第170話

 目を見開いた。顔が赤くなって、そして熱が籠ったように体が熱くなった。

 それから緊張が解けて、ペタリと座ってしまった。

「えっだ、大丈夫か!?」

 いきなり座り込んだ私に、翔君が慌てて近付いてきた。そして手を差し伸べてきたので、私はその手を取って立ち上がる。

「ご、ごめんなさい。ありがとう、ございます。」

 立ち上がると、頭を下げる。

「い、いいよいいよ!むしろ、なんにもなくてよかった、うん。」

 ほっと息を吐く翔君。

 しかし、また真剣な表情になると、

「へ、返事が……ほしいです。」

 と言った。

 彼はほんの少し赤くなっていて、でも照れている訳でもなくて。その瞳には、どんな返事でも受け入れる覚悟があった。




(―――返事、か)

 前に嘘をついてしまったおかげで、どうしても素直に『好き』と言えない自分がいる。この変なプライドのせいで、素直にちゃんと言えない。

 不安だって勿論ある。もし私も同じように『好きだ』と言ったとして、そのあと私は翔君と付き合ったりするのだろうか。

『好き』って言われたのは、とても嬉しいんだよ?涙が出そうなくらい。考えてしまっていた不安という不安が、ポーンと全部飛んでいくくらい。

 それでも―――やっぱり怖いんだ。あの人たちのように、これも冷やかしの一部に過ぎないんじゃないかって。

 そんなことを翔君は絶対にしない。そう信じていても・・・トラウマは、まだ心の奥底に燻っているから。







(……怖い、な…………………)

 無意識に、手をギュッと握り締めた。

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