第140話 第三者side

 今度こそ、桜子は立っていられなくなった。尻餅をつき、ガタガタと体を震わせた。

 そしてその時に、静がこの場にやって来たのだった。




 翔の圧力を受けた静は、冷や汗が流れるのを感じながら、彼の元へと歩いて行った。そして、スパンッ!と頭を叩いたのだ。

「ってぇ!」

 叩かれた翔は、ズキズキと痛む頭を抱えた。で、涙目で静を睨んだ。

「んでお前は叩いた!?痛いじゃんか!」

「どんだけ相手を怯えさせれば、あなたは気付くんです?やり過ぎですよまったく。」

 呆れたように、静はため息をつく。それに対して、翔はぶつぶつと呟きながら答えた。

「んなこと言ったってよぉ………紅さんが怪我してるしよぉ、それ見たらイライラが溜まるしよぉ………。」

「言い訳は聞きません。っていうか………また怪我してるんですか!?それを早く言え!」

 静がキレた。そのあと深くため息をついて翔の腕のなかにいる桃香の体を見る。

 上半身に目立った怪我はない。あるとすれば、頬にある腫れのみだ。

 対して、下半身は怪我が多い。内出血はもちろんのこと、左足が腫れているのが分かる。―――恐らく、ここで怯えている彼女がやったのだろう。

 そう静は推測した。

「………とりあえず、どうしますか?まだなにかあるのなら、先に保健室に行きますが。」

 静が声をかけると。

「いや、もうないから。あと、紅さんは俺が運ぶよ。」

 翔はゆっくりと桃香を抱き上げた。苦しくないように、彼女を体でしっかりと支えながら。

「では、先に保健室に行っておきますね。先生に伝えてきます。」

「頼む。」

 静は頷くと、その場を去った。翔は桃香の額にそっと唇を近付けると、ゆっくり歩き始めた。




 ―――その時。

「っ翔様!」

 さっきまで怯えていた桜子が叫んだ。彼は立ち止まると、彼女の方を見た。

 桜子はまだ震えていた。しかし、それでも聞きたいことがあったため、それを覚悟で叫んだのだ。

「何故………っ何故、その方なのですか!?」

 震える声で、彼女は聞いた。手をギュッと握りしめ、涙目になりながら。

 翔はその問いに、きっぱりこう答えた。




「理由なんかない。けど、俺が守ってやりたい………って、そう思ったんだ。」

 ―――と。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る