第136話 第三者side

 彼は、たむろっている野球部員の間を通って雪乃の元に来ると、

「大丈夫です。大丈夫ですから。」

 そう呟きながら、彼女の背中を擦り始めた。それから、一緒に持ってきたビニール袋を彼女の口に添えた。

「ゆっくり深呼吸してください。大丈夫、ゆっくりでいいですから。俺が側にいます。だから、大丈夫です。」

 静の言葉に従い、雪乃は深呼吸をし始めた。


 浅かった呼吸が、少しずつ元に戻り始めた。そして、ようやっともとの呼吸になった。

 雪乃は、最後にもう一度深呼吸をすると、静の体に持たれかかった。

 それを確認した静は、

「持ち上げます。掴まっててください。」

 一言彼女に言ってから、ゆっくり雪乃を抱き上げた。

 その時にちょうど、野球部の顧問が異変に気付いてやってきた。

「おいお前らっ、ボサッとせんと練習しろ!一体何があった!?」

「それが―――…………。」

 野球部員の一人が、顧問に説明を始めた。

 その間に、静は校舎に向かって歩きだした。部員による人垣が、ざっと校舎までの道をつくる。その間を、静は歩いた。


「っ氷我!そこで待て!」

 顧問が慌てて声をかけた。しかしそれを無視して、彼は校舎の中へと入っていった。


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