第14話 サリナ
「咲子さん。想いは、ぶつけてみなければ何も始まりませんよ。
咲子さんは、処女というコンブレックスと女としてのプライドが混ざった人だなぁと思います。
咲子さんは、まだ誰からも抱かれてないという葛藤。
早く処女を捨てたいけど、適当な男に抱かれるのは嫌。
どうせなら、本当に自分が心から愛した人じゃないと嫌というプライド。
咲子さんは、自分から好きですと一方的に伝えるのは好き。
何故なら、そんなラブレターを書いてる自分がただ好きだったから。
しかし。
いざ、好きな人が隣にいる状態になると・・?
毎日、その状態のまま過ごしてゆくと、
「私は、本当にこの人が好きなのだろうか?」と、途端に冷静になり分析を始め出す・・。
そんな事したって、何にもならないのに。
彼が貴方の隣にいてくれた事に対して、何故咲子さんは感謝しなかったの?
男は、何とも思わない女の為に連絡も取らなければ行動もしません。金が絡まぬ限り!
片桐さんには、何がしら理由があって貴方の隣にいようとしていたのですよ。
この時に、貴方はいくらでもモーションかけるチャンスあったのです。
私は、何度もチャンスをさりげなく振ろうと目配せして合図したり。
わざと、幽霊としてお茶零して片桐さんの股間付近にかかるようにして、貴方に拭かせようとしたりしたのですよ!
なのに!貴方ときたら!
グズグズばかりしてるから、結局片桐さん!
一人で、脱衣場にいってズボン脱いで絞ってたじゃないですか!
・・っちゅーか・・!
お前ホントトロイんだっちゅーのぉぉぉ!
脱衣場いったときに、ついてけよーっ!
で!お前も「大丈夫?大丈夫?」とかいって、オロオロした女を演じてでもいいから!
そこは、プライド捨ててでも女演じろっ!
で、「私が拭いてあげる」だろーがっ!
で、普段のお前とは違うキャラに興奮しだす片桐!そこで、お前が迫るんだよ!
」
段々、月野マリアの人格が共謀なサリナの人格に変化しつつあった・・。
怒り出すと、マリアはサリナの人格へと変貌する。
あーあ。こうなると面倒くさい。
ノンストップで、激しい口調が止まらなくなる。
私は、ギャーギャー喚くマリアの台詞を「はい、はい。」と、業務的に返してゆく。
「てか!はい!はい!ばっか言いやがって!
本当に聞いてんのかよ!
適当に、はいはい言ってるだけじゃねーのかよっ!
あんたの為を思ってこっちは、忠告してんの!お前!聞いてんのかよっ!
はい!じゃねーよ!バーロー!」
と言ってきたので、「そうですね。」と言い返した。
元はといえば、最初から月野マリアがいなければ。
私達は、最初から二人きりだったわけだし。
自分たちのペースで、うまくいってたのかもしれない。
そのかわり、月野マリアがいなければ。
私は、こうして官能小説が書けなかったし成功することも出来なかった・・。
ああ・・どっちが良かったのだろうか・・。
「あのう、さっきからまるで私の事全てわかったようなつもりで話してるみたいだけど・・。
私、マリアが思っているよりずっと今の状況は冷静に見つめてると思うのね。
多分、どんなに頑張っても上手くいかない時にガンガン攻めた所で、男心なんてドンドン離れていくと思う!
ぶつかっていい時は、男性の心がこっちを向いてる時よ。
私、なんとなくわかってたのよ。
毎日、いつも顔を合わせてたからこそわかるの。想う人の心だからこそ、わかるの。
片桐君の心、時折何処か上の空のような気がしてたの。
彼に無理矢理キスを迫ったの、最後の悪足掻き。
ただ自分が虚しくなるだけだってわかってた。最後に、こうなるような気がする事も。
全部。全部。わかってたんだと思う。」
私の目が、やがて霞のように曇ってゆく。
やがて、ぽたぽたと雫が頬を伝った。
「マリア・・。私、これからは貴方無しで。
一人で書こうと思うの・・。
結局、貴方の力を借りて書きつづけていても。いつまでたっても、自分の力にならないと思うの。
勿論、貴方のストーリーを作り上げる能力は天才的だと思うわ。
でも、いつまでもこのままでは・・。」
ずっと、幽霊の貴方に依存し続けては。
恋も仕事も、本当の意味で何も手に入れる事が出来ないと思ったんだ。
私は、これからは自分の力で地に足をつけて進んでいきたい。
誰かの助けがないと、生きていけないなんて。ずっと誰かの助けや力に依存しないと生きていけないなんて。
そんな女を。
誰が、本当に愛してくれると思う?
このままじゃ、私。
ダメだと思ったの。
自立。自立しなければ・・。
「咲子さん・・。酷い・・。
私は、ずっと。ずっと、貴方の為を思って。
貴方の幸せをずっと願ってたの。
私は、幸せになれなかったから。
せめて、私の為に一生懸命動いてくれた貴方を見て。凄く嬉しくて・・。
貴方の側にいたかったし、
貴方と片桐さんとの恋も応援してたんです。
だから・・。
何で、そんな事言われなきゃいけないのって・・。
私、やっと友達が出来たんだと思って嬉しかったのに・・。」
月野マリアは、泣いていた。
そして、小さく「ごめんなさい」と呟いてスウッと消えていった。
そして、私は一人ぼっちになった。
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