖』されていない、いかなる場所へも侵入可能な事は明白である。


 警備をただ厳しくするのではなく――ほぼ全員に埋め込まれている魔法回路の一時的停止権、及び第三者による魔装の『脱装』詠唱を一部の者に解放することを提案する。

 暁の方針に大きく反するものであるが、ルメル警備隊長の進言として聞いて欲しい。

 他に良案があれば当然それに従う。


 単純に進言する。宮廷くらいは『封鎖』したらどうか。それで警備隊長を失職してもルメルには冒険がある。


 また、さらにそれを破る高等な魔法、技術は生まれるだろうが。

 恨みをゼロにすることは出来ない。だがルフィアはそれ以上に喜びを与えて来た。

 今後もそうであることを信じている。帝国への侵攻が噂された時はまず自分を疑った。

「例えば全世界が破滅する」のであれば出来ることはするが侵攻以外の策を考えて欲しい。


「なんか……ごめんなさい。言いたい事は全然そうじゃなくて」

 ルメルは無言で部屋を出て行った。

 いや、言葉は残して行ったのだ。私が聞きたいと勝手に思った言葉ではなく。

「全世界が破滅するのならエリジアはどうする。これに答えられないのならば「攻められたらどうする」、にも答える意味などないだろう。その質問は敵を作る為にのみ有る。わざわざ敵を作る警備隊長など居ないよ。やがてその「例えば」はその仮想敵を倒す為ならば自分を含む全世界が滅びてもいいという無意味に到達する。それ以外の道が予め閉ざされた質問だからだ。…………済まない。感情が高ぶった」

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