第4話 亜紀子の息子 学の話

【亜紀子の息子 学の話】


前世で、僕は死ぬ間際に太陽にお願いしたんだ。亜紀子の側にずっといれるようにって。そして、太陽は僕の願いを叶えてくれた。


僕は亜紀子の息子という形で、文鳥から新たに生まれ変わる事になった。僕は、生まれてからずっと幸せだったよ。


大好きな亜紀子に、生まれた時から抱きしめられ、どんな時も僕のことをずっと考えてくれて。大好きな人が、僕だけの為を考えて生きてくれるという事を知って・・・。


僕は、生まれて初めて愛って与えるだけじゃないんだ、って事を知ったんだ。愛されることの喜びを知ったんだ。毎日、毎日。彼女は僕にありったけの愛情を注いでくれた。


やがて、僕は彼女が僕を愛してくれることを当たり前のように思うようになってしまった。でも、ある日突然あの男が亜紀子の前に現れてから環境はガラッと変わった。


「ヨシヒコ君」、って亜紀子は毎日呼んでいたっけ。亜紀子より10才離れていると聞いたよ。細くて、白くて。茶髪の青年だった。普段は温厚な表情を見せていたけど、時折鋭い眼差しで僕を見ることがあった。


オレタチノジャマスルナ


そう、顔に書いてあった気がしたんだ。


僕は警戒していたけど、亜紀子はとても嬉しそうだったから、僕は静かに見守るしかなかったんだ。そして、彼に懐いているフリをしてこいつが一体何者なのか、探りを入れていたんだ。


それにしても、文鳥だろうと人間だろうと。結局、僕の立場は何も変わらなかったよ。二人が仲睦まじくしている光景を、僕は何も言わずに指をくわえて眺めるしかなかったんだ。


僕の生活は、少しずつ変わっていった。「ヨシヒコ」という男が現れてから。


やがて、ヨシヒコは此処を離れてヨシヒコの会社の近くで暮らしたいと言ったんだ。マンションを買って、一緒に暮らそうって言い出したんだ。


亜紀子は、凄く悩んでた。その後、昔仲良かったという男友達に相談してたんだ。でも、結局その男友達も。実際ヨシヒコのことを話したわけでも見たわけでもない。当たり障りのない「いいと思うよ!」という台詞で亜紀子の背中を押したんだ。


そりゃそうだ。君だって背中を押されたいから。

わざわざ反対しそうな女に相談しないで、ほとんど連絡してない既婚者の男に相談したんだ。


新婚で幸せ真っ盛りの男からしたら、昔口説いた女の恋愛相談なんて。正直、どうでもいいだろう。なんで、毎日君のことを見てる僕に何も言わないんだよ!


それに、僕は見つけてしまったんだ。亜紀子が、家のパソコン放置していて。フェイスブックが開きっ放しだったから。少しだけ、ネットサーフィンしたんだ。君にバレないようにね。


そしたら、あの男が他の女と一緒に写っていた写真を発見したんだ。


君とは繋がってなかったけど、君の女友達の「はじき」という子の繋がりにいたよ。この男。しかも、ヨシヒコなんて名前なんかじゃなかったんだ。


フェイスブックでは、山田大樹という名前で登録されていた。ヨシヒコは偽名で、年齢も偽っていたのか。全然見えなかったけど、本当は30越えてるのか・・。どうも彼女とエステサロンを共同で運営しているみたいだった。


調べれば、調べるほど。彼には色んな名前があった。山口良太、外内翔平、吉川吉彦・・様々な名前を使って色んなセミナーを開いている人間だった。


マンションのことも調べた。投資マンションの営業もやっている・・これか。亜紀子、これはやばい。これは!婚活につけこんだ、投資マンション詐欺だよ!


ネットサーフィンで色々調べたんだ。最近、婚活を利用したマンション詐欺が増えてるってね。生活感を匂わせておいて、マンション契約したらトンズラするというものらしい。亜紀子を、もう泣かせるわけにはいかない。僕が、彼女を守る。何がなんでも!


僕は、亜紀子のフェイスブックから、はじきという女にメールした。この女なら、何か知っているかもしれないって、直感で思ったからだ。


亜紀子が僕を置いてデートにいく日が、毎週土曜日。必ず男と一緒に帰ってくる。そして、男と亜紀子は僕の隣の部屋で寝る。次の日は、僕も交えて三人でデートするんだ。日曜日の僕なんて、邪魔者でしかないよ。


それでも、君は。僕をほったらかしにするわけにもいかないし。亜紀子も、僕が彼に懐いてくれることを願っているし。それに男からしたら、僕にイイ顔するのは、イイ人を演じる為の好都合な材料だったんだよ。


「学君、学君!」と、取り繕ったように男が僕を呼ぶ度に、吐き気がしたよ。まぁ、その度に僕は愛想笑いをしてその場を凌いでいたけどね。


僕は、はじきにフェイスブックでメールを送ったんだ。亜紀子になりすましてね。僕は、まだ3歳。パソコン打てるなんて知ったらおかしいからね。


実は、文鳥の頃から君がパソコンいじってるのを沢山見てきたから、何となく使い方は見ている間に覚えちゃって。おまけに、君はよくパソコンつけたまま寝ちゃうから。


その間に、僕はよくパソコンいじって色々不安に思っていたことを調べるうちに打ち方を覚えるようになったんだ。


「はじきちゃん、元気?久しぶりだね。


土曜日の夜あいてる?実は相談したいことがあるの。今度、結婚しようと思ってる人がいて。


でも、調べたら色々おかしいのよ・・。同じ顔の人がパソコン上に複数の名前で沢山出てくるし・・。


今度、マンション契約の話まで出てきたの。最近、投資マンション詐欺があるって聞いたから、怖くて・・。


今度、彼も一緒に部屋につれてくるから家に来てくれないかなぁ?私、彼を連れていくから。家には、息子が留守番してるとおもうの。息子には伝えておくから。先に家に入って待ってて!


それから、怪しい匂いがするから。警察も、他の部屋に待機させて!

パソコンで調べた彼のデータ送るから、これを警察に渡して!余罪がまだまだありそうなんだ!


それから、もしかしたら。はじきちゃんのフェイスブックの友達の友達に、彼がいたの。写真データも合わせてメールで送るから、フェイスブックじゃないアドレスも教えて!


もしかしたら、はじきちゃんも知ってるかもしれないの。」


メール送信。はじきは、この男を知っているといった。今週の土曜日、大丈夫よ。と、了承を得ることができた。僕のミッションは完了した。いよいよ。決戦は土曜日だ。


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