第5話 亜紀子の話

【亜紀子の話】


いつもの様に、彼と土曜日デートの後。スーパーで食料品を一緒に買って、息子の待つ家に戻る。彼は、あらゆる国籍の料理が得意で、そのどれもがプロ級に上手だった。一体この若さで、男性なのに何故そんなに色々作れるの?と、聞いたら「若い頃から一人暮らししていましたからね」と、言っていた。


「今度、もっとお肉が上手に煮る事が出来る鍋があるんだ。今度、持ってくるね。

二人でこれから生活していくから、鍋とか色々必要になるね。

僕、いいの知ってますから沢山今度紹介しますね。」と、言ってくれた。


私より10歳も若いのに、しっかりしてる彼。私はモノを自分で選ぶのが苦手だったけど、彼は迷いなく選んでくれる。ただ、いつも選ぶ買い物が桁違いに高かったりしたけど。彼は、話を聞けばお坊ちゃん育ちみたいだからしょうがないのかな。


金銭感覚の違いに最初は戸惑ったけど、やがて少しずつ話し合えば・・きっと、少しずつ埋まっていくんじゃないかって。私は、そう思う事に決めた。彼となら、上手くやっていけそうな気がした。


しかし、家に帰ると何故か息子と一緒に、女友達のはじきがいた。なぜ?私は呼んでないのに・・。


はじきちゃんは、茫然とした顔で彼の顔を見て立ち尽くしてこう言った。「翔平・・」


翔平?彼の名前は違うけど・・どういうこと?私は、彼の顔を見た。すると彼の顔がみるみる青ざめて、唇がガタガタ震えている。


どういうこと?翔平って誰?二人は、どういう関係なの?


「お久しぶりね、翔平。まさかあなた、また婚活中の女性や、独り身の女性に詐欺商売してるなんて。今度は、投資マンションですって?」はじきは、数枚の紙を右手でバンッと彼の目の前に突き上げた。


「被害総額、二億・・。これで、本当の彼女と住んでる豪邸買って本当は暮らしている。


あなたは、甘いマスクに甘い言葉で女達と、様々な契約を交わしてきた。


契約が終わったら携帯の番号を変え、被害者の前から一切消える。


そして、また新しい名前に新しいキャラクターを形成しまた別の女性の前に現れる 。こんなことを、繰り返し続けて・・。


この、人間の屑が。アキコに代わってお仕置きしてくれるわ。」と、はじきが言うとクローゼットから隠れていた警官が数人現れ、あっという間に彼を取り押さえ彼を逮捕した。


一体、私には何が起きたのかさっぱりわからないどうして?彼が、詐欺?私を騙す?彼に本当の彼女がいる?豪邸に住んでいる?どういうこと?どうして?私達は、これから一緒になってマンション買って二人の生活が始まるはずだったのに!なにがなんだか。さっぱりわからない。


頭の中。ぐちゃぐちゃすぎて・・・・何も整理できない。気づけば、自然と涙がポロポロと溢れてきた。


そんな意識茫然とした私の手をそっと息子が手を握ってくれた。小さくて丸い息子の手は、とても暖かかった。私は、そっと息子を抱きしめた。


(僕は文鳥編 完)



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