第172話 第三者side

 いきなりの抱擁に、桃香は体を固まらせた。それから、

「………え、えぇっ!?」

 慌て始めた。体をよじり、翔の抱擁から逃れようとする。だがしかし、意外にも翔の力は強く、どんなに彼女が体をよじろうともでてこれそうになかった。

「……ごめん、いきなり抱き締めたりして。」

 翔の声が、桃香の耳元をくすぐった。その声があまりにも近くて、ピクリと体が跳ね上がる。そのおかげかわからないけど、ようやっと桃香は落ち着いた。

 まぁ・・・桃香が顔を赤くしているのは、翔には見えていないだけなのだが。ちなみに翔の方も真っ赤だったりするが。

「……は、はいぃ~…………。」

 桃香は小さく返事を返した。



「……このままでも、大丈夫かな。」

 不意に、翔の声に不安の色が混じった。気になった桃香が、なにも言わずにこくっと頷くと、翔は口を開いた。

「………俺は馬鹿だからさ、どうしたら君が不安をなくすかとか、全然よくわかんなくてさ。だから、たくさん迷惑かけるかもしんねぇ。」

 でも、と続ける翔。同時に、抱き締める力が強くなった。それがなぜか、彼が甘えているような気がして。桃香は体を振りほどけなかった。

 その間にも、彼は言葉を紡いでいく。

「でも………桃香が好きってことは、誰にも負けねぇよ。不安なら、何度でも『好きだ』っていうからさ。」

 翔は桃香の体から腕を離すと、もう一度真剣な表情で言った。




「桃香が、好きです。だから、本物の恋人として、俺と付き合ってください。」

 ―――と。

 そう言って翔は、体を彼女から離した。

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