第6話 SS集・小ネタ

陽射しは暖かい。エリジアは、はっと顔を上げる。

 涎を拭く。朝までインタビューした後、特集、魔物ランキングをどうするか、メモを書いていたのだ。

「進んでないじゃん」

 当たり前だった。

 妖精さんに原稿を依頼するのは末期症状だ。書いてくれるわけがない

 纏めるだけで午前中を使ってしまった。

 飲みかけの冷えた妖精茶を一気に飲む。

「よし……どうでもいい」

 自分で言い出しておいてどうかと思う。でも魔物ランキングには欠陥があった。

「強い順……この後の展開の面白味が失せるわね」

「珍しい順……駄目。盛り上がるネタを失う」

 堂々巡りだった。

 ならば。

 堂々と関係の無いことを書こう。酩酊した頭でそう決めた。


 《SS集・小ネタ》


 ・もしあなたがどうしても珍しい死に方をしたいのならば、森の藪に隠れてルフィアを待つといい。

 時々だが全力疾走するルフィアに出会える。

 そして、スカートに触れようとすればかなりの確率で死ねる。

 紺のドレスの前垂れ、後ろも同様、はただの布ではない。

 よく見ると剣の形に銀糸が刺繍されているのに気づくだろう。


 魔装はただの防御用具ではない。

 ただの魔法強化装置でもない。

 ルフィアの場合――帯剣せぬ剣姫は――スカート自体を剣としているのだ。

 もはや無意識に動く。


 ゴブリンを薙ぎ倒し火吹き草を斬り飛ばし、時には邪魔な岩も餌食に成る。

 柔軟に蛇のように裾をもたげ、時には鋭く伸び、前後で360度をカバーする。

 どうドレスと繋がっているのか、あなたは答を知る前に剣の唸りを聞くだろう。

 回転さえするのだ。書いている私にも原理は分からない。


【刃扇舞】。ルフィア自身が回転しながら飛ぶ。前垂れも枚数を増やし八方のどこから襲おうと寸断される。たまに見せる必殺技だ。見られたら幸せだと思うべきだ。

 いずれにせよ、後には寸刻みのあなたが残るだけだ。


 ・「帯剣せぬ剣姫」ルフィアは、さらに二本の剣を持っている。

 左右の腕のブレスレットからは紺色に光る鞭が伸びる。

 レニアという錬金術師が真似をしているが、本家の能力には及ぶべくもない。

「いわゆる百歩」の距離の物は何であれ切断される。

 有効範囲がどこまで長いのかは知られていない。

 さらにロープ代わりにも使える。

 一時期、大樹の梢から梢に飛び移るのに使っていたらしいが何の為かは分かっていない。

 削岩機としても使えるのはスカートと同じだ。

 普段は書棚の高い所にある本を出し入れするのに使われている。


 なお、本気を出して剣の練習をする為に、宝具が部屋のどこかに置いてあるという噂である。攻城兵器クラスだと言われている。


 ・ルメルの革鎧であるが、最初こそ光沢のある革鎧に見えていた。だがレベルアップの度に進化する。鎧自体もまた生きているのである。(先走って書きました)


 ルメルの言によれば鎧には守護神まで存在しており(ルメルと同じ黒髪、黒い瞳の美少女である)、風呂に入る時に出て来ると言う。

 神の鎧なのは、宝具を超えているのは、無論ルフィアが作ったからだろう。

 なお、メンテナンスと称して魔液で作った風呂(魔液だけで作った場合、おおよそ金貨二万五千枚以上に相当するがこれは有り得ない)に魔装が人化し(守護神と同型)入りたがるようだが、想像を絶する維持コストである。


 会議所で使い始めた換算で言うと一回でおよそ五千万円以上である。(金貨250枚)

(湯、百倍希釈時。原液だと五十億円である)

 年間で200億円弱である。一年中魔液風呂というのは有り得ないが。

 いかなルフィアとは言え200億円を稼ぎ出すには1日かかる。(金貨十万枚相当)

 どう考えても錬金の工房に頼んだ方が安いがごく稀に実施されるようである。

 艶が違うのはこの効果もあると思われる。


 ・魔液の製法


 古来から伝わる製法一つである。魔力を出す大樹の樹液を楔型に付けた傷で集める。

 次にこれを『魔液生成』(『魔液合一』とも言う)で変質させる。

 森の広場で買う事も出来るが(銅貨二十枚程度)基礎魔法なので大抵は自分で作る。


 なお、急いで魔力を補充したい場合、頭から被るのが一般的である。

 魔液の色に関わらず、そのままでも傷口の殺菌、止血作用はある。『治癒』ほどではない。


 ・魔液入れの製法


 魔晶から作れる者は殆ど居ない。錬金工房で一つ金貨一枚で購入するのが普通である。


 ・ポーションの製法


 魔法使いの魔力漏出は液体の形態を取れる。方法は様々だが魔法使いが興奮状態かつ法悦状態であるとほぼ液体になる。この時におおよそ白い翼の形を取って噴出する。

 そのままポーションとして使える。

 ルフィアは涎でも作れると言う。魔力が充分であれば体液一般を変性して使えるようである。

 粘り気が多少あり、皮膚に塗ると潤滑性がある。飲むと甘い。

『治癒』以外に滋養強壮、鎮痛、及び以下の改善(虚弱体質、肉体疲労、病中病後、食欲不振、栄養障害)等効果は多様である。

 森の広場で金貨一枚で購入出来る。

 ※銅貨十枚のものは水に『変性』(錬金系魔法)をかけただけなので大怪我には効果がない。


 ・ハイポーション

 前述の興奮状態かつ法悦状態をさらに高めた状態で得られる。

「もう何が何だかわからない」状態であるらしいが(注:著者エリジアとしては作成経験が無いので)詳述出来ない。

 かなり深刻な損傷を奇跡的なまでに回復する。いわゆる「死んでいなければ大丈夫」と言う効果がある。

 ポーションの各種作用に加え、詳述しがたい官能的な作用もある。

 なおルフィアは唾液でハイポーションを作成可能であり、同様に魔力が高ければ体液ならば何でもいいのではないかと推測される。


 作成後にエンチャント可能であり、バトルポーション(血の色に成る)など派生形は多い。


 森の広場で金貨十枚で購入可能である。

 ハイポーションに安価な代替品は無い。見つけ次第広場の会議所公式販売店に通報されたい。街中の場合には警備兵に。


 ・薬効のあるもの


 ヌメリアオミドリゴケの抽出物。(止血、鎮痛、痒み止め等)

 センザンサンザシヘビムラサキの花の蜜。及び地下茎の抽出物。(毒消し等)

 薬草、と呼ばれる物は無数にあるので図鑑を参照されたい。

 特に虫除けは森では必須である。火を吹いた後の火吹き草の根、あるいは木の皮、どちらでも煮出せばある程度の効果はある。


 傷口の消毒だけであれば火酒を使うのが一般的である。


 ・鑑定


 物品税等と並んで歳入の柱である。個人でも鑑定出来るが換金したければ会議所で『鑑定』する。手数料は金額の多少にかかわらず一割である。

 歳入として年間で金貨百五十万枚程度である。


 ・物品税


 錬金の工房は一度会議所に納品しなければ販売出来ない。この時に一割~二十割の税額が決まり、販売は会議所本体販売所及び直営店が行う。

 税額の高い物はおおよそ以下の通りである。


 二十割

 幻覚、催淫等精神を乱す作用のある嗜好品一般。

  アカウラギタケの抽出物から作った製品等。

  一部の鎮痛剤等。

  黒魔術の集会等で使われる香、飲食物等。


 会議所由来の他世界線の物品。

 ※多数。会議所で確認されたい。


『鑑定』しても薬効が全く無い健康食品一般。


『鑑定』の効かないもの一般。


 高級娼館等の入場チケット。(※基本的に公営である)


 宝具


 その他希少品。(会議所が決定したもの)


 十割

 代表は妖精茶、妖精酒。


 他世界線の物品の複製物。


 油


 塩


 香辛料等


 その他会議所が決定した物。


 税額の低い物を含め歳入は年額で金貨三百万枚程度。


 ・入山料

 ※森であるが入山料と呼ぶ。

 一人一日銅貨一枚。歳入は年額で金貨百万枚程度。


 ・その他歳入


 銀行からの収入。百万枚程度。

 雑収入。五十万枚程度。


 ・主な歳出


 上下水道整備費


 治水・工事費(公立の物一般の修繕費を含む)


 道路整備費


 宮廷維持費(歳入の15%を超えてはならない)


 軍事費(歳入の25%を超えてはならない)


 魔法学校整備費


 その他公共事業、医療、公共施設運用費等。

 魔障壁維持費等


 ※会議所は周辺の(税収外扱い)店舗からの収入以外に予算を持たない。

 職員全員が神なので基本無給である。

 飲食及び眠る必要が無い。

 募金は各森に設置される公営販売、貸出所の運営に使用される。


 ・数字が続いたので逸話を紹介する。


 薬草について前述したが、十年森で過ごしたルメルは植物図鑑及び動物図鑑並みである。

 父親のレウスも同等以上であった。

 レウスとルフィアについて詳述することはないが、レウスはかつて負傷し気絶していたルフィアを薬草だけで治した事があり、レウスの冒険行にルフィアが随行することも有ったようである。

 同様に森の薬使い、医者と呼ばれる者も居る。


「……一人だと乗らないわ」

 エリジアはどうにか妖精茶で気分を高めていたが、やはりルメルが居ないと捗らない。

「終章書くまでには、ねえ。もう少し」

 秘書に成れるくらいには仲良く。ねぇ。


 ランキングはルメルと一緒に考えよう。

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