第171話 第三者side

 ―――迷ってる、のだろうか。

 目の前で不安の色を宿す彼女を見ながら、翔はギュッと握りこぶしをつくった。




 なにもできない自分が、とても歯痒く感じた。不安を感じて、どうすればいいか悩む彼女をみて、抱き締めるなり手を差し伸べるなりが出来ない自分。不安を感じさせるようなことをしたのは、紛れもなくここにいる自分だというのに。

 ・・・今、目の前にいる彼女は儚い桃の花のようだ。精一杯咲き誇って散っていく、少し前の状態。手で触れば、すぐにハラリハラリと花びらが落ちていきそうな、そんな状態。


 ・・・以前、幼馴染みが言っていた。

 ―――『桃香はね?前にも話したけれど、今まで周りの人間にいい奴なんていなかったの。いたとしても、馬鹿とクズ共しかいなかったし。私は違うんだけどね?』

 ―――『それに……あの子はさ、言いたいことがちゃんと言えないみたいなんだよね。ずっといじめを受けてたってことも、私に全然言ってくれなかったし。まぁ?そういう風にさせたのは馬鹿とクズ共なんだけどさ。』

 ―――『翔はさ、昔っからそういう些細なことに敏感じゃん?だから桃香のこと、支えてあげてほしいんだ。私だけじゃあ………たぶんだけどあの子が心からの笑顔にならないと思うし。』

 ―――『あ。桃香のクセ、知ってる?不安な時、から。あの子のこと、泣かせたりしたら承知しないんだからね。』

 彼女のこと、クセのこと、たくさんの話をしてくれた。それはそれはとても楽しそうに。




 だからこそ―――翔は桃香が例のクセをしだすと、彼女の手をとって自分の方に引き寄せた。そして彼女の体を包みこむようにして―――そっと、優しく抱き締めた。

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