第138話 第三者side

     * * * * *


 静が来る数十分前。

 翔は彼女―――桃香の元へと走った。そして、唖然としている女子生徒たちの手を桃香から引き剥がすと、彼女の体を自身のところへと引き寄せた。

 まだ呆然としていた桜子だったが、ハッと正気に戻ると、

「な、何故このような場所に翔様が…………っ!?」

 今度は焦り始めた。

 桜子の『翔様』という言葉に、翔は内心吐き気がしたが、今は耐えた。

 そして、

「………なぁ、なんで彼女は怪我してんだよ?」

 あの『告白』の後の時よりももっと低い声で、彼女らに問いかけた。ほぼほぼ無意識に。




 彼は―――翔は今、猛烈に怒っていた。




 その場の温度が、数十度ほど下がった。

 あまりの温度の変化に、彼女たちは体を震わせた。冷や汗が止まらず、ましてや動くことさえもできない。

 それでも―――翔は、怒りを消そうとはしなかった。更にもっと、その場の温度を下げた。


 そんな中―――彼の怒りに気付いているのか否かわからないが―――声を発した者がいた。そう、苺坂 桜子である。

 彼女は冷や汗をかきながらも、

「っ何故、翔様はここに来たのですか………っ!」

 震える声で翔に聞いたのだった。



 ギロリと、翔は彼女に目だけ向けた。そして睨み付けるように、彼女を見た。

 それを見た桜子は、またビクッと体を震わせた。しかし、それでも逃げ出そうとしなかった。それもそうだろう、彼女は翔が好きで好きで仕方がないのだから。もしかすれば、彼は私の思う通りの言葉を・・・なんて考えてるくらいなのだから。



 ―――しかし、現実はそう甘くないもので。

「…………お前には、関係ないだろ。」

 そんな翔の、無機質な言葉がその場に響いた。

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